第042話 帰還


 スタンピードの原因の対処した俺達は復活した蜂さんに乗り、町に戻ることにした。

 徐々に暗くなってくる上空を飛んでいると、町の近くまで戻ってくる。

 すると、あちこちで燃え上がるチリル平原と大量の魔物の死体、そして、逃げる魔物を追う大蜘蛛ちゃんとすれ違った。


「大蜘蛛ちゃん、頑張ってるなー」


 蜂を空中で止めると、魔物を踏みつぶしている大蜘蛛ちゃんを見ながらつぶやく。


「怖いですよ……リンクしてみましたが、死ねを連呼しながら笑っています……」


 怖いね……


「もう魔物も潰走したみたいだし、消しとくかな……」

「それがいいと思います。魔物も明らかに戦意を失っているようです。恐らくですが、あのスヴェンが狂化の魔法を使っていたんでしょう」


 そのスヴェンがいなくなって効果が切れたわけか……

 平静になれば、知能の低そうなオークやゴブリンでも大蜘蛛ちゃんに勝てるわけないのはわかるもんな。


「大蜘蛛ちゃん!」


 呼び止めると、大蜘蛛ちゃんが動きを止め、こちらを見る。


 よかった……

 言うことを聞いてくれたわ。

 意志を持っているらしいし、ちょっと不気味だから言うことを聞いてくれないかと思ったわ。


「戻れ」


 俺はそう言って、大蜘蛛ちゃんを消した。


「まだ殺せたのにーって言ってましたね」


 ま、まあ、蜘蛛は肉食だからな。

 ちょっと凶暴でも仕方がない。

 狐も肉食だけど……


「AIちゃん、帰ろう」

「そうですね」


 俺達はそのまま蜂さんに町まで送ってもらう。

 そして、町まで戻ると、防壁の上に降り、蜂さんを消した。

 防壁の上には出発した時と変わらないメンツに加え、ジェフリーもいるが、他の冒険者はおらず、数人の兵士がいるだけだった。


「ただいま」

「…………おかえり。どうだった?」


 蜂さんを消すと、アリスが聞いてくる。


「終わったぞ。もう魔物がやってくることはないと思う」

「ユウマ、詳しく話してくれ。こっちは化け蜘蛛が暴れていたのだが、急に魔物共が逃げ出したんだ」


 ジェフリーが説明と経緯を求めてきた。


「スタンピードの発生原因を見つけたから行ってみたんだ。そしたら、変な男がいた。AIちゃんいわく、魔族だって」

「……魔族だと!? それは本当か!?」


 ジェフリーが顔を近づけ、周囲に聞こえないようにしながら声を荒げる。


 近い……

 パメラとの差がすごい。


「本人もそう言ってたし、本当じゃないか? 俺は見たことも聞いたこともなかったから知らない」

「魔族……」


 ジェフリーが神妙な顔で悩み出す。


「とにかく、その魔族が原因だった。でも、逃げたし、原因もなんとかしたからもう大丈夫だぞ」

「逃げた? 魔族がか?」


 ジェフリーが意外そうな顔をした。


「そうだな。ちょっと撫でてやったらダサい捨て台詞を吐いて逃げやがった。悪いが、森に不慣れだから追わなかった」

「戦ったのか……危ないことをするな、お前。魔族は強敵だぞ」


 そうなのか?

 まあ、全員が全員強い訳ではないだろうし、あんなせこいことしていたような奴だから弱い魔族だったんだろう。


「だから知らないんだって。俺はこの前、ここに来たばかりだぞ。それにまあ、たいした相手ではなかった」

「そうか……詳しい話を聞きたいが、後にしよう。とにかく、原因を処理してくれて助かった。また、化け蜘蛛を出してくれたおかげで何とかなったわ」


 まあ、大暴れしてたみたいだしなー……


「これからどうするんだ?」

「今はまだ待機だ。とはいえ、冒険者達には休むように言ってある。今夜は兵士が見張りをするから各自、身体を休めてくれ」


 魔物が逃げ出したとはいえ、また来る可能性もあるからな。

 もっと言うと、大蜘蛛ちゃんが引き返してくるのが怖いんだろう。


「なあ、大蜘蛛ちゃんはどう説明するんだ?」

「それは魔族のことも含めてこれから考える。後で使いを出すからギルドに来てくれ」


 報酬はくれるんだろうか?


「わかった。クランの寮に戻っていいのか?」

「ああ、構わん」


 自分の家の布団で寝れるのか。

 それはありがたい。


「お前らはどうするんだ?」


 この場に残っている女共に聞く。


「いや、私らはあんたを待ってたのよ」


 アニーが腕を組んで答えた。


「あ、そっか……悪いな。眠いし、帰ろうぜ」

「そうね」

「…………眠い」


 朝早くから起きてずっと戦いっぱなしだったもんな。


 俺達は休むことにし、この場をあとにすると、クランの寮に戻り、解散となった。

 俺は自室に戻ると、風呂に入り、就寝する。

 この日の夜は特に招集もなかったし、魔物の魔力も感じなかったのでちゃんと朝まで眠ることができた。


 起きた後も特に何も起きなかったのでAIちゃんと部屋でゴロゴロしていると、ノックの音が部屋に響く。


「誰ー?」

『あ、私です』


 この声はパメラだ。


「入っていいぞ」


 入室の許可を出すと、ガチャっと扉が開き、パメラが部屋に入ってきた。

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