第030話 かわいい
俺達は森に入り、道を歩き始めた。
「マスター、どうです? 魔物はいますか?」
道を歩いていると、AIちゃんが聞いてくる。
「いるといえばいるな…………ただ、普段より多いのかはわからん。よく考えたら普段を知らんわ」
「そういえばそうですね。では、強い魔物はいます?」
強いの……
「いや、いないな。ゴブリンと……これはオークだな」
「え!?」
「…………オーク?」
ナタリアとアリスが驚いて俺を見てきた。
「ん? どうした? オークなんかお前らの敵じゃないだろ」
「いや、それはそうなんだけどね。オークはDランクだし。でも、そういうことじゃなくて、オークがこんな浅いところに出たことなんてないよ」
「…………オークはもっと奥にいる魔物なんだよ。こんな浅いところにはいないし、そもそも道に近づいてくることもない」
道に近づいてこない?
「いや、道を歩いているんだけど……」
「え?」
「…………ん?」
ナタリアとアリスが首を傾げる。
「いや、だからこの先にオークがいる。もう少しで見えてくると思う。2匹だな」
そう言いながら道の奥を指差した。
「はい? 2匹? ないない」
「…………オークは強いから群れないよ?」
2人が手を横に振る。
「そうなのか? さっき言ってた大蜘蛛ちゃんを出した時はいっぱいいたぞ。そういえば、あのオーク達も道に出ていたな」
道に出て、兵士達と戦っていた。
「マズくない?」
「…………異常すぎ」
2人が顔を見合わせる。
俺はこの世界に来て3日だからよくわからん。
「御三方、話は後にしましょう。私のセンサーでオークを確認しました。数は2です。まあ、目の前にいるんですけど……」
AIちゃんが言うように目の前には2匹の大きな体をした二足歩行の豚が立っていた。
「アリス、1匹やるからやれ」
何かを悟った狛ちゃんがナタリアを庇うように立ったため、アリスに任せることにした。
「…………わかった」
アリスは頷くと、杖を構える。
すると、オークが突進してきた。
前は崖の上から見ているだけだったからわからなかったが、この巨体で突っ込まれると結構怖い。
Dランクの魔物と聞いているが、確かにゴブリンとは一線を画す魔物だ。
とはいえ、昨日のビッグボアよりも小さいし、速くない。
「エアカッター!」
アリスが杖をかかげ、珍しく叫ぶと、杖の先端から風の刃が現れ、オークに向かって飛んでいく。
風の刃は結構な速度で飛んでいき、1匹のオークを容易く切断した。
「…………こんなもん」
1匹のオークをあっさり倒したアリスはドヤ顔だ。
「まだいるからー!」
ナタリアは狛ちゃんに乗りながら逃げる準備をしている。
こいつ、口だけだな……
「狐火」
ナタリアが可哀想なので残っているオークに指を向けると、指の先から金色の火が飛び出る。
金色の火はまっすぐ突っ込んでくるオークに当たると、一気に燃え上がり、一瞬で黒こげになったオークはその場で倒れた。
「森でのオークは余裕だな。体がでかすぎて狭い道だと魔法を躱せない」
「…………だね」
まあ、この程度ならこんなもんだろう。
「さて、魔石を採取しないと」
ナタリアは何食わぬ顔で俺達の横を通りすぎ、オークを解体し始めた。
「あいつ、いつもあんな感じか?」
「…………うん。ああいうのも大事」
まあ、無理はしないだろうからな。
パーティーにはそういう人間もいた方がいいだろう。
「あれ? AIちゃんは?」
狛ちゃんはナタリアについていったし、後ろには誰もいない。
「…………上だね」
アリスに言われて上を見ると、AIちゃんが必死に羽を羽ばたかせるカラスちゃんに引っ張られ、上空に避難していた。
そして、AIちゃんと目が合うと、ゆっくりと降りてくる。
「マスター、さすがです! 私もナタリアさんのお手伝いをしてきます!」
AIちゃんはそう言うと、ナタリアのもとに行き、オークを解体し始めた。
「……あいつも戦闘は無理だな」
「…………一緒に頑張ろ」
アリスがぽんぽんと俺の背中を叩いてくる。
「そうするか」
ナタリアは回復魔法があるし、AIちゃんは賢いからそれでいいや。
俺はそう結論付けると、オークを解体している2人のもとに向かう。
すると、俺が丸焦げにしたオークからいい匂いがすることに気が付いた。
「オークって食えるのか?」
丸焦げオークを解体しているナタリアに聞く。
「食べられるよ。私は食べたくないけど、オークは豚肉と変わらない味だし、町の市場とかに売ってるね」
「…………私も食べたくない。昔は食べられたけど、冒険者を始めてからは無理になった」
気持ちはわかるな。
俺も二足歩行の豚はちょっと食べたくない。
「持って帰って売るのか?」
「さすがにそれはしないかな。オーク肉は一匹から肉が大量に取れるから安価なんだよ。あと、売り物にするための解体って難しいし」
「…………というか、単純にやりたくないね。魔石を取るだけで十分」
割に合わないわけね。
「あ、あった、あった。これが魔石だよ」
ナタリアが採取した魔石を渡してくれる。
魔石は親指ぐらいの大きさの赤い宝石なようもので怪しく光っているような気がした。
そして、確かに魔力を帯びていた。
「思ってたより小さいな」
「オークならそんなもんだよ。魔物もランク付けされているんだけど、ランクの基準は魔石の大きさだね。魔石が大きいとその分儲かるけど、強い」
魔力が高いわけか……
「マスター、見て見て! 私も取りました」
AIちゃんが採取した魔石を見せてくれる。
「よかったなー」
なでなで。
「おじいちゃん……」
ナタリアが呆れた顔になった。
「お前も撫でてやろうか?」
「いい……」
まあ、子供扱いは嫌だわな。
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