第040話 敵
「マスター、森が見えてきましたよ!」
AIちゃんが言うように前方には森が見えている。
「敵の攻撃があるから気を付けろよ」
「はい!」
AIちゃんは頷くと、俺の背中に抱きついてきた。
そのまま飛んでいくと、森の中にいる魔物の数が徐々に減ってくる。
「マスター、あそこです!」
確かにカラスちゃんとリンクしてみた場所だ。
つまり……
「下か!」
俺は魔力を感じ、AIちゃんを抱きかかえながら蜂さんから飛び降りた。
すると、蜂さんが謎の光線に貫かれ、消滅する。
「あー! 蜂さんがー!」
それどころではない。
次は俺達の番だ。
俺はすぐに懐から護符を取り出す。
すると、予想通りに光線が飛んできたので護符で結界を張った。
光線は結界に当たるが、貫くことはできずに止まった。
しかし、当たり前だが、俺達はそのまま森に落ちていってしまう。
途中、木の枝に当たったりして、結構痛かったが、何とか着地というか、地面に落ちた。
「いたた……」
背中を打った……
「大丈夫ですか!?」
傷一つないAIちゃんが聞いてくる。
「大丈夫。しかし、よく考えたらお前を庇う必要はなかったわ」
抱いていたAIちゃんを庇うために余計に枝に当たり、着地にも失敗してしまった。
「本当ですよ。むしろ盾にするぐらいでいいです」
いや、小さい子を盾にするのは難しい。
「まあいい。それよりも誰かいるな……」
「はい。確かにすごい魔力を感じます。おそらくですが、さっきの光線を出した者でしょう」
あれも魔法かね?
「行くぞ。こっちだ」
「はい!」
俺は立ち上がると、大きな魔力を感じるところに向かって歩いていく。
「魔物が消えたな……」
周囲には魔物の魔力を感じない。
感じるのはでかい魔力一つだけだ。
「私達への対処に力を注ぐつもりなのでしょう。どうやら今回のスタンピードは人為的に魔物を発生させていたようですね」
俺もそう思う。
そして、魔力を隠していないところを見ると、こっちに来いって言っているな。
俺達がそのまま歩いていくと、少し開けたところに出る。
そこには一人の男が立っていた。
男は青白い肌をしており、とても健康的には見えない。
しかも、髪が白く、おじいちゃんみたいだった。
だが、顔つきや肌は若い青年っていう感じであり、よくわからないが、これまで見てきた人間とはどこか違っている。
「やはりあの時の貴様か……俺の魔法を防ぐとはたいしたものだ」
男がフッと笑う。
「誰だ? 知り合いだったら悪いな」
「いや、俺が一方的に知っているだけだ。お前は気付いていないだろう」
「あー、昨日の……」
今気づいたが、昨日の違和感はこいつだ。
変な感じがしたが、今感じているこいつの違和感と同一のものだ。
「チッ! 気付いていやがったか……」
男が舌打ちをした。
「マスター、この者は魔族です」
「ほう……」
AIちゃんの言葉に男が感心する。
「魔族って?」
「前にこの世界にはいくつかの種族があることを言いましたよね? その一つが魔族です。生まれつき高い魔力を持ち、残虐で非道な種族である人類の敵です」
まあ、いい人には見えんな。
「魔族ねー……スタンピードだっけ? 魔物を発生させていたのはお前か?」
一応、聞いてみる。
「そうだ。あそこに鏡があるだろう?」
男が自分の後ろを指差した。
男の後ろには確かに鏡が転がっている。
「あるな」
「あれは転送装置だ。あれで各地から魔物を呼び出している」
すごく便利だな。
「欲しいな」
「お前が持っていても使えんぞ。あれはゴブリンやオーク程度の魔力を持つ者しか転送できない」
だからオークとゴブリンしかいなかったわけね。
町を滅ぼしたいならもっと強力な魔物を呼べばいい。
「原因はよくわかった。壊すか……」
「レアなアイテムなんでやめてほしいな」
「レアだろうが、邪魔だ」
「そうか。では、抵抗しよう」
男が構える。
「抵抗? まるで俺がお前を殺そうとしているみたいな言い方だな?」
「違うのか?」
「逆だろう? お前が俺を殺そうとしているのだ。素直にべらべらとしゃべっているのは俺を殺すつもりだからだろう? それと少しは殺気を隠したらどうだ? 残虐非道の魔族君」
俺がそう言うと、男がニヤリと笑った。
「炎よ!」
男が手をかざすと、炎が俺達を襲う。
だが、炎が到達する前に護符を投げると、炎が一瞬にして消えた。
「やはり妙な魔法を使う……………貴様、何者だ?」
「冒険者だな。何者と言われても困るが、転生者ってやつらしい」
「チッ! それでか……良いギフトをもらったらしいな。だが、その程度で粋がるなよ!」
男はそう言うと、腰を落とし、突っ込んできた。
そのまま殴りかかったきたので身体を逸らして躱す。
「死ね!」
男は俺が避けたことで体勢を崩していたが、指をこちらに向けてきた。
すると、指が光り、さっきの光線が勢いよく、俺の顔面に向かってくる。
とはいえ、魔力を感知していたからバレバレだったため、顔を逸らして躱した。
「チッ! ギフト頼りの無能ではないらしいな」
舌打ちが多い男だな……
「マ、マスター、大丈夫です?」
AIちゃんが心配そうに声をかけてくる。
「問題ない。危ないから下がっていろ」
「はーい」
AIちゃんは俺達に背を向け、トコトコと走っていき、木の裏に隠れた。
「残虐非道の魔族君、人質にするといいぞ」
俺はチラッとAIちゃんを見た男に助言をする。
「そんなバレバレな誘いに乗るものか」
「あっそう……」
まあ、人質は意味をなさないからな。
いつでも消せるし、死んだら死んだでまた出せばいい。
「想像以上の強さを持っているようだな…………少しだけ本気を出そう」
「そうだな。まだ1割程度しか出していないようだからもう少し出してくれ。このままでは相手にならん」
そう言うと、男が目を細める。
「良いだろう! 魔族の恐ろしさを教えてくれるわ! 死ねっ!」
男はそう言うと、距離を取る。
そして、両手を俺に向けてきた。
「ダークフレイム!」
男の手から黒い炎が現れると、一瞬にして俺の周囲が黒い炎で燃え広がる。
「すごい魔力だなー」
「くたばれ!」
俺を囲んでいた黒い炎は一瞬にして俺に迫ってくると、俺の視界が真っ黒に染まった。
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