第025話 奥さんが12人もいた恐ろしさ ★
夕食を食べ終え、明日の予定を決めた後、部屋に戻り、お風呂に入った。
そして、本を読んでいると、部屋にノックの音が響く。
「はーい?」
まさかユウマ……
『私だ。ナタリア、ちょっといいか?』
この声はクランリーダーのレイラさんだ。
「大丈夫ですよ」
私がそう言うと、扉が開かれ、レイラさんが部屋に入ってきた。
「こんな時間にすまんな」
レイラさんが謝罪してくる。
「いえ……戻ったんですね」
レイラさんは数日前から仕事で町を出ていたのだ。
「ああ、さっきな。それでちょっとお前に話を聞きたいんだが、少しいいか?」
「大丈夫ですよ。あ、どうぞ」
椅子に座るように勧めると、レイラさんが椅子に座った。
「ふぅ……それで確認したいことがあるんだが、お前らがハリソンの代わりを見つけたというのは本当か?」
あ、ユウマのことだ。
「はい。依頼中にたまたま会った転生者さんです」
「そうか……実は依頼報告時にパメラに話を聞いてな。相当な使い手らしいな?」
あー……パメラさんが話したのか。
「そうですね。奇妙な魔法を使いますし、剣術の腕もかなりのものでした」
剣というか紙だったけど。
「ふむ…………危険はないか?」
「あー……うーん……」
どうかな?
「どうした? 何かあるのか?」
「いえ、とてもいい人ですよ。気を遣ってくれますし」
「ふーん……でも、何かあるんだろ?」
「ええ……まあ。まずですけど、転生前は相当な名家の当主だったみたいです。言葉使いがかなり上から目線ですね」
本人に悪気はないんだろうが、偉そうだ。
「貴族か……他には?」
「えーっと、奥さんが12人もいたらしいです」
「…………それはすごいな」
本当にすごい。
「99歳で亡くなったらしいんですけど、本人は20歳だそうで記憶がないみたいですけど、一緒にいるAIちゃんという子いわく、相当な人らしいですね」
「ふーん……お前ら、大丈夫か?」
「多分……いい人ですし」
でも、ちょっと怖い。
「……本当に大丈夫か?」
「ちょっと不安かなー……あの人、確かに紳士かもしれないですけど、強引なところがあるもんで…………一泊だけのつもりで客室を貸したんですけど、乗っ取られました。もっと言うと、私達にパーティーも乗っ取られそうです。すでにリーダーを名乗っています」
「……まあ、部屋は余っているし、好きにすればいいが…………パーティーのことは私が言ってやろうか?」
言っても聞かないと思うな……
というか、AIちゃんが文句を言うだろうな。
「いえ、どちらにせよ、勧誘しようと思っていましたし、いずれはリーダーもお願いしようとは思っていましたので大丈夫です」
アリスも言っていたが、やはりリーダーは男の人がいい。
「そうか……まあ、ウチは自由がモットーだから好きにすればいいが、問題はやめてくれよ」
問題があるとしたらそれこそお腹ポッコリだろうな。
恐ろしいのはあの人にはそういう女性に対する欲がまったく見えないことだ。
だけど、強引だし、自然に距離が縮んでいっている気がする。
「だ、大丈夫です」
「そ、そうか……アリスはどうだ?」
「アリスも問題ないと思います。ユウマを勧誘しようと言ってきたのはアリスですし」
盗賊討伐の仕事を終えた帰り道でこっそり提案された。
『ナタリア、ちょっと抱かれてきて』って言われた時は叩いたけど……
「ふーん、まあ、上手くやれそうならいいが……」
「会われます?」
「後だな。私は明日の早朝から王都に行かないといけないんだ」
忙しいんだな……
「あの、ウチのクランの一員ってことでいいですかね?」
「まあ、いいんじゃないかな? 私は別に指示せんし、好きにすればいい。というか、貴族は私の言うことを聞かないだろうし、お前らで上手くやってくれ。一応、戻ったら会って話は聞くつもりだ」
レイラさんのこのスタンスは楽でいいし、私達的には助かっているんだが、ウチのクランが上に行けない原因でもある。
「わかりました。ユウマにもそう伝えておきます」
「ああ。ユウマという名でいいんだな?」
「はい。如月ユウマさんです」
私がそう言うと、レイラさんがビクッとした。
「如月?」
「はい。苗字が先にくる世界らしいですよ」
「そうか…………如月……」
レイラさんが悩みだす。
「知っているんですか?」
「いや、ちょっとな……まあ、大体の話はわかった。私としては特に言うことはないから上手くやってくれ。パメラから聞いたが、ギルドとしては相当期待しているらしいし、ジェフリーも評価しているらしい」
やっぱりそうか。
あの優遇っぷりは異常だ。
「はい。いい人ですし、大丈夫だと思います。もっと上に行けるかもしれません」
魔力が上がるかもしれないし。
「そうか。頑張れ」
「…………でも、子供ができたら引退です」
「あ、うん……」
どうなるんだろうねー?
真に怖いのはそうなっても受け入れてもいいかもと思っている自分が心のどこかにいることなのだ。
事実、部屋をノックされた時、ちょっとドキッとしたもん。
そして、多分、アリスもそう思っている。
アリスとは生まれた時からの付き合いだが、あの子が男の人にあんなに懐くのは初めて見たのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます