第044話 異世界転生


 パメラが帰った後、部屋でゆっくり過ごしていると、夕食の時間となった。

 夕食を自室でナタリアとアリスと食べ、パメラの話を報告する。

 そして、夕食を食べ終えると、ナタリアとアリスが自室に戻ったのでナタリアに借りた本を読み始めた。


「AIちゃんさー、その本、面白い?」


 ベッドの上で似たような本を読んでいるAIちゃんに聞いてみる。


「そこそこですね」

「そっかー……俺が読んでいる本だけど、かっこいい男に惚れられる女の話で終始イチャイチャしているんだけど……」


 何これ?

 どういう感情で読めばいいんだ?


「こっちの本も似たような話ですよ。王子様の話です。マスターは好まれないかもしれませんね」

「こっちの世界の人間ってこんな話が好きなのか?」

「いえ、これは女の子が好きな話ですね。男の人は冒険とか戦記物じゃないですか?」


 そっちの方が良いなー……


「買ってみるか……しかし、ナタリアの奴、こういうのが好きなんだな」

「まあ、17歳ですからね。99歳のおじいちゃんとは感性が違うでしょ」

「それもそっかー……なんか唐突にキスされて恥ずかしがってるけど、事案ものだろ」


 士族の連中だったら腹を切らされるぞ。


「マスター、絶対にその感想をナタリアさんに伝えないでくださいね。老害みたいで嫌われます」


 うーん、まあ、自分が好きなものを否定されるのは嫌がるか。


「他の連中もこういうのが好きなのかね?」


 アリスやパメラはわからないが、アニーは嫌いそうだ。


「さあ? 私は嫌いじゃないですけどね」


 AIちゃんも女の子か……

 式神でスキルだけど。


 一応、最後まで読もうと思い、本を読み続けると、第二のかっこいい男が現れたところで部屋にノックの音が響いた。


「んー? 誰だー?」

『私。ちょっといいかしら?』


 アニーの声だ。


 本を置き、立ち上がると、扉まで行く。

 そして、扉を開けると、相変わらずの薄着の寝間着を着た赤髪の女が立っていた。


「なんだ?」

「こんな時間に悪いわね。レイラさんが呼んでる」


 レイラってこのクランの代表だったな。


「王都から戻ってきたのか?」

「ええ。スタンピードが起きたからさすがに用事を投げ出して戻ってきたわ。夕方くらいに王都の軍と一緒に来たらしい」

「なるほどな。どこに行けばいい?」

「3階よ。案内してあげる」


 アニーはそう言うと、振り向き、階段の方に向かう。


「AIちゃん、行くぞ」

「はーい」


 AIちゃんを呼び、部屋を出ると、アニーについていった。

 そして、階段を昇っていく。


 前を見上げると、薄着のアニーの後ろ姿が目に入る。

 アニーは薄いというか、透けている服を羽織っているが、透けすぎて下着が見えている。

 というか、羽織っている服の下が下着だけだ。


「お前、そんな格好でうろつくなよ」


 さすがに苦言を呈した。


「外に出ないから大丈夫」


 文化の違いだろうか?

 俺には痴女か娼婦にしか見えん。


「AIちゃん、ああいうのは学習するなよ」

「しませんよ。というか、私がああいう格好をしてもねー……」


 風邪引くからちゃんと着なさいっていう感想しか出てこないな……


「昨日から聞きたかったんだけど、あなたって女嫌い? 男好き?」


 アニーが聞いてくる。


「そんなことはないな…………ないよな?」


 不安になったのでAIちゃんに確認してみた。


「ないですね。男色は好まれない御方でした」

「ふーん……」


 アニーは立ち止まると、振り向き、俺の顔を覗き込んでくる。


「なんだ?」

「女好きには見えないなと思って。全然、私の身体を見てこないし」

「見て欲しいのか? 悪いが、俺は女性を不躾に見るなという教育を受けている」


 見るのは自分の嫁くらいかね?

