第033話 意思を持ち始めた式神達


 家に戻った俺は部屋でゴロゴロと過ごしていた。


「暇だなー」


 やることがない。

 まだ昼にもなっていないのに仕事が終わったため、今日は半日やることがない。

 もっと言うと、明日も丸一日やることがない。


「やることがない時は何をしていたんです?」


 ベッドの上でナタリアから借りた本を読んでいるAIちゃんが聞いてくる。


「寺に行くか写経か……後は何だっけ?」


 家族という部分的なものを消しているため、どうも記憶が安定しない。


「今夜、処理はしますが、当分は記憶がこんがらがると思います。そのうち落ち着くとは思いますが……」

「いっそ全部消すのはどうだ?」

「それはそれでどうでしょう? 術も何もかもですよ?」


 それは嫌だな。

 この世界は魔物がいるし、力がいる。


「まあいいか。AIちゃん、将棋でもしない?」


 駒を適当に作ればできるだろ。


「いいですけど、おすすめはしません。私はマスターのスキルであり、人工知能です。いくらマスターが強かろうが、絶対に勝てません。もちろん、命じられれば上手い具合に負けてみせます」


 つまらんな……


「いいや。ナタリアとアリスは何をしているんだろ?」

「ナタリアさんは読書が趣味だそうですので読書じゃないですか? アリスさんは出かけるって言ってました」


 それぞれやることがあるのか。


「何をしようかねー? 町でも見て回るか?」

「良いと思います。でも、明日にしては? ナタリアさんとアリスさんに案内してもらいましょうよ」


 晩にでも頼んでみるか。

 どうせ一緒に夕食を共にするんだろうし。


 俺もナタリアに本でも借りようかなーと思っていると、部屋にノックの音が響いた。


「んー?」

『すまん。ちょっといいか?』


 部屋の外から声が聞こえてくる。

 だが、声はナタリアでもアリスでもない。

 というか、男性の声色だった。


「誰だろ?」


 立ち上がると、扉の方に行き、扉を開ける。

 すると、そこには俺より背の高い男が困った顔で立っていた。


「えーっと、どちら様?」

「いきなり悪いな。俺はこのクランに所属しているクライヴってもんだ」


 あ、他の冒険者か。


「そうか。俺は一昨日から世話になっているユウマだ」


 もう苗字を名乗るのはやめた。

 姓と名が逆なのも紛らわしいし、説明するのがめんどくさいのだ。

 それにこの世界の人間はあまり姓を名乗らない。


「ああ。ナタリアから聞いている。これからよろしくな」

「よろしく。それと挨拶が遅れて申し訳ない」


 というか、俺から挨拶に行くべきだったな。


「いや、気にしなくていい。それでちょっといいか?」


 クライヴが手招きをしてきたので部屋から出る。

 当然、AIちゃんもついて…………こなかった。

 どうやら読書を続けるらしい。


「なんだ?」

「こっちだ」


 クライヴがそのまま歩いていくのでついていくと、エントランス内の隅にある四方にソファーが置かれた一角までやってきた。


「ここは?」

「会議とかをするところだな。まあ、交流スペースだ。自由に使ってくれて構わない」

「ふーん……」


 そう言われたのでソファーに腰かけると、ソファーで寝ていた狛ちゃんが俺のところにやってきた。


「どうしたー?」


 そう聞くと、狛ちゃんは俺の太ももに頭を乗せ、尻尾を振りながら寝始めた。

 完全に犬だ。


「まあいいや。それでどうした?」


 狛ちゃんを撫でながらここまで呼び出したクライヴに聞く。


「いや、その犬な。ユウマの犬でいいのか?」

「まあ、その認識でいいぞ。ウチの女共が可愛がっているから消せないんだ」


 家に着いたので消そうと思ったら悲しそうな顔をされたので消せなかった。

 仕方がないから番犬でもさせようと思って、玄関に置いておこうと思ったのだが、それも嫌そうな顔をされたのでエントランスに放ったのだ。

 そしたらソファーで寝てた。

 自由な犬だわ。


「そうか……大人しそうだし、飼うのは別にいいんだが、何を食べるんだ?」


 ん?


「食べるって?」

「エサだよ。俺は食事を作っているんだが、その犬のエサはどうすればいいんだ?」


 あ、この人がナタリア達が言っていたキッチン担当の人だわ。


「お前が食事を作っている人間か……いつも悪いな。俺は異世界の人間で舌が合わなかったらどうしようと思っていたが、非常に美味だったぞ」

「ありがとよ。こっちも昨日はビッグボアの肉をありがとう。他の連中も感謝してたぞ」

「なら良かったわ。それと金なんだが……」

「あー……ナタリアからもらっているぞ」


 やっぱりか……


「来たばかりの時は金がなくてな。今はあるから自分で払うわ」

「そうか。それで犬のエサは?」


 エサって言われても式神は何も食べなくてもいい。


「別にいらない…………」


 そう言うと、狛ちゃんが見上げてきた。

 振っていた尻尾も萎れている。


「食べたいん?」


 そう聞くと、尻尾を元気よく振り始めた。


 なんでだろう?

 こいつもカラスちゃんも明らかに自我を持っていないか?

 前はそんなことはなかったのに……


「すまん。残りものでいいからくれ。金は払う」

「わかった。じゃあ、そうしよう。それとユウマは嫌いなものあるか?」


 嫌いなもの……

 野菜?

 でも、ドレッシングをかけたら美味かったな。


「よくわからんから適当に作ってくれ。その都度言うわ」

「あー、異世界人だったな。了解した。俺はキッチンか2階の202号室にいるから来てくれればいい」


 そういや上の階には一回も行ったことがないな。


「お前の部屋は2階か?」

「ああ。2階が男共のスペースで女共は3階だ。ユウマは1階の客室にいるが、2階には来ないのか?」


 2階……


「悪いが、前世の俺の家は平屋だったし、1階がいい。上は落ち着かない」


 この辺りにはないらしいが、地震が来たらすぐに逃げないといけない。


「なるほど。文化の違いか……わかった。それともうすぐで昼飯だが、どうする?」

「アリスは…………いないか。ナタリアと俺の部屋にいるAIちゃんにここに持ってきてくれるように言ってくれ。動けなくなった」


 狛ちゃんが俺の足の上で完全に寝てしまった。

 寝る必要なんかないのに……


「ナタリアとあの小っちゃい子な……わかった」


 クライヴは狛ちゃんを微笑ましい顔で見ながら頷くと、どこかに行ってしまった。

 その後、昼食を持ってやってきたAIちゃんとナタリアと食事を食べると、午後からはナタリアに借りた本を読み、過ごした。

 そして、夕食を帰ってきたアリスを加えた4人で食べると、2人が翌日に町を案内してくれると言ってくれたのでこの日は早めに就寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る