第024話 どういう生活を送っていたんだろう?


 ギルドに戻り、パメラから料金を受け取った俺達はギルドを出ると、周辺の家の裏で虫を取り、昼に買った麻袋に入れていた。


「マスター、あまり数を取っても毒への耐性がない御二人は食べられませんよ」

「それもそうか……」


 少しずつ慣れさせるべきだな。


「そっちはいい感じの虫が取れたか?」

「ムカデは見つかりませんでしたが、クモは数匹捕まえました」

「まあ、そんなもんか。くれ」


 俺はAIちゃんから麻袋を受け取ると、術をかけた。


「それは何ですか?」


 AIちゃんが聞いてくる。


「蟲毒の術。毒虫同士を最後の一匹になるまで共食いをさせる。これにより、強力な毒虫が完成するからこれを食わせよう」


 いっぱい食わせるよりマシだろ。


「それ、大丈夫なんですか? マスターは半分妖怪ですし、幼少の頃から鍛えてきたから問題ないでしょうが、あの2人は普通の人間ですよ?」

「まあ、数匹だからたいしたことはないし、それに毒は必ずしも悪いものではない。あと、俺が失敗するわけない」


 呪いに近い術だが、得意なのだ。


「まあ、マスターがそう言うならそうなんでしょうかね?」

「そうなんだよ。じゃあ、帰るぞ。帰る頃には術も終わっているだろうから加工しないといけない」


 すりつぶして、見た目を誤魔化さないと。


「そうですね。虫を生で食べるのはお母様だけですし」

「しゃーない。あの人、狐だもん」


 俺が捕まえたカブトムシを食べたのは絶対に許さないがな。


 俺達は用事を終えたので自宅と化したクランの寮の部屋に戻ると、掃除をし、買った家具を設置していった。

 そして、毒虫をすりつぶし、わからないように丸薬にしたところでナタリアがアリスと一緒に夕食を持ってきてくれたので食べることにした。


「うーん、美味いな」


 猪肉を焼いたやつを食べてみたが、臭みもなく美味しい。


「ビッグボアは普通の猪より美味しいからね。皆、感謝してたよ」

「…………だね」


 喜んでくれたのなら良かった。


「全然会わないが、本当にいるのか?」

「皆、朝早いしねー。まあ、そのうち会うでしょ」


 そんなもんか……


「…………それよりも本当に床に座るんだ」


 ナタリアとアリスは俺やAIちゃんと同じように床に座って、夕食を食べている。


「こっちの方が落ち着くんだ」


 生まれてからほとんどこれだし。


「わからないでもないけど、足が痺れそうだね」

「…………ご飯を食べ終えたらそのまま横になって寝そう」


 どうでもいいけど、こいつら、なんで自分の部屋で食べないんだろう?


