第041話 黄金 ★


「ふう……」


 俺は燃え広がったダークフレイムを見て、一息ついた。


 得体の知れない相手だったがこんなものだ。

 避けることもできずに燃え尽きただろう。

 こちらの魔力を見破られた時は少し焦ったが、もしかしたらそういうスキルを持っていたのかもしれない。


「後は……」


 俺は木の後ろに隠れ、顔を覗かしているガキを見ると、手をかかげた。


 こいつを処理してしまい、魔物の転送作業に戻ろう。

 もっとも、もう町を落とすには十分すぎる魔物は出しているし、後は念のための作業にすぎない。


「死ね、ガキ」


 木の裏に隠れているガキに向かって火魔法を放った。

 すると、すぐに木ごと燃え上がる。


「…………は?」


 思わず声が出た。

 何故なら、木は燃え上がり、真っ黒に焦げたのだが、木の裏にいるガキは火傷一つついていない。

 ただ、ずっと同じ体勢でこちらを覗き込んでいた。


 ど、どういうことだ?

 魔法障壁でも張っていたか?

 いや、そんな魔力は感じなかった!


「すまんね」


 今度はダークフレイムの方から声が聞こえた。

 すると、異様なまでの魔力を感じた。


「な、なんだ?」


 ダークフレイムの中から先程の男が無傷で出てくる。


「実を言うと、俺もAIちゃんも火はまったく効かないんだよ」


 そう言う男の目が金色に輝いている。

 いや、そんなことはどうでもいい!

 それよりもこの異常なまでの魔力は何だ!?


「き、貴様、人間じゃないな!?」


 ありえない。

 人族とは思えない魔力だ。

 しかも、魔力の質が我ら魔族に近いくらいに悪質だ。


「人間、人間。どう見ても人間だろう?」


 そう言って笑う男の姿はバケモノそのものだった。


「くっ! 魔人か!」

「いや、知らん。なんだそれ?」


 クソッ!

 不気味な男だと思っていたが、人であって人でない魔人だったか!


「白々しい! 炎が効かないならこれでも食らえ!」


 指を向け、光線を放った。

 光線は男の顔に一直線で向かう。

 しかし、男の顔に当たる直前で霧散してしまった。


「は?」


 な、何が起きた?


「同じ魔法を何度も使うなよ。対策してくれって言っているようなものだぞ?」


 な、何を言っている!?

 対策って何だ!?


「まあ、こんなものか……暗くなりそうだからさっさと終わらせてやろう」


 男は空に向かって手を上げた。

 すると、一瞬にして巨大な金色の火球が現れる。


「な!?」


 速い!

 魔法の展開が速すぎる!

 あんな上級魔法を一瞬で作りやがった!


「黒い炎はダサいからやめた方が良いぞ。じゃあな」


 男がそう言うと、金色の火球が迫ってきた。

 そして、一気に燃え広がる。


「がっ!」


 何という熱量だ!

 マズい!

 結界が破られる!


「クソッ!」


 俺は全魔力を使って再度、結界を張ると、何とか飛び上がって避難する。

 そして、木の枝に飛び降りた。


「よく逃げられるなー」

「貴様、名は何という?」

「俺? ユウマだ」


 ユウマ、か……


「覚えておこう! 次に会った時がお前の最後だ!」

「ないない。ところで、お前の名は?」

「俺はスヴェンだ! 次に会うのを楽しみにしているぞ、ユウマ!」


 俺はそう言い残すと、さっさとこの場から離れることにした。




 ◆◇◆




 スヴェンはかっこつけながら逃げていった。


「だっさ……」


 終始劣勢だったくせにどうしてあそこまで言えるかね?

 俺が追っていったらどういう顔をするんだろう?


「マスター、ご無事ですかー?」


 AIちゃんが木の裏から出てくると、走ってこちらにやってくる。


「まあな。魔族ってあんなんなのか?」

「さあ? 私もデータを持っているだけで直接会うのは初めてです」

「変な奴だったな」


 粋がるなって言ってたけど、自分が一番粋がってた。


「まあ、そうですかね? ところで、逃がして良いんです?」

「知らない土地で追うのものな……それにもう夜になる。さっさと戻ろう」

「それもそうですね。というか、早く大蜘蛛ちゃんを消した方が良い気がしてきました」


 確かに……


「そうだな……AIちゃん、あの鏡をどうしようか?」


 向こうで落ちている鏡を見る。


「ちょっと見てみましょう」


 AIちゃんがそう言って鏡のところに歩いていったので俺も後ろをついていく。

 鏡の前まで来ると、AIちゃんが鏡を拾い、覗き込んだ。


「どうだ? 何かわかるか?」

「少々お持ちを……インストール中……インストール中……インストール中……インストール完了……確かに転送装置のようですね」


 便利な子。

 やっぱり連れてきて正解だった。


「仕組みは?」

「対なる鏡が別の所に設置されており、そこと繋がっているようです。魔力を流せば繋がるようですね」


 すげーな。


「危険だし、没収しておこう。しまっとけ」

「はい」


 AIちゃんは頷くと、空間魔法を使い、鏡をしまった。


「しかし、そうなると、なんでこんな森の中なんだろう? 町中で繋げればいいのに」

「そうしない理由があるのでしょうね。しかし、情報が少なすぎて不明です」


 それもそうか……


「元は絶ったし、戻ろう」

「はい」


 町に戻ることにしたので懐から護符を出すと、再び、蜂さんを出す。


「蜂さんだー」


 AIちゃんが嬉しそうに言うと、蜂さんも嬉しそうに上下に飛ぶ。


「こいつもか……なんか俺の式神が皆、意思を持っているっぽいなー」


 一番顕著なのはカラスちゃんだけど。


「そりゃマスターのスキルは人工知能ですもん。私とリンクしていますし、式神達もリンクしています。意思くらいは持ちます」


 俺のスキルのせいかい……

 ということは大蜘蛛ちゃんもか……


「急ごう。意思を持った大蜘蛛ちゃんが怖い」

「それもそうですね」


 俺達は蜂さんに乗ると、さっさと戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る