第043話 お疲れ


「こんにちは」


 パメラは部屋の中をキョロキョロと見渡しながら挨拶をしてくる。


「よう。どうした?」

「変わった内装だなって思って……ん?」


 パメラが扉の前に並べてある俺とAIちゃんの靴をじーっと見た。


「あ、靴は脱げよ。悪いが、俺はそういう生活をするところから来たんだ」

「なるほど。ユウマさん、ちょっとお時間をいただいてもいいですか?」


 パメラはそう言いながら靴を脱ぐ。


「いいぞ。まあ、座れ。AIちゃん、お茶」

「はい、ただいまー」


 AIちゃんがお茶を準備しだした。


「お構いなくー」


 パメラが座りながらAIちゃんに声をかけるが、AIちゃんはお茶の準備を止めない。


「パメラ、何の用だ?」

「あ、そうでした。昨日の件なんですけど、詳しい話を聞いてもいいですか?」

「ギルドに行くんじゃなかったっけ? ジェフリーは?」

「今朝、王都から先行隊が到着しましてね。その対応に追われているので私が来ました」


 そういや、明朝に着くって言ってたな。

 そりゃ、忙しいわ。


「それで?」

「まずなんですけど、昨日の夜に話し合いをし、決定したことを伝えます。今回のことは基本的に公表しません」


 しないの?


「なんで?」

「魔族が関わっているからです。ユウマさんは詳しくないでしょうけど、この世界において、魔族は人々から恐れられているんです……あ、ありがとうございます」


 パメラがお茶を持ってきてくれたAIちゃんにお礼を言う。

 AIちゃんは俺のところにもお茶を置くと、お盆を抱えたまま俺の横にちょこんと座った。


「つまり住民の混乱を避けるためか?」


 お茶を飲みながら話を続ける。


「はい。魔族が関わっていると知ったら混乱しますし、この町を出ようと考える者も出てきます。特に商人ですね。これは非常にマズいです」


 まあ、そんな気がするな。

 政治には詳しくないが、商人に出ていかれたら困るだろう。


「隠すのは住民だけか?」

「いえ、冒険者にも秘密にします。今回のことを知っているのはギルドや町の上層部だけです。もちろん、国にも報告はしますが、何にせよ、まずは調査をしてからですので。それと、もちろん、私もですが、ナタリアさんやアリスさん、それにアニーさんを始めとする【風の翼】には緘口令が敷かれます。あなたも絶対に漏らしてはいけませんよ?」


 魔族ってそんなに恐れられているんだな。


「わかった。言わないようにする」

「はい。それとですけど、大蜘蛛ちゃんでしたっけ? あれも言わないでもらえると……というか、今後、出さないようにしてもらえません?」


 まあ、そうなるだろうね。


「いいぞ。というか、大蜘蛛ちゃんを出すなんて滅多にないからな。どこで使うんだよって感じ」


 大きすぎ。


「それは良かったです。正直、私もビビりまくってましたから」


 俺もちょっとビビった。

 性格が好戦的すぎるんだもん。


「あれはどういう扱いにするんだ?」

「思案中です。調査が終わったタイミングまでに考えます」

「あれは森に住む神様だ。森を荒らす魔物に怒り、具現化したんだろう」

「そういうことにするかもしれませんね」


 それでいいじゃん。

 俺の大蜘蛛ちゃんをバケモノ扱いするな。


「ちなみにだが、今後、森には行けるのか? というか、冒険者の仕事はできるのか?」

「それなんですけど、当分は難しいかと……」


 だろうなー。


「仕事を考えないとな……」

「すみません。ギルドも町もまだ方針が決まってないんです。しばらくはかかるかと……」


 仕方がないわな。


「まあ、適当な仕事を見繕ってくれ」

「わかりました。それでスタンピードの発生原因のことなんですけど、なんであんなに大量の魔物がいたんですか?」


 パメラが聞いてくる。


『マスター、例の鏡ですが、燃やしたことにしてください』


 AIちゃんが念話で伝えてきた。


「魔族が言うには転送装置みたいな鏡を使って、魔物を呼び出していたらしい」

「鏡?」

「俺もよくわからんが、レアって言ってたな。ただ、魔力の低いゴブリンやオークくらいしか転送できないらしい」

「なるほど……それを使って魔物を呼び寄せていたわけですか……その鏡は?」


 AIちゃんに従っておくか……


「燃やした。魔族との戦闘中に隙をついて燃やしたんだ。これ以上魔物を呼び出されたら厳しいと判断した」

「それもそうですね。調べたいとは思いますが、危険なアイテムを早めに処理できてよかったです。魔族はどんな人でした?」

「不健康そうな男だったな。魔力はそこそこだったが、特殊な魔法を使っていた。スヴェンって名前らしい。後はわからん」


 すぐに逃げたし、たいした情報はないな。

 

「そうですか……わかりました。この事をジェフリーさんに報告しようと思います」

「頼むわ。しかし、お前、目の下の隈がひどいな」


 美人が台無し。


「寝てないからね」


 仕事の話を終えたパメラが素で話す。


「大変だなー。お菓子でも食ってけ。AIちゃん」

「はいはーい」


 AIちゃんが立ち上がると、棚まで行き、お菓子を取って戻ってくる。


「どうぞー」

「ありがとう…………あー、糖分が染みるなー」


 パメラがしみじみとお菓子を食べながらお茶を飲む。


「よー働くな」

「命を懸けた冒険者や兵士と比べると、私達は何もしてないからね。このくらい働くわ」

「パメラ、上に報告すると言ったな? 俺の扱いはどうなる? 英雄か? それともバケモノか?」


 前世でもそうだったが、持ちすぎる力は敵を作る。

 だからこそ、俺達は政略結婚で王族や他の貴族と繋がるのだ。


「今は何とも……ただ、他所の区のギルドにはユウマさんがバレたと思う。大蜘蛛ちゃんはともかく、例の金色の火魔法を使ったみたいだし」


 威力がありすぎたか。

 とはいえ、手加減するような状況ではなかった。


「どうなる? 面倒なのは嫌だぞ」

「多分、西区の区長が対処すると思う。そのうち呼び出しがくるんじゃないかな? 多分、結構な額の報酬がもらえる」


 区長とやらに会うのも面倒だが、報酬をもらえるならいいか。


「わかった」

「よろしく。あー、疲れた。ねえ? いつも床に座っているの?」

「そうだな。そっちの方が楽でいい」

「まあ、そんな気はするけど、眠たくなるわね。このカーペットもふかふかだし」


 パメラが床に敷いてあるカーペットを撫でる。


「実際、飯食った後は眠くなるな」


 ちょっと転がったら寝てしまう。


「楽しそうね……さて、仕事に戻るわ」


 パメラがそう言って立ち上がった。


「無理するなよー」

「単身で森に突っ込む人に言われたくないですね」


 パメラが苦笑いを浮かべる。


「私もいましたよ!」


 AIちゃんが手を上げた。

 まあ、いたね。


「そうでしたね……では、ギルドに戻ります。また何か決まれば連絡しますのでしばらくは休んでいてください」

「わかった。お前も適度に休めよー」

「はい。では、失礼します」


 パメラは微笑むと部屋を出ていった。


「マスター、パメラさんもあと一押しですよ!」

「お前は何を言っているんだ?」


 あと、“も”って何だよ……


「だって、年頃の女性が一人で抵抗なく、男性の部屋にあがってましたし……」


 いや、お前がいるだろ。

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