 覚えてないけど。


「それは良いことね」


 アニーは笑うと、再び、階段を昇り出した。


「アニー、パメラから緘口令のことは聞いたか?」

「ええ。でも、そんな指示をされなくても誰にも言わないわ。言うメリットがないし、私達は仲間を守る。それがパーティーであり、クラン」


 かっこいいし、良いことを言っているんだがなー……

 昼間に聞けばよかったわ。


 俺達は階段を昇り、3階までやってくると、一番手前の部屋の前に立った。


「ここがレイラさんの部屋。一応、ここまでは来てもいいけど、この先は男子禁制ね。じゃあ、おやすみ。あ、それとナタリアの部屋はあそこね」


 アニーはとある扉を指差すと、そのまま通路を歩いていってしまった。


「この世界は夜這いが普通だったりするのか?」

「そんなわけないでしょ。多分、冗談だと思います」


 この世界に来たばかりの異世界人に言う冗談じゃないな。

 俺の国にも地方によってはそういう文化もあるし。


「まあいいか。さっさと挨拶をして寝よう」


 俺は扉を見ると、ノックした。


『どうぞ』


 部屋の中から女の声で入室の許可を得たので扉を開ける。

 すると、そこにはソファーに腰かけ、書類を読んでいる黒髪の女性がいた。


「こんな夜更けに失礼する」


 そう言って、AIちゃんと共に部屋に入る。


「私が呼んだんだ。こちらこそ悪いな。実は明日の朝にはまた王都に行かないといけなくてな……」

「夕方に着いたばかりなのに大変だな」

「それは仕方がない。クランの代表だし、スタンピードはなー……」


 レイラが苦笑いを浮かべると、書類を目の前の机に置いた。


「すまん。ベッドにでも腰かけてくれ」


 そう言われたのでAIちゃんと共にベッドに座る。


「はじめましてだな。私がこのクランの代表を務めているレイラだ」


 ベッドに座ると、レイラが自己紹介してきた。


「どうも。俺はユウマだ。こっちはAIちゃん。数日前にこの世界に来たんだが、ナタリアとアリスに出会ってな。その縁でパーティーを組んだ。それと部屋に住まわせてもらっている。挨拶が遅れてしまい、申し訳ない」

「いや、それは構わないし、好きにしてくれていい。ウチのクランは自由をモットーにしているんだよ。とはいえ、仲間も施設も大事にしてくれよ」


 こいつ、太っ腹だし、良い奴だな。

 慕われている理由がよくわかる。


「まだリリーという子に会ってないから正式にパーティーを組むかはわからんが、一応、世話になるつもりだ。よろしく頼む」

「はい、わかった。ウチはそんな規模の大きいクランではないし、特に上を目指そうという気概はない。自分のペースでやってくれればいい」

「お前、Aランクだそうだな? 魔力も高いし、実力はあるだろう。上を目指さないのか?」


 レイラは隠しているようだが、かなりの魔力を秘めている。


「私にそこまでの情熱はないよ。ただ、わざわざ慕ってくれ、ここまで来た子達に何かをしたい。だからクランを結成してこの施設を建てた。後はお前達が好きにすればいい」


 神か仏だろうか?


「立派だな」

「別にそんなことない。当然のことだ。私は自分の正義を進む。親からそう教わった」


 良いところの子なんだろうか?


「そうか……スタンピードのことは?」

「聞いたよ。ご苦労さん。私は間に合わなかったが、よくやってくれた。色々と面倒ごとがありそうだが、ひとまずは町を救えてよかったと思う。後はこちらでも区長や王都のギルドと協議して上手い具合になるようにしよう」

「どうも」

「さてと……」


 レイラが立ち上がると、俺達のそばまでやってくる。

 そして、AIちゃんをじーっと見下ろし始めた。


「何でしょう?」


 AIちゃんが首を傾げる。


「金狐の式神か……如月ユウマとは本名か?」


 レイラがAIちゃんを見下ろしながら聞いてきた。


「正式にはもっと長いが、それが本名でいいぞ」

「そうか……如月の……」


 レイラがちらりとこちらを見てくる。

 その目は真っ赤に染まっていた。


 この目は……


「天霧の一族か」


 天霧家は陰陽師の家で如月家と並ぶ名家中の名家だ。


「まさかこんなところで如月の一族に会うとはな……霊力の質から見ても金狐の子か…………お前、如月の麒麟児だな」


 赤目の女が不気味に笑う。


「麒麟児なんて呼ばれていたかどうかなんか知らん。だが、金狐の子というのは合っている」

「初めて会うが、確かにたいした霊力だ。それに妖狐の妖力も持っている」


 レイラが目を細めた。


「お前、誰だ? 霊力の質やその赤目から見ても蛇の神の一族である天霧家の者だと思うが、天霧レイラなんて知らんぞ」

「レイラはこちらの世界の名だ。本名は天霧えんじゅだ」


 えんじゅ……

 20歳までの記憶しかないが、えんじゅは天霧家の先代当主の名だ……

 そして、えんじゅは俺が子供の頃に死んでいる……


 父上と母上が性悪ババアと愚痴っていた陰陽師業界一の嫌われ者が異世界に転生してるし……





――――――――――――


ここまでが第1章となります。


これまでブックマークや評価をして頂き、ありがとうございます。

皆様の応援は大変励みになっており、毎日更新することができております。

また明日から第2章を投稿していきますので、今後もよろしくお願いいたします。

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