第036話 白兵戦


 俺とAIちゃんは外で戦うことにし、門の方に向かうと、たくさんの冒険者達らしき人達がいた。

 そんな冒険者達の後方には槍を持ったクライヴと他の2人のクランメンバーがいる。


「よう」


 俺は冒険者達の後方まで行くと、クライヴに声をかけた。


「ん? あれ? ユウマは門の上じゃないのか?」

「いや、どっちでもいいからまずはこっちに来た」

「そうか……そりゃ数が多い方がいいが、鎧は?」


 ここにいる人達は皆、鎧を着ているので非常に目立つ。

 その証拠に皆、俺をチラチラと……いや、AIちゃんを見ていた。


「鎧はいらん」

「いらないです!」


 AIちゃんも答えると、周りの人達が皆、AIちゃんをガン見する。


「……なあ、その子は?」

「一緒に来るって」

「危ないぞ?」


 見た目、子供だもんな……

 俺、子供を戦地に連れていく鬼畜と思われていないかな?


「AIちゃん、なるべく死なないようにな。俺の評判が落ちそうだ」

「わかりました!」


 よしよし。


「ものすごいひどい発言が聞こえたんだが……」


 クライヴがドン引きしている。

 他の連中もちょっと引いていた。


「いや、この子は俺のスキルだから死なないの。それよりもどういう状況だ? 待ちか?」

「門の外ではすでに町の兵士が魔物と戦っているらしい。兵士が引き返して来たら入れ替わるように俺達が突っ込む」

「上から魔法が降ってこないか?」


 怖いんだが……


「俺達が戦っている間は遠くにしか撃たない。上の援護は基本、俺達と兵士が入れ替わる時だ」


 なるほど。


「じゃあ、待つか……」


 門が開くのを待つことにし、しばらく待っていると、上からかなり魔力を感じた。


「上が魔法を放ったな。AIちゃん、そろそろだぞ」


 なでなで。


「お任せを! 私の狐火を思い知らせてあげます!」

「頑張れ」


 俺達がそのまま待っていると、門がゆっくり開かれ始めた。


「さて、行くか」

「はい!」


 前方の冒険者達が前に駆けていったので俺達も続き、門を出る。

 門を抜けると、辺りはうっすらとだが、明るくなっており、前の方では咆哮にも似た声が聞こえてきた。


「AIちゃん、センサーを使って、敵から距離を取れ。そこから狐火で燃やしていけばいい」

「わかりました!」


 俺達が門を抜けると、入れ替わるように兵士達が町の中に入っていく。

 兵士達はまだ無事な者から明らかに重傷で仲間に肩を担がれている者など様々だ。


 先に出た冒険者達はそんな兵士達を逃しながら魔物と戦っているし、上空には矢や魔法が飛び交っていた。


「ひえー。戦場です……」

「だなー……」


 俺は戦場に出たことはない。

 戦場とは無縁の都暮らしだし、そもそも兵士ではない俺が戦場に出ることはないのだ。


 俺は前方の冒険者達の先に見える魔物の大軍を見る。


「ここまでくると探知が死ぬな」


 魔物が多すぎるため、探知で引っかかる魔力が1つの大きな塊のような気がする。

 それほどまでに数が多い。

 妖だってこんな大規模で襲ってくることなんかない。


「マスター! オークです!」


 AIちゃんが言うように前方から冒険者達をすり抜け、1匹のオークが突進してきていた。

 オークは目が血走っており、昨日見たオークとは明らかに違う。


 俺は護符でできた剣を構えると、突進してくるオークに向かって駆けた。

 そして、オークの攻撃を躱すと、剣を振り、オークの身体を両断する。

 すると、2つに分かれたオークの身体が燃え、黒焦げとなった。


「え? 何それ?」


 いつのまにか近くにいたクライヴが驚いたように聞いてくる。


「この護符は1枚1枚が魔法だ。炎の魔法を使って切っただけだな」


 正確には魔法じゃないけど。


「すげー!」

「どうでもいいけど、ゴブリンが来てるぞ」


 興奮しているクライヴの横からゴブリンが鋭い爪を立てて、襲ってきていた。


「あらよっと」


 クライヴは身をひるがえすと、槍を器用に回し、ゴブリンの身体を突く。

 身体を突かれたゴブリンはクライヴにそのまま振り回すように投げられ、別のゴブリンにぶつかり、絶命した。


「おみごと」

「どうも。しかし、多いなー。いくらゴブリンとオークとはいえ、多すぎる」


 確かに多い。

 雑魚だし、相手にはならないが多すぎる。

 もし、こいつらに門を抜かれると、町は間違いなく滅び、住民にも多大な被害は出るだろう。


「戦力の差が大きいな……さすがに俺達の方が優勢だが、数の差が圧倒的だ。長期戦になればなるほど不利だな」

「始まったばかりで士気が下がることを言うなよ」


 それはそうだ。

 しかし、このままではジリ貧なのは確かだろう。


「クライヴ、少し肩を貸せ」

「ん? どういう――」


 俺はクライヴが答える前にクライヴの肩に掴むと、肩を足場にし、飛び上がった。


「おいー!」


 クライヴの叫びを無視して、前方を見ると、埋め尽くすような数の魔物の軍勢がいた。


 あんな数の魔物が森にいるのか?

 いなくね?


「地獄沼!」


 俺は前方に手を向けて術を放つと、前方の地面が沼地と化した。

 すると、そこにいた魔物達がもがきながら沼に沈んでいく。

 さらに後ろにいる魔物達もお構いなしに突っ込んできたため、どんどんと沼に沈んでいくが、あまりにも数が多いため、沈んでいく魔物達を足場にし、後方からどんどんと押し寄せてきた。


「ダメだこりゃ」


 地面に着地すると、首を振る。


「すげー魔法だな。だが、それ以上にスタンピードがやべーわ」


 まったくだ。

 本当にどこから来ているんだよ……


「クライヴ、魔物の殲滅はなしだ。俺達は時間を稼ぐことに専念した方が良い。王都からの援軍を待とう」

「だろうな」


 もっとも、王都からの援軍とやらでこの数を対処できるかは知らないが……


「マスター、前線の冒険者が崩れつつあります。援護を推奨します」


 センサーで探知ができるAIちゃんが進言してくる。


「行くぜ!」


 AIちゃんの言葉を聞いたクライヴが我先に突っ込んでいった。


「俺らも行くぞ」

「はい!」


 これまで後方で討ち漏らしを処理していた俺達は傷付いた仲間に下がるように指示をしながら最前線に出た。

 目の前はすでに混戦となっており、多くの冒険者が魔物達と戦っている。


「狐火!」


 AIちゃんが狐火を放ち、オークを燃やす。

 だが、その後ろからさらなるオークが出てきた。


「狐火! キリがないですー……」


 AIちゃんがさらに狐火を放ち、オークを燃やすが、敵の数は一向に減らない。


「でかい術を放ちたいが、この混戦ではな……」


 味方を巻き込んでしまう。

 もう地獄沼も無理だろう。


 俺達はその後も魔物を術や剣で倒していくが、魔物の数は減らない。

 とはいえ、わずかだが、魔物の勢いが落ちていっている気がする。


「諸君、交代だ! 一度、町に戻れ!」


 しばらく魔物と戦っていると、後方から指示が来た。

 俺達はその指示を聞き、少しずつ、後方に下がっていく。

 すると、門が開かれ、兵士達が出撃し、入れ替わるように俺達は急いで門の中に引き上げていった。

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