第027話 お仕事


 俺は微妙にナタリアが心配になりつつも、受付に向かう。

 受付に行くと、パメラがニコニコと笑っていた。


「おはよう。どうした? 何か良いことでもあったのか?」

「おはようございます。いえいえ、昨日はご苦労様でした。おかげでギルドも潤いましたよ」


 昨日のビッグボアか……

 儲かったらしい。


「そりゃ良かったな。これからもそういうのを回してくれ。俺は不正を目くじらを立てて、糾弾するような頭でっかちではないのだ」

「マスターは柔軟なんです」


 AIちゃんがうんうんと頷く。


「そうですか……でも、不正って何ですか?」


 パメラはニコニコと笑ったままだ。

 言葉にはしない方がいいらしい。


「そうか……俺の勘違いか。まあいい。今日も仕事をしたいんだが、良いのはあるか?」

「はい。ユウマさんって調査のお仕事とかってできます?」


 調査?

 密偵か?


「俺は忍びじゃないから得意ではないぞ? やろうと思えば、カラスちゃんや虫の式神を使ってどこでも潜入できると思うが……」

「うん……さりげに恐ろしいことを聞いた気がするけどスルーするわね。調査というのは森の調査です。実はここ最近、魔物が多いんですよ。昨日のビッグボアもですけど、ちょっと変です」


 そういえば、ビッグボアは森の奥にいるって言ってたもんな。


「森の奥で何か起きていると思っているのか?」

「ですね……ここだけの話なんですが、森にとんでもないバケモノがいるのではないかという話もあります」


 バケモノ……


「目撃情報は?」

「王都からの報告ではとんでもない化け蜘蛛が出たとか……」


 化け蜘蛛……


「えー……マ、マスター……」


 AIちゃんが不安そうに見上げてくる。


「よしよし、そんなに怖がるな」


 そう言いながらAIちゃんの頭を撫でた。


「は、はい……」

『いや! マスターの大蜘蛛ちゃんでしょ!?』


 だろうね。


「調査と言うが、具体的には何をすれば依頼達成なんだ?」

「原因を掴んでくださるのが一番ですね」


 それ、途方もない気がするぞ。

 魔物が多いと言うが、それがただの偶然だったら時間を無駄にするだけだ。


「化け蜘蛛を捕まえてくればいいのか?」

「ん?」

「だから化け蜘蛛を持ってくれば依頼料をもらえるのか?」

「えーっと、まあ?」


 よしよし。

 じゃあ、今すぐに終わるな。


 俺は懐から護符を取り出した。


「マ、マスター!? や、やめましょうよー!」


 AIちゃんが俺の袖を引っ張りながら止めてくる。


「すぐに依頼料が手に入るぞ」

「いやいやいや!」


 AIちゃんが顔をブンブンと横に振った。


「あっ……犯人がわかっちゃった」

「…………自作自演はひどいね」


 ナタリアとアリスはわかったようだ。

 まあ、俺が式神を使えるのは知っているし、昨日、でっかい蜘蛛を出せるって言ったもんな。


「あ、あのー……化け蜘蛛の出処ってユウマさんです?」


 俺達のやり取りで勘付いたパメラが恐る恐る聞いてくる。


「3日前に出したな。どこぞのお偉いさんがオークに襲われて危なかったんで助けてやったんだ。まあ、あの豚程度では俺の大蜘蛛ちゃんの敵ではなかったな」

「…………こほん! いいですか? 私は何も聞いていませんし、ユウマさんも何も聞いていない。絶対にそれを他所で言わないでください」

「問題にでもなっているのか?」

「3日前に王女様が乗っていた馬車がオークと化け蜘蛛に襲われたという極秘情報が各ギルドに回っています」


 あれ、お姫様が乗っている馬車だったのか……

 他国とはいえ、お姫様を救うなんてとても良いことをしたな。


「ほれ見ろ。救って正解だった」


 AIちゃんに同意を求める。


「そうですね。そして、出ていかないで正解でしたね。絶対に面倒なことになってましたよ」


 まったくだ。

 しかし、お姫様を守る兵の練度があれでいいのかね?

 いや、十分に強そうではあったけど……


「パメラ、言っておくが、魔物の増加現象は俺のせいではないぞ。3日前に転生したばかりだし、大蜘蛛ちゃんだってほんのちょっと出しただけだ」

「え、ええ……わかっています。魔物の増加はひと月以上前から見られますし、ユウマさんは関係ないと思います」


 結構前だな。


「しかし、そうなると原因を探るのが難しいな。俺も森にいたが、そんな大きな力は感じなかったぞ」

「そうなんですか? うーん……奥まで行けます?」


 奥ねー……


「お前らはどう思う? というか、森の奥に行けるか?」


 ナタリアとアリスに確認する。


「正直に言うと、ユウマ次第。私達は魔法使いだから見通しの利かない森は苦手」

「…………斥候のリリーがいないんだよね」


 実家に戻っているリリーっていう子が斥候らしい。


「まあ、斥候くらいなら俺でもAIちゃんでもできるが…………」


 どうしようかね?


「御二人共、マスターはあなた方が女性なことに気を使っておられるのです。最悪は野宿もあり得ますし」


 AIちゃんが代弁してくれた。


「あ、それは大丈夫だよ。さすがに慣れてるし」

「…………問題ない。でも、2泊は嫌。お風呂に入りたいし」


 1泊ならいいってことね。


「じゃあ、ちょっと見てくるか……パメラ、依頼料はいくらだ?」

「基本料金は金貨10枚です。あとは歩合ですね」


 歩合が引っかかるが、逆に言うと、何もしなくても金貨10枚は入るわけだ。

 悪くないな。


「どうする? 俺は悪くないと思うぞ」


 ナタリアとアリスに聞いてみる。


「私も良いと思う、森に行くなら採取や魔物を倒して素材を入手できるからもっと儲かるし」

「…………討伐依頼じゃないからヤバいと思ったら逃げればいいしね」


 経験のある2人も賛成か……


「AIちゃんは?」

「良いと思います。カラスちゃんがいますし、マスターの索敵能力なら何かしら掴めるかもしれません」


 AIちゃんも賛成のようだ。


「では、そうしよう。パメラ、この依頼を受けようと思う。ちなみにだが、この依頼を受けるのは俺達だけか?」

「はい。王都から各ギルドに調査の依頼が来ているのですが、この西区は西の森の調査をするように言われました。特に適任がいないので御三方に……」


 たかが森の調査で適任がいない?

 ショボいギルドなのかな?

 あ、いや、そういう風にして俺に回してくれたのか……


「わかった。じゃあ、ちょっと見てくるわ。行くぞ、お前ら」

「はーい」

「れっつごー」

「…………ごー!」


 俺達はギルドを出ると、西門に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る