第017話 セリアの町


 俺とAIちゃんはナタリアとアリスに案内され、とある建物の前に来ていた。

 建物はかなり高く、大きさも十分な石造りの塔みたいな感じだ。


「ここがウチのクランの寮だよ」


 ナタリアがそう言ったので建物をよく見ていると、【風の翼】という文字が書いてある看板が見えた。


「【風の翼】?」

「あ、ウチのクラン名だよ。クランリーダーは【疾風】っていう二つ名を持っているAランク冒険者なの」


 Aランク。

 強そうだ。


「ふーん……それにしても随分と大きいな。それになんだこの石」


 建物の壁を触ってみるが、つるつるだ。

 それに石を積んだようには見えないし、泥でも固めて作ったんだろうか?

 周囲の建物もそんな感じである。


「石じゃないよ。私も詳しくはないけど、そういう素材を混ぜて固めたやつかな?」


 ふーん、独自の技術かな?


「地震で倒壊しそうだな」

「地震って何?」


 ん?


「地面が揺れる自然現象だ」

「何それ?」


 え? ないの?


「…………私は知ってる。南の方の火山がある国ではそういう地揺れがあるって聞いたことがある」


 火山はウチの国にもあったな。

 ということは火山がないと地震がないのだろうか?


「倒壊しないならいいわ」

「怖いことを言うね。大丈夫だよ。ほら、入って」


 そう言われたので建物の中に入る。

 建物の中は広く、吹き抜け構造となっており、上を見上げると、3階建てなことがわかる。


「ここがエントランス。とりあえず、客室に案内するね…………1階でいいかな?」


 ナタリアがアリスを見る。


「…………いいと思う。空いているのはあそこ」


 アリスが頷くと、左にある扉を指差した。


「じゃあ、あそこでいいか」


 ナタリアがそう言って歩いていったので扉に向かう。

 そして、扉を開けると、そのまま中に入った。


 部屋は10畳くらいの広さであり、テーブルや布団が敷いてある台がある程度だった。

 

「悪いな」

「ううん、こんなので良かった?」


 きれいだし、問題ない。

 というか、意見を言える立場ではない。


「一つ聞いていいか?」

「なーに?」

「お前らって、家の中でも土足なの?」


 ずっと気になっていた。


「え? 土足じゃないの? さすがに寝る時は脱ぐけど」

「あー、いやいい。ウチは脱ぐ風習だっただけだし」

「そうなんだ…………全然、違うね」

「まあ、これはこれで楽しいわ。本当に異世界だし」


 見るものすべてが新鮮だ。


「そう? なら良かった。ご飯はどうする? 用意はできるけど、口に合うかな?」


 食文化も違いそうだなー。

 何しろ、ここに来るまで田んぼを一切見ていない。


「くれ。食べてみたい」

「じゃあ、夕食の時間に持ってくるね」

「感謝する」

「うん。私はちょっと料理担当の人に話しにいくからまたね」


 ナタリアはそう言って、笑顔で手を振りながら部屋から出ていった。


「お前は?」


 俺は残っているアリスを見る。


「…………暇だから魔法を教えて」

「まあ、いいけど……」

「あ、その前に町のことを教えてもらえませんか? 地図はできたんですけど、詳細なことを知りたいです」


 そういえば、いつの間にかAIちゃんは地図を描くのをやめていたな。

 どうやら描き終えていたらしい。


「…………いいよ」


 アリスが返事をすると、AIちゃんがテーブルに紙を置いた。

 俺とアリスはテーブルにつき、その紙を見る。

 紙に描いてあったのは精巧すぎる地図であった。


「すごいな……」

「…………こんな精巧な地図は見たことがない。これ、高値で売れそう」


 冒険者になんかならなくても地図で儲けられそうだわ。

 それくらいに精巧な地図だった。


「カラスちゃんが見た映像をインストールし、アウトプットするだけですよ」


 簡単に言うなー……

 さすがは優秀なスキルだわ。


「…………そういえば、カラスちゃんは?」


 アリスが聞いてくる。


「今はこの建物の屋根で周囲を見張っている」

「…………そんなこともできるんだ……」


 むしろ、そういうことが専門である。


「それでアリスさん、この町はどうなっているんです?」


 AIちゃんがアリスに聞く。


「…………簡単に説明すると、この町は東西南北の4つの区に分かれている」

「住居区とかか?」

「…………いや、違う。そういうのじゃなく、それぞれの区が独立している。だからそれぞれの区にギルドや商店、住居なんかがあり、それをそれぞれの区長が管理している形」


 なんかすごいな、それ。


「なんでそんなことになったんだ?」

「…………昔の話だけど、ここはとある領主が管理する町だった。でも、その領主の子供は4つ子だった」

「4つ子!? すげー!」


 頑張ったな、お母さん。


「…………30人以上も子供がいたあなたの方がすごい」


 うん……まあ。


「それはいいだろ。それで? まさか自分の領地を4人の子供に分けたのか?」

「…………そのまさか。4人は甲乙つけがたい能力だったらしく、町を4つの区に分け、子供達に任せた。そして、一番成果を出した子に跡を継がせる気だった。でも、そうさせてすぐにその領主が流行り病で亡くなってしまった。その結果、今日まで町が4つの区に分かれたまま」


 あちゃー。


「その4人の子供は争わなかったのか?」

「…………とても仲の良い兄弟だったらしい。だから誰かに任せるのではなく、兄弟で力を合わせ、頑張っていこうということになったらしい」


 いい話だねー。

 そいつらにとってはだけど。


「でも、そいつらの子はそう思わんだろ」

「…………もちろん。だから次の代からギスギスし、今の感じになった。同じ町の中に実質、4つの町があるのはそのせい。当然、今の4人の区長は仲が悪いし、それぞれの組織……つまり冒険者ギルドを始め、商人ギルドなんかも仲が悪い」


 ふーん……


「ここはどこだ?」

「…………ここは西区。ちょうどこの川と水路が境目」


 アリスはそう言いながら地図に描いてある川と水路をなぞる。


「ということはお前らって他所の区にはあまり行かないのか?」

「…………西区で事が足りるからね。あと、西区の住人が他所の区で買い物をしようとすると、さすがにぼったくりはないけど、まず値切れない」


 嫌な町……


「冒険者同士も争っているのか?」

「…………まあね。仲が良いというか交流するクランもあるよ。正直に言えば、私だってナタリアだってこの町の出身じゃないからどうでもいいって思っているしね」

「そうなのか?」

「…………私達はこの町から北にある王都の出身。クランリーダーの【疾風】に憧れてここまで来た」


 へー。

 Aランクってすごいな。


「そういう冒険者は多いわけ?」

「…………まあ、誰かに憧れるというのもあるけど、冒険者は学がなくてもなれるし、流れ者も多い。嫌になったら別の町や国に行くでしょ」


 自由業なわけだ。


「なるほどねー」

「…………うん。そういうわけで他の区は詳しくないけど、西区はわかるよ。主要な店とかを書いてあげる」


 アリスはそう言うと、ペンで地図に店の名前とかを書きこんでいった。

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