第035話 かわいらしい手
クランの面々が着替えと準備のために各自の部屋に戻っていったので待っていると、一番早くアニーが戻ってきた。
アニーは杖を持っており、多分、魔法使いだと思う。
というか、すごい服だな……
胸元はざっくり開いているし、足もガッツリ出している。
痴女かな?
「早いな」
「私はせっかちなの」
自分で言うかね?
「ふーん、この町の出身だっけ? なんでここに住んでいるんだ?」
実家に住めよ。
「兄夫婦が住んでいる家なんて嫌よ」
あー、なるほど。
「そりゃ家を出るわな」
「そういうこと。それよりもユウマだっけ? 自己紹介が遅れたけど、Bランク冒険者のアニーよ」
アニーが握手を求めてきたので手を握る。
「Bランク? Aランクかと思った」
「ん? なんで?」
「アリスよりも魔力が高いから」
しかも、結構差がある。
「あー、そういうこと。アリスはこの前、Bランクになったばかり。私はBランクになって1年以上経っている。年季が違うわ」
「お前、何歳だ?」
「21歳だけど、なんで?」
やっぱり見た目より若い。
というよりも雰囲気がかなり上に見える。
「いや、ちょっとずれがあってな。俺はユウマだ。聞いているかもしれんが、転生者だな。それでこっちがAIちゃん」
「AIちゃんは知っているわ。よく3階をウロチョロしているし」
ナタリアやアリスを呼びに行っているからな。
「俺が呼びに行くわけにはいかないからな」
「確かに3階は男子禁制よ」
「どちらにせよ、行かんわ。女の部屋には行ったらダメという教育を受けている」
そういう関係なら別だけど。
「あら、紳士…………ねえ、本当に参加するの? 別に逃げても誰も非難しないわよ?」
「さっきも言っただろ。人を救うのが俺の仕事だ。これが戦争なら知ったことではないが、魔物なら範疇だ」
戦争は兵士の仕事。
妖は俺達陰陽師の仕事。
「そう……ありがとうね」
胸元がざっくりと開いている服を着ているアニーが頭を下げた。
わざとやっているんだろうか?
「ちなみに聞くが、依頼料って出るのか?」
「国から出るわよ」
いくらだろ?
まあ、後でいいか。
金額を聞いてやる気がそがれるのは嫌だし。
「まあいいや。俺達って具体的にどうすればいいんだ? 町を出て、白兵戦でもするのか?」
「全員が集まったらまずはギルドに向かうわ。そこでジェフリーから指示をもらう。でも、基本は壁の上から魔法か矢を放つことになると思うわ。私に外に出ろって言われても無理だし」
確かにこの女は無理だな。
素肌を出し過ぎだし、見えている腕も足も細い。
とても戦士には見えない。
「それっぽいな。まあ、ウチの2人もか……」
俺はどうするのかね?