「あー、美味しかった」

「…………うん。満足」


 俺も美味かった。


「お前らに特別なデザートがあるぞ」


 俺は小さな丸薬を二つ取り出し、机に置く。

 もちろん、例のやつ。


「何これ?」

「…………もしかして、魔力を上げるための特別な薬?」

「そうそう。味わわずに水で流し込め」


 魔力とやらを上げたまえ。


「全然、デザートじゃないじゃん」

「…………まあ、お薬だからね」


 2人はそう言いながらも丸薬を手に取り、水で流し込んだ。


「毎日、作ってやるからなー」

「こっちの世界に来たばっかりなのによく作れるね」

「…………そういえば、材料は何?」


 言えない。


「これは如月一族の秘密だから言うことはできない」


 嘘。

 だって、怒るもん。


「まあ、魔力を上げられる薬なんて簡単には言えないよね」

「…………それでお金儲けできそう。魔法使いは皆買うよ」


 バレたら世界中の魔法使いに恨まれるから嫌だ。


「これは特別なんだ」

「ふーん……ありがとう」

「…………リーダー万歳」


 いやー……墓場まで持っていこう。

 こいつらの嬉しそうな顔と感謝の言葉が痛い。


「それでさー、話は変わるんだけど、冒険者って今日みたいな仕事をするってことでいいのか?」

「まあ、大体はね。私達は旅をする冒険者じゃなくて、町に滞在する冒険者だからこんな感じだよ」

「…………遠出はあまりしない。最長でも3、4日」


 女の旅は危険だろうし、そんなもんか。


「マスター、その辺を留意する必要がありますよ」


 AIちゃんが忠告してきた。


「大丈夫。俺は気遣いができる人間なんだ」

「さすがは当主様ですね」


 まあ、当主の時の記憶はほぼないんだけどな。


「あの、本当にリーダーをやるの? というか、やりたいの?」

「不満ですか?」


 AIちゃんがナタリアをちょっと睨む。


「いや、リーダーなんて責任ばっかりでやりたがる人間が珍しくてさ」

「…………私達的には男の人がリーダーをやってくれた方がありがたいんだけどね」


 女が頭になると、やっかみを受けることが多い。

 こっちの世界でもそういうのがあるんだな。


「気にするな。俺がちゃんとお前らをAランクにしてやる」

「あ、うん」

「…………どうも。でも、リリーがいないから勝手に決められないんで待ってね。というわけで仮リーダー」


 そういえば、リリーとかいうのがいるんだっけ。


「そのリリーって子はいつ帰ってくるんだ?」

「さあ? 実家に帰ったからねー。距離的にはもう帰ってきてもいい頃だけど、久しぶりに帰るみたいだし、ゆっくりするかもしれない」

「…………経緯を言うと、ハリソンが抜けた時にパーティーが維持できなくなったから代わりを探すまでは長期休暇にしようってことになったんだよ。リリーは内気なくせにうるさい子だから勧誘は無理そうだし、リリーが実家に帰っている間に私達が探すからゆっくりしておいでって言ってあるんだ。それが1ヶ月前の出来事」


 なるほど、なるほど。


「それでいいのがいなかったわけ?」


 1ヶ月経っているのに2人ということはそういうことだろう。


「女子3人は難しいんだよ。欲しいのは前衛ができる男の人だけど、女子目当ての人ばっかり。そうじゃなくても女子3人で男の人1人だと気まずいでしょうし」


 ハリソン君の場合は幼馴染だったから良かったんだな。


「そういうことならこのマスターがおすすめです。気まずいと思うことなんてありませんし、女子供に優しい紳士です。しかも、長年一族をまとめあげ、多くの人から信頼されてきた国の重鎮です。玉に瑕なのは気付いたら3人のお腹がぽっこりになっているかもしれないことですね」


 それ、致命的じゃない?


「それのどこが紳士なの?」

「…………女たらしにしか聞こえない」


 俺もそう思う。


「大丈夫! 12人を養った実績はあります!」

「30人以上の子供だっけ? 楽しそうだね」

「…………ちょっと見てみたい」


 俺も家でどんな感じだったのか気になってきた。


「AIちゃん、俺の今回の人生はそうはならんから俺を女好きみたいに言うのをやめろ」

「マスター、三つ子の魂百までという……」


 うるさいな。


「もういいから。とにかく、明日もギルドで仕事を受けるでいいな?」


 不当な評価をするAIちゃんを止め、ナタリアとアリスに確認する。


「いいんじゃない?」

「…………明日も良い依頼があるかな?」

「そこは大丈夫。パメラにいい仕事があったらこっそり回してくれるように言っておいたから」


 いいですよーって言ってた。

 良い奴。


「いつの間に……」

「…………パメラもユウマを他所に取られたくなくて必死だ」


 俺はありがたいが、何か悪い気がするな。


「今度、飯でも奢ってやるか……」


 金に余裕ができたら高い飯を奢ってやろう。

 こういうのは持ちつ持たれつなのだ。


「あ、今、奥さんが12人もいた片鱗が見えた」

「…………手口がわかったね。自然に誘うんだ」


 違うっての。

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