第029話 動機
新たに狛犬の式神を出し、歩いていく。
そのまましばらく歩いていくと、昨日、ビッグボアを倒した森の前までやってきた。
「調査するのはあの森でいいんだよな?」
「そうだね」
俺が確認すると、ナタリアが頷く。
「森ねー……今更だが、この軽装で大丈夫か?」
森に入るには色々と準備がいる気がする。
昔、山師と話したことがあるが、素人が山や森に行くと危ないと言っていた。
まあ、そもそも俺が山や森に入ることなんて滅多になかったんだけど。
「森と言ってもちゃんと道があるよ。さすがにそれを逸れると危ないと思うけど、一応、あちこちに目印になる看板が立てられている」
道があるのか……
そういえば、俺も森の道を通ってこいつらと遭遇したな。
「大丈夫ならいいか……遭難してもカラスちゃんがいれば道に迷うことはないだろうし」
こういう時に便利な式神だわ。
「マスター、地図を描きましょうか?」
俺が上空で飛んでいるカラスちゃんを見上げていると、AIちゃんが聞いてくる。
「頼むわ」
「了解です」
AIちゃんは紙とペンを取り出した。
「じゃあ、森に入ってみるか」
「うん。こっち」
俺達はナタリアに案内され、道があるところに回る。
すると、確かに幅が数メートルはある道があり、俺がナタリアやアリスと出会った道のように左右が森となっていた。
「ここか……」
「…………一応、忠告だけど、左右から魔物や獣が襲ってくることがあるから要注意ね」
そら、怖いわ。
「なあ、魔物と獣の差って何だ? 魔力の有無か?」
「…………そう考えていいよ。一応、定義としては体内に魔石があるのが魔物」
魔石?
「魔石って何だ?」
「…………そのまんま。魔力がこもっている石。この魔石が獣を魔物に変化させるのか、魔物が元々魔石を持っているのかはわからないけど、魔物は体内に魔石を持ち、普通の獣よりも強い傾向にある。ものによっては魔法まで使ってくる魔物もいる」
ふーん……
そう考えると、俺のいた世界の妖は魔物ではないな。
体内に魔石があるなんて見たことも聞いたこともない。
多分、母上の体内にもないだろう。
「なるほどなー……」
「あ、ユウマ、魔石は売れるからなるべく採取の方向でお願い」
ナタリアが思い出したように言う。
「売れるのか?」
「うん。ユウマは別の世界の人だから知らないだろうけど、この世界では魔石は色んなところに使われているんだよ。ユウマの部屋にもあるけど、洗面台の蛇口を捻ったら水が出たでしょ? あれは魔石の力なんだ」
へー……
AIちゃんに使い方を教えてもらったから普通に使ってたけど、そういう仕組みだったんだな。
水を井戸から汲まなくて便利とは思ってたけど、この世界は俺がいた世界よりかなり発展している気がする。
「割といい世界に転生したのかもしれんな……しかし、魔物はともかく、獣もいるのか……イノシシとか狼か?」
「そうだね。魔物と比べると強くはないけど、普通に脅威だよ。私達なんて簡単に食べられるね。弱いもん」
魔法使いは魔法が使えなければただの人か……
しかし、獣が脅威なのは共通しているな。
俺がいた世界でもクマや狼に襲われる人は普通にいた。
「お前ら、索敵ってできるのか?」
「全然。できるのはリリー。だから私達2人の場合は2人で注意しながら進む」
こいつらが?
危ないなー……
「俺と出会った時もか? 夜はどうした?」
「あの時も2人だったからそうだね。まあ、夜は結界を張るから大丈夫」
「…………たいした効果はないけどね」
こいつら、大丈夫か?
「いや、死ぬぞ?」
「わかってるよ。でも、稼がないといけない。冒険者が危険なことは知っているし、覚悟もしている」
勇ましいが、昨日、ビッグボアの突撃で泣き叫んでいた少女の言葉とは思えんな。
「普通に働こうとは思わんのか?」
「学がないもん。ウチは継ぐものもないし、あっても女は継げない」
「どっかに嫁げよ。お前らの器量なら良いところに嫁げると思うぞ」
2人共、優しいし、顔が整っていて可愛らしい。
「結婚しても一緒だよ。私達みたいな貧乏人の家は同じような貧乏人の家の人と結婚する。良くて商家の愛人じゃないかな? そんなことをするくらいなら自分で稼ぐ。幸い、魔力はそこそこあったし」
そんなもんかねー。
家柄や身分どころか世界も文化も違うからよくわからない。
とはいえ、自分の力で将来を切り開こうとするのは立派だし、良いことだとは思う。
「お前もか?」
一応、アリスにも聞いてみる。
「…………そうだね。私の家もナタリアの家とどっこいどっこい。昔からナタリアと冒険者になろうって話してたんだ。やっぱり何の技量もない私達が手っ取り早く稼ぐにはこれしかない。娼婦は嫌だし」
手っ取り早くというが、最初は魔法を使えなかったのだろう。
それなのにここまで来るのに苦労したんだろうな。
「お前らって苦労人だったんだな」
「全然。こんなの普通だし、私達は恵まれている方だよ。魔力があったし、クランもあるからね」
「…………パーティーにも恵まれた。前衛のできるハリソンに索敵ができるリリー。まあ、今はいないんだけど」
ハリソン君は引退し、リリーは実家か。
「ちなみに、ハリソン君と結婚する気はなかったのか? 実家を継いだって言ってたし、良いところの家じゃないのか?」
「ハリソンはちょっと……」
「…………悪い人じゃないんだけどね。ちょっと……」
まあ、家柄だけで結婚はせんわな。
「じゃあ、お前らが裕福になれるくらいには頑張るか…………AIちゃん、獣の索敵は頼むぞ。俺は魔力がないとわからんから」
「私のセンサーに任せておいてください」
AIちゃんが器用に地図を描きながら見上げ、頷いた。
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