第028話 かわいさは必要ないと思うが、女子供に同調しておくのも大事


 ギルドを出た俺達は西門を抜け、平原を歩きながら森を目指すことにした。


「…………ねえねえ、蜘蛛のバケモノってどんなの?」


 平原を歩いていると、アリスが聞いてくる。


「大きくてちょっと強い蜘蛛だな」


 実を言うと前世ではあまり役に立たなかった式神だったりする。

 だって、大きいから街中では使えないし。


「いや、バケモノでしたよ。私、おしっこちびるかと思いましたもん」


 式神がおしっこちびるわけないじゃん。


「だからお前の方が能力は上だっての」

「ホントですー? 私、よわよわギツネじゃないですかー」


 なんか母上の顔でそう言われると、あざとくてなんか嫌だな……


「半妖化できただろ」

「耳と尻尾だけじゃないですかー……」


 AIちゃんが落ち込む。


 うーん、弱そう……

 術はもちろんのこと、戦闘術もインストールしていないだろうし、戦いは無理かな……


「私、AIちゃんのことがイマイチわかっていないんだけど、その子、キツネなの?」


 今度はナタリアが聞いてくる。


「私というか、この体がキツネの妖怪なんです。式神は意思のない人形のようなものと思ってください。そこに私という人格が乗り移っているという認識で大丈夫です」


 かなり違うような……


「妖怪? 人形? うーん……どう見ても人間なんだけど」


 ほら、わかってない。


「ほら、キツネさんでしょ」


 AIちゃんが獣耳を出した。


「う、うん? キツネの獣人かな?」

「…………金色の獣人は初めて見たけどね」


 AIちゃんに獣人とやらがいることは聞いているけど、こんなんなのか……


「こういうのがその辺にいるのか?」


 セリアの町ではまだ普通の人しか見ていない。


「多くはないけどね。他所の区の冒険者にもいるよ。Bランクのすごい強い人」


 Bランク……


 俺は眠そうな目をしているBランクのアリスを見る。


「…………私とはタイプが違うよ? その人は身体能力がすごい。私は魔法がなかったらその辺の子供にも負けるレベル」


 そんな気はする。


「ランクの基準がイマイチわからんな。お前とナタリアってたいした差がないだろ」


 どっちも似たような魔力だ。


「…………攻撃魔法に寄っているか回復魔法に寄っているかの差だね。攻撃魔法の方が評価が高いんだよ」


 なるほどな。

 それは少しわかる。

 俺がいた国には回復魔法なんてものはなかったから単純にすごいと思うが、こんなに魔物が多い世界では魔物を駆除する力を持った方が評価されやすいのかもしれない。


「ふーん……まあ、ランクはどうとでもなるか」

「あのー、ユウマは少し自重したほうが良いよ? 何かそのうちとんでもないことをやらかしそう」

「…………すでに遅しな気もするけどね」


 そこまでのことはしていないんだがな……

 あのお姫様を助けたことにしても俺的には最善だった。


「手を抜くのは苦手なんだが、やってみよう。俺がいた世界とは違い、この世界の人々はたくましそうだしな」


 魔法を買える世界だし、冒険者という庶民が武器を持っている。

 どちらも俺の国ではありえないことだ。


「マスター、式神を出すにしてもいい感じのはないんですか?」


 いい感じと言われてもな……

 要はデカいのがダメなんだろう。

 あと、経験的に女は虫がダメ。


「狛犬でも出すか? あれは…………あれ? 何だっけ?」


 誰かが俺の狛犬を見て、可愛くないと文句を言い…………あれれ?


「マスター、あまり思い出さない方がいいかと……」


 あー……嫁か子供かは知らんが家族か。


「その辺を上手い具合に処理してくれ」


 いちいちめんどいわ。


「わかりました。今夜、もう一度記憶の処理をします」

「頼む。とにかく、狛犬ならバケモノ呼ばわりはないだろ」

「チェックしますので出してみてください」


 AIちゃんがチェックするらしいので懐から護符を出すと、霊力を込め、地面に投げた。

 すると、護符が白い犬に変わる。

 白い犬はおすわりをしながら待機しているが、尻尾が揺れていた。


「わー! かわいいですねー!」

「ホントだ! かわいい!」

「…………サイズも普通だ」


 式神にかわいさなんていらないんだけどな……


 3人は狛犬に群がると、撫で始め、キャッキャしていた。


「女子供は好きだなー……俺は絶対に大蜘蛛ちゃんや大ムカデちゃんの方がかっこいいと思うのに」

「ねえねえ、この子は何ができるの!?」


 聞いてねーし。


「ほぼ犬と一緒。もちろん、式神だから普通の犬よりかは速いし、力も強いけど」

「ふーん……いいなー」


 ナタリアは嬉しそうに犬を撫でている。

 その光景にものすごい既視感があった。

 多分、俺が忘れている誰ぞやも同じような反応をしたんだろうな。


「マスター、狛ちゃんに御二人を守らせては?」

「そうするか……そういう式神だし。狛ちゃん、2人を守れ」


 そう命じると、狛ちゃんが軽く頷いた。


「かわいい!」

「…………かわいい!」


 ナタリアとアリスは絶賛しながら狛ちゃんを撫でる。

 喜んでくれてよかったと思う反面、使い捨てにできなくなってしまった。

 式神は護符さえあれば、いくらでも出せるから囮とかに使う使い捨てでもある。

 でも、こいつらは嫌がりそうだ……


「狛ちゃん、危なくなったらナタリアを背負い、アリスを咥えて逃げろ」


 殿も無理っぽいし、護衛とそういう使い方で良いだろう。


「…………私は咥えられるんだ」


 お前、小さいもん。

 AIちゃんはカラスちゃんを使うだろうし、自然とそうなる。


「ユウマは危なくなったらどうするの?」


 狛ちゃんを撫でているナタリアが聞いてくる。


「でっかい蜂に乗って、我先に逃げるな」


 君達が嫌いなやつ。


「それでいいの、当主様?」

「じゃあ、言ってやる。俺が危なくなることなんかない」

「かっこいい……か、な?」


 そこはお世辞でもいいから言い切れよ。

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