第032話 報告 ★
「それでオークはどの辺に出たんです?」
AIちゃんを撫でていると、パメラが聞いてくる。
「えーっと、ここ」
俺は森に入ったすぐのところを指差した。
「え? ここですか?」
「ああ。それも2匹」
「2匹!? 本当ですか!?」
パメラが驚く。
「本当。俺はそんなものかなと思ったんだが、ナタリアとアリスが異常って言うから報告に戻ったんだ」
「なるほど……だからこんなに早く戻ってきたんですね」
「だな」
まだ昼にもなっていない。
「パメラさん、それとなんだけど、ユウマの探知能力によると500メートル以内にオークが10匹もいたらしい。さすがにちょっとおかしいよ」
ナタリアが補足説明した。
「10匹も…………ん? 500メートル?」
「わかるんだって」
「そ、そうですか……あのー、あなたって本当に人間?」
パメラがちょっと引きながら確認してくる。
「見ればわかるだろ」
『お母様のことを考えると微妙ですけどね』
俺に尻尾なんかないわ。
「ま、まあ、優秀な方なんでしょう。当主様だっけ?」
「死んだし、子供に譲ったらしいから元だけどな」
「お貴族様?」
「そうだな……王族の末裔の一族だ。というか、親戚だな。ひいひい婆さんが王族だし」
他にも婚姻関係があったし、そこそこ近いと思う。
「あ、そうですか……」
「……思ったより、偉い人だったね」
「…………12人の奥さんや子供達を養えるぐらいにはお金持ちだよ」
ナタリアとアリスが後ろでコソコソ話している。
「まあ、金持ちだったんだろうな。金に困ったことはないし、それどころか金のことを考えたこともない」
寺への寄付はいくらくらいにしようかなーと思ったくらいだ。
「すごいわね……」
パメラが単純に感心している。
「前世のことだ。今は居候でたいした金もない。だから依頼料に色を付けろよ」
「あ、はい。じゃあ、金貨10枚に加えて、もう10枚追加します」
パメラが金貨を20枚も受付に置いた。
「自分で言っててなんだが、こんなにくれるのか?」
たかが森に行って帰ってきただけなのに倍になっちゃった……
「それぐらいの価値がある情報なんです。すぐにギルマスに報告し、調査団を派遣することになると思います」
森専門の調査団でもいるのかね?
まあ、素人の俺達よりかはマシか。
「わかった。いつもありがとうな。今度、飯でも奢ってやろう」
「え? あ、うん……ありがとう……」
後半の声が小さい。
嫁が12人もいる男から誘われたから警戒してるな……
AIちゃんも来るからそういうのではないんだがな。
「パメラ、明日の仕事で良いのはあるか?」
「あー、どうでしょう? 下手をすると、森への立ち入りが禁止になるかもしれません」
確かにそれもあるか……
「他にはないのか?」
「西区の稼ぎどころは森なんですよ。一応、探すことはできますけど、お休みになられては? この町に来てからずっと働いてますよね?」
「休み? そうか……自由業だから休みも自由なのか」
「そうですね。人によりますが、数日働いたら休むことが多いです。体力のいる仕事ですし、休むのも大事ですよ」
確かに森に行くだけで疲れるし、森の奥になんて行ったらもっと疲れるだろうな。
「休みか……休みという概念がなかったが、その辺も大事だな」
「マスター、リーダーなんですからその辺もちゃんとしないといけませんよ。見るからに体力のない御二人ですし」
AIちゃんが忠告してくれた。
「それもそうだな」
俺達は後ろにいる貧弱な2人をじーっと見る。
「え? 休みがないつもりだったの?」
「…………ブラックすぎ」
2人は嫌そうな顔をしていた。
「いや、すまん。休みのことを忘れていた」
「えーっと、ユウマは前の世界では休まなかったの?」
「当主に休みなんかあるわけないだろ」
当主じゃなくても、いつも勉強や訓練なんかがあった。
「それ、楽しい?」
「さあな。それが当たり前だった」
記憶が微妙だが、別に苦労したという記憶はない。
まあ、楽しかったという記憶もないんだが。
「…………休もうよ。おじいちゃん、死んでも働くつもり?」
いや、働かないと食っていけねーよ。
まあ、言わんとしていることはわかるけど。
「ナタリア、休みの日はお前が決めろ」
「私?」
指名されたナタリアが自分の顔を指差した。
「ああ。お前らの基準でいい。俺は今、休みは月に一回くらいでいいだろと思っている」