どっちでもいいけど、疲れない方が良いな。
俺とアニーが話しながら待っていると、続々と準備を終えたクランメンバーが集まってくる。
メンバーは俺とAIちゃんを除けば、7人であり、鎧を着ているのはクライヴを始めとする男の3人だけだ。
あとは杖を持っているので魔法使いだろう。
「魔法使いが多いな……」
「このクランのリーダーであるレイラさんは女性だからね。女性の比率が多いんだよ。そうすると自然と魔法使いが多くなる」
ナタリアが教えてくれる。
「そういえば、そういうお前らもレイラに憧れてって言ってたな。というか、俺、会ってないけどいいのかね?」
「帰ったら話がしたいって言ってたよ」
そうするか……
さすがにクランに入れてもらい、住まわせてもらっているわけだから挨拶くらいはしたい。
「余裕があるのは良いことだけど、後にしてちょうだい。行くわよ」
全員が揃ったのでアニーを先頭にクランの寮を出た。
そして、ギルドに向かう。
周囲はまだ暗いが、兵士や冒険者が忙しなく動いている。
まだ町の住民は寝ているのかはわからないが、そういう人達は見当たらない。
だが、商人らしき人が馬車に商品を慌てて詰め込んでいるの光景はあちこちで見る。
「まだパニックにはなっていませんね」
AIちゃんが周囲を見渡しながらつぶやいた。
「こんな時間だからね。早起きで勘のいい商人は逃げ出す準備をしているようだけど、町の人はまだ寝ているんでしょ」
AIちゃんのつぶやきにアニーが答えてくれる。
「知らせないのか? 東門から逃げるべきだろう」
「この町は複雑なのよ。下手をすると、東区の連中とぶつかる」
4つの区に分かれているんだったな……
東区の代表もまずは自分のところの町人を逃がすわな。
「マズくないか? パニックどころか暴動が起きるぞ」
「でしょうね。でも、さすがに区長共もバカじゃない。ちゃんと対処するでしょ。どちらにせよ、私達が勝てばいい」
まあ、そうだけど……
やっぱり代表が4人いるって問題だな。
王は何をしているんだろうか?
「あ、パメラだ」
ギルドまでやってくると、ギルドの前にはかがり火が焚かれており、そこにはパメラが立って、書類を見ていた。
「パメラ」
アニーがパメラに声をかける。
「あ、アニーさん。【風の翼】も参加ですか?」
「私はこの町の出身だからね。一応、全員参加だけど、ごめん……今はリーダーを始め、大半が出張っているの」
「わかってます。参加してもらえるだけでありがたいです……ジェフリーさーん!」
パメラがジェフリーを呼ぶ。
すると、離れたところで兵士と話していたジェフリーがこちらにやってくる。
「【風の翼】か……」
ジェフリーが俺達のもとにやってくると、俺達を見回してきた。
「ええ。9名が参加だそうです」
「レイラは……いや、王都だったな」
クランリーダーは王都にいるらしい。
近いんじゃなかったけ?
はよ来い。
「ジェフリー、私達はどうすればいいの?」
代表のアニーが聞く。
「近接戦闘ができる奴は門に行ってくれ。回復魔法が使える奴は門のそばで待機。攻撃魔法が使える奴は防壁の上だ」
「わかったわ。皆、お願い」
アニーがそう言うと、皆が頷き、持ち場に向かった。
クライヴ達男組とナタリアが門の方に向かい、アリスやアニー達が町を囲む防壁にある階段の方に向かう。
なお、狛ちゃんはどっちに行くか悩むように見比べ、ナタリアの方に行った。
この場には俺とAIちゃんだけが残される。
「俺はどうすればいい?」
回復魔法は使えないからナタリアのところじゃないのはわかるが、門か防壁の上かはわからないのでジェフリーに聞く。
「ん? お前、魔法使いじゃないのか?」
「別にどっちでもできるぞ」
「あー、そういや剣が使えるんだったな。持ってねーけど」
「あるぞ」
俺は懐から大量の護符を取り出すと、霊力を込めた。
すると、護符がバラバラになり、剣の形になる。
「なんだそれ? 紙だろ」
「剣だよ。で? どっち? どっちでもいいぞ」
「当たり前だが、防壁の方が安全だぞ」
そりゃそうだ。
「うーん、じゃあ、最初は外に行くわ。疲れたら上に行く」
「まあ、それでいいが…………このガキは?」
ジェフリーがAIちゃんを見下ろす。
あ、AIちゃんをどうしようか……
「AIちゃん、アリスのところに行こうか」
「私はマスターのスキルです! マスターと共にいます!」
邪魔なんだが……
「まあ、別に死んでも新しい式神を出せばいいか」
「そうです! そうです! 私のこの爪で魔物を切り裂いてやりましょう!」
AIちゃんがそう言って、爪を立てる。
いや、丸いんだけど……
その背中をかくことしかできそうにないかわいい手で何を切り裂くんだ?
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