第018話 一泊


 地図で町というか西区を確認した後はアリスに簡単な術式を教えてやった。

 だが、やはり霊力と魔量の違いからかアリスは術を使うことができなかった。


 その後、しばらくアリスと話をしていると、ナタリアがご飯を持ってきてくれたのでAIちゃんを含めた4人で夕食を食べることにした。


「もさもさしているけど、悪くないな」

「これはパンという小麦が材料の主食ですよ。うん、美味しい」

「へー……肉料理も美味いな」

「ですねー」


 俺とAIちゃんは満足しながらご飯を食べていく。


「お口に合ったのなら良かったよ」


 ナタリアが嬉しそうに笑う。


「うん、良かったわ。食事が合うなら問題ないな。正直、そこが不安だった」


 飯が不味い世界だったら最悪だもん。


「…………逆にユウマの世界の食事が気になる」


 アリスがパンをかじりながら言う。


「米と魚かなー?」

「…………普通だ」

「お米なら南に行けば、普通にあるよ」


 稲作をやっているところもあるのか……


「恋しくなったら南にでも行くかねー? まあ、今はこれでいいけど」


 パンも美味いわ。


「王都に行けば、売ってると思うよ。高いけど」

「…………確かに売ってる。高いけど」


 高いのか……

 まあ、輸送費もあるだろうしな。


「儲かったら買ってみるか。問題は俺が料理できないことだな。AIちゃん、できる?」

「インストールすればできます。料理人でもスキャンしましょう」


 ん?


「スキャンってなんだ?」

「触れる必要がありますが、私は人の能力を探れます」

「もしかして、あのおっさんの足をバンバン叩いてたのはそれか?」

「そうです」


 だからか……

 AIちゃんが急に子供じみたことをするから変だと思った。


「どうだった?」

「情けないおっさんに見えましたが、相当な実力者です」


 マジ?

 あれが?


「そうなのか?」


 俺はナタリアとアリスに聞く。


「うん。あの人、元Aランクの冒険者だもん。40歳になって引退したらしいけど」

「…………というか、あのギルドのギルマスだよ。長ってこと」


 そうだったのか……

 そういえば、あいつがDランクの許可を出してたな。


「ジェフリーだっけ?」

「そうそう。ギルマスって呼ぶとガラじゃないからやめろって言うから皆、名前で呼んでる」


 ふーん……


「まあ、今度会ったら挨拶しておくか……おっさんなんて、失礼なことを言った」


 立場ある人間に取る態度ではなかった。


「気にしないと思うけどね」

「…………うん。ただの酒癖の悪い輩だよ。たまにその辺で寝てるし」


 ダメな男だったわ。


「まあ、いいや。じゃあ、AIちゃん、料理できそうな人を見つけたらスキャンして」

「わかりました…………」


 AIちゃんはナタリアとアリスをじーっと見る。


「料理はできるけど、さすがにお米はわからない。料理屋でしか食べたことないし」

「…………私もそんなもん」


 この辺の人はあまり食べないんだろうな。


「気長でいいぞ」

「了解しました。何にしてもまずは当面のお金稼ぎですね」

「そうなるな。明日、ギルドに行って、パメラに紹介してもらおう」


 いい子だったし、きっと儲かる仕事を紹介してくれるだろう。


「あ、そうだ。明日、一緒に仕事をしない?」


 ナタリアが誘ってきた。


「んー? お前、Cランクだろ? 俺が受けるのはDランクだぞ」

「別に毎回Cランクの仕事をするわけじゃないよ。あの盗賊狩りにしてもDランクだし」


 あれでDランクか……


「まあ、手伝ってくれるならありがたいな。俺、何も知らないし」

「アリスはどうする?」


 ナタリアがアリスにも確認する。


「…………ナタリアが行くなら行く」


 この子達って仲いいな。


「お前らって、王都の人間って言ってたな? そこからの付き合いでパーティーを組んだのか?」

「そうだよ。幼馴染なんだ」

「…………家が隣だった」


 なるほど。

 それで一緒に冒険者か。


「そういえばですけど、御二人のパーティーって他にいないんですか?」


 AIちゃんが聞く。


「あー、実は4人パーティーだったんだけど、1人抜けた」

「…………同じく幼馴染だったハリソン。酒場の女の子と良い仲になって王都に帰って稼業を継ぐらしい」


 結婚したわけね。

 そりゃ、危険な仕事をするより、継ぐ家があるならそっちを継いだ方が堅実だ。


「もう1人は?」

「リリーって子だね。ちょっと出かけてる」

「…………弓を使うアーチャーなんだけど、弓が壊れたから実家に修理に戻っている。だから実は私達のパーティーは機能していないのでお休み中」


 なるほど。

 だからCランクパーティーなのにDランクの仕事をしていたわけだ。


「見る限り、御二人は魔法使いに見えます。もう1人がアーチャーですよね? それ、大丈夫なんです?」


 言われてみれば、近接戦闘ができる奴がいないな。

 多分、ハリソン君がその役目だったのだろう。


「そう。だからどうしようか考え中」

「…………うん。考え中」


 2人はそう言いながら俺をじーっと見てくる。


「なんだ?」

「ううん。いいの。あ、パンのおかわりもあるよ」


 ナタリアがテーブルの上に置いてあるパンが入ったカゴを俺の方に押した。


「…………水飲む?」


 アリスが俺のコップに水を注いでくれる。


「悪いな」


 気の利く優しい子達だわ。


「若い頃のマスターは素直でいい人だったんですねー」


 最初からそう言ってるだろ。

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