俺がリーダーを名乗っているが、元々はこいつらのパーティーだし、こういうのは体力がない方に合わせた方が良い。
「あ、うん……わかった」
「…………月一って」
2人がちょっと引いている。
「どうする? とりあえず、明日は休みでいいよね?」
ナタリアがアリスに確認する。
「…………いいと思う。というか、少なくとも、リリーが戻るまでは本格的に活動しない方がいいでしょ」
そういや、リリーって子がいたな。
「そうだね。よし、明日は休みです!」
休みらしい。
「わかった。パメラ、そういうことだから」
「わかりました」
パメラが頷いたので俺達はギルドを出て、家に帰ることにした。
◆◇◆
ユウマさん達がギルドを出ていったので立ち上がると、奥の執務室へと向かう。
「ジェフリーさん、よろしいでしょうか?」
『ん? いいぞ』
部屋の中から返事が聞こえたため、扉を開け、中に入った。
そして、デスクで仕事をしているジェフリーさんのもとに向かう。
「先ほど、森の調査に向かわれたユウマさん達が戻られました」
「先ほど? 早くないか?」
「森の浅いところでオークが2匹も出たらしいです」
「それは……」
ジェフリーさんが腕を組み、悩みだした。
「いかがいたしましょうか? 調査団を派遣した方が良いと思うんですけど」
「そうだな。すぐに派遣しろ。それと王都のギルドにも報告を忘れるな」
「わかりました。それとユウマさんのことなんですけど……」
「あいつか…………どうした?」
ジェフリーさんがちょっと嫌な顔をしながら聞いてくる。
「やはり上流階級の人間だったようです。王族の一族の貴族だそうです」
「そうか……まあ、驚きはないな」
貴族なことはわかっていた。
思ったより、ずっと上の人間だったが。
「ですね。でも、問題は能力です。森で500メートルの探知ができるそうです」
「すごいな……しかも、化け蜘蛛も出せるんだろ? 人とは思えん」
化け蜘蛛のことは今朝、すぐに報告した。
話し合いの結果、黙っておくことになったのだが……
「同感です。それと例の盗賊狩りですが、やはりやったのはユウマさんだと思われます」
「やはりか」
「はい。回収班の話では盗賊の遺体にはどれも剣での切り傷があり、それが致命傷のようでした。あの2人にはできません」
ナタリアさんもアリスさんも強いが、魔法使いだ。
剣はからしきなはず。
「つまりあいつか……」
「どうします? 依頼無効にもできますけど」
盗賊狩りをした時はまだ冒険者じゃなかったはずだ。
「放っておけ。そんなことより、このギルドに縛り付けておくことが大事だ。あんなもんを他所に取られたらシャレにならん」
やっぱりそう思うか……
「一応、ナタリアさん達と組んでいるから大丈夫だとは思うんですけど」
「あいつらもよそ者だろ。よその方が稼げるとなったらわからん」
まあ、あの2人はそれでも残ってくれようとするだろうが、ユウマさんがどういう判断をするかだろう。
なんかいつの間にかリーダーになっていたし、あの2人は大人しいから最終的にはユウマさんに従うと思う。
リリーさんに期待かな?
いや、無理か……
あの子、バカ……いや、そんなに考えることをしないし。
「良い依頼を優先的に回しているんですけど、それで大丈夫ですかね?」
「さあな。転生者共は本当にわからん。とはいえ、それぐらいしかやれることはない。お前に任せるから頑張ってくれ」
「私ですか?」
「女好きなんだろ? お前の方が良いに決まっている」
あの人、本当に女好きなんだろうか?
男の人独特のいやらしい視線を一切感じないし、それどころかAIちゃんを可愛がっているおじいちゃんそのものだ。
とはいえ、食事に誘われたな……
本当に何を考えているのかがわからない。
「わかりました」
「頼んだぞ。俺も森の異常を他所のギルド長に話してみる」
例に漏れず、ギルド間も仲の悪いのだが、そうも言っていられない状況か……
「よろしくお願いします。では、失礼します」
私はギルマスの執務室を退室すると、受付に戻った。
「ねえねえ、パメラ。ユウマさんとご飯に行くの?」
隣で聞いていたであろう色恋が好きな同僚が聞いてくる。
「行く」
「へー……ほー……」
とりあえずは行ってみよう。
変なことにはならないと思うし。
…………多分。
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