第026話 食事にも慣れてきた


「マスター、マスター、起きてくださーい」


 誰かが寝ている俺の身体を後ろから揺らしている。

 まあ、マスターって言っているし、AIちゃんだろう。


「なんだー……?」


 眠い……


「いや、こっちを向いてくださいよー。絶対に目を開けてないでしょ。朝ですってー」


 朝?


「嘘つけ。めっちゃ眠いぞ」

「おじいちゃんは早起きでしたもんねー」


 下手をすると、夜明け前に起きることもあった。


「これが若さかー……」

「はい、そうです。起きてくださいよー。見てほしいものがあるんです」

「んー?」


 俺は目を開けると、寝返りを打ち、声がする方を向く。

 すると、AIちゃんがベッドに腕を置いてこちらを見ていた。


「どうです?」


 AIちゃんがそう言いながら頭の上にある獣耳をぴょこぴょこと動かす。


「半妖化? できるようになったのか?」

「はい。頑張りました」


 うーん、確かに霊力が上がっている。


「良かったな。尻尾は?」

「こんな感じです」


 AIちゃんがそう言って後ろを向くと、確かに金色に輝く尻尾があった。


「母上に近づいたな。一つも嬉しくないが、おめでとう」

「そんなにお母様が嫌いです?」

「嫌いじゃないが、幼女姿の母親を見て喜ぶ男はいねーよ…………おやすみ」


 スヤー……


「寝ないでくださーい。お仕事に行くんでしょー」

「そうだな……ハァ……眠い」


 そういえば、若い時はこんなに眠気が来るんだったな……


「顔を洗ってください。朝ご飯を取ってきますので」

「その耳と尻尾はしまえよ」

「わかってますよ」


 AIちゃんは尻尾と獣耳を引っ込ませると部屋を出ていった。


「起きるか……」


 布団から出ると、洗面所に行き、顔を洗う。

 そして、寝巻から服に着替えると、AIちゃんが食事を持って戻ってきた。

 何故か、今日もナタリアとアリスも一緒だ。


「お前ら、自分の部屋で食べないのか?」


 机にパンや野菜を置いている2人に聞いてみる。


「なんで? 皆で食べた方が美味しいじゃん」

「…………普通はパーティーや仲間で食べるもの」


 そういう文化なのかね?

 俺は基本、家に帰って、家族と食べてた。


「ふーん……まあ、連携とかを考えれば親密度とかを上げた方が良いのかね?」

「う、うん。そうだね」

「…………親密度」


 こいつら、ちょこちょこ警戒するなー……


「マスター、準備ができましたよ。食べましょう」

「そうだな」


 俺の分はAIちゃんが準備をしてくれたで座って食事を始めた。


「今日もパメラさんが依頼を斡旋してくれるんだよね?」


 ナタリアが野菜を食べながら聞いてくる。


「そういう話だな。お前らはどうするんだ?」

「私達も手伝うよ。これから行ってもロクなのが残っていないし」

「…………もう諦めた。どう頑張っても私達では競争に勝てない。前はハリソンがやってくれた」


 気の弱そうなナタリアとチビのアリスでは無理だろうな。


「俺がやってやろうか?」


 男だし。

 他の冒険者の男共は俺より縦にも横にも大きいが、問題ないだろう。


「なんか怖いからやめて」

「…………死人が出そう」


 出ねーよ。


「どちらにせよ、マスターはどの依頼が良いとかわからないでしょ。ここはやはりパメラさんにお願いする方が良いと思います」

「それもそうだな。パメラに任せるか……袖の下はいるか?」

「大丈夫じゃないですかね? たまに心付けでもしてください」


 そうするか……


「袖の下って何?」

「…………心付けって?」


 ナタリアとアリスが聞いてくる。


「袖の下は賄賂です。心付けはチップです」

「あ、そう……」

「…………どっちも同じような?」


 2人が俺をじーっと見てくる。


「大事なことだぞ? ああいうのはさっさと支配下に置くべきだ」

「昨日、食事に誘おうとしてたけど、そういうことだったんだね」

「…………支配下っていう言葉が怖い。貴族様だ」


 取引相手には心証をよくするのものだ。

 実際、もらったこともあるし、将軍様や陛下に贈り物は欠かさなかった。

 あと、寺にも寄付した。


「お前らだって世話になった人に感謝を示すだろ。それと同じ。そういうわけでお前らには俺の野菜をやろう」


 皿に乗っている野菜を2人のもとに置く。


「サラダくらい食べなよ。好き嫌いは良くないよ?」

「…………大きくなれないよ?」

「じゃあ、お前は好き嫌いが多いんだな」


 チビじゃん。


「…………チビって言われた」


 言ってはねーよ。

 言っては……


「マスター、ドレッシングをかけると美味しいですよ。それにこのサラダは苦くないです」

「ふーん……じゃあ、食べるか」


 AIちゃんに勧められた通りに謎のタレをかけると、結構美味かった。


 俺達はその後も話しながら食事を続け、食べ終えると、ギルドに向かうことにする。

 ギルドに着くと、ナタリアが言うように少し遅い時間だったらしく、昨日よりは冒険者の数が少なかった。


「このくらいの時間でいいかもな……起きるのきついし」


 人ごみも嫌いだし。


「というか、早く寝ればいいんじゃないですか? 遅くまで陰陽術の勉強や訓練をなさるのは大変素晴らしいことだと思いますが、健康には気を付けてください」

「酒がないんだよ」


 寝る前に酒を飲むのが日課だった。


「お酒ならあるよ」

「…………私達はあまり飲まないけど、欲しいならキッチン担当に言えばいいよ」


 キッチン担当?


「そんなのがいるのか?」

「担当というか、料理が趣味の人がいる。ウチの寮にはキッチンがあって誰でも好きに使えるんだけど、お金さえ払えば作ってくれるよ。もちろん、仕事でいない時は無理だけどね」

「…………冒険者でお金を貯めて将来は自分の店を持ちたいんだって」


 なるほど。

 そういう動機で冒険者になる人もいるのか。

 冒険者は儲かるだろうし、普通に働くより、ずっと夢が近づくものだろう。


「夜にでも覗いてみるか」


 俺、金を払ってないし。

 多分、ナタリアが出してくれているんだろうな……


『ナタリアさんってヒモ製造機みたいな人ですもんね』


 やめてやれ。

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