第016話 クラン ★


「ウチってお前の家か? 俺がいた世界では非常にはしたないことを言っているぞ」

「…………あー、ウチって言ったけど、私の部屋じゃない。実は私達はクランに所属しているんだけど、クランの寮で寝泊まりをしている。そこには客室もあるし、一泊くらいなら泊まってもいいよってこと」


 一つの屋敷にアリスとナタリアが泊まっているってことかな?


「すまん。クランって何だ?」

「…………クランっていうのはパーティーの集合体って思ってくれればいい。私達の他にもクランリーダーの元、別のパーティーが所属している」


 ふむふむ。

 大体、わかった。


「クランリーダーに許可を得なくてもいいのか?」

「…………一泊くらいなら問題ない」


 ふーん……


「AIちゃん、どう思う?」

「お金を借りるよりかは好意に甘えた方がいいと思います」


 そりゃそうだ。


「ナタリア、お前もいいか?」

「うん。部屋は空いているし、良いと思うよ」


 ナタリアは笑顔で頷く。


「じゃあ、頼むわ。この恩は必ず返すからな」

「…………別にいい。困っている時はお互い様」


 アリスも優しいわ。

 異世界というよくわからないところにやってきたが、縁には恵まれたようだ。


「そういうことだからお前が言うように仕事は明日にする」


 今日の宿の目途が立ったのでパメラの方を向く。


「わかったわ。一応、いい感じの仕事を探しておきましょう」

「頼むわ」


 俺は仕事のことをパメラに頼むと、ナタリアとアリスと共にギルドを出た。




 ◆◇◆




 ナタリアさん、アリスさん、そして、転生者であるユウマさんとよくわからないAIちゃん(?)がギルドを出ていった。

 私はそれを受付内から見送ると、立ち上がり、奥の執務室へと向かい、扉をノックする。


「ジェフリーさん、よろしいでしょうか?」

『ああ……』


 部屋の中から心あらずといった感じの返事が聞こえたため、扉を開け、中に入る。

 すると、部屋の中ではジェフリーさんがデスクにつき、呆然と護符を見ていた。


「どうしました?」

「どうもこうもないな。高かった護符がダメになってる」


 壊れたのか……


「すごい火でしたものね」

「ああ……俺の長年の勘で模擬戦をしなくてよかった」


 そうは思うが、さっきのジェフリーさんはめちゃくちゃかっこ悪かった。


「それ、Cランクの護符ですよね? それを簡単に破壊するとは恐ろしい術者がいたものですね」

「Cランク? これはBランクの護符だ。金貨50枚もする」


 Bランクの護符……


「とんでもないですね……」

「ああ……とんでもない。何がとんでもないってあの火が全力じゃないことだな」


 そんな感じはしていた。

 あのAIちゃんとの会話を聞いていると、明らかに制御し、火を抑えていた。


「火を自在に変えてましたね。火力もですが、制御能力も高いです」

「だな。底が見えんバケモノだ。パメラ、ナタリアとアリスが盗賊狩りをしたんだってな?」

「はい」

「鑑定ができる調査員を派遣しろ。多分、やったのはあの兄ちゃんだ」


 私もそう思う。

 簡単にお金を貸していたし、そういうことだろう。


「了解しました」

「あいつらはどうした?」

「ユウマさんをDランクにしました。その後、仕事を紹介するように言われたんですが、もうこんな時間なので明日にすることになりました。ユウマさんとAIちゃんはナタリアさん達のクランの寮に泊まるようですね」

「なるほど…………早速、囲いにきたか」


 まあ、そうだろう。

 あれほどの術者を放っておくはずがない。


「他に取られる前に動いたようです」

「だろうな。地下の練習場にいた連中があっという間にいなくなっていた」


 地下で練習していた他の冒険者達はユウマさんの火を見て、驚愕していた。

 そして、すぐにいなくなった。

 まあ、自分達のパーティーリーダーやクランリーダーに報告しに行ったんだろう。


「いかがなさいます?」

「とりあえず、このギルドに来るんだろう?」

「はい。明日、来るそうです」

「じゃあ、問題ない。他所の区のギルドに行かれなければいい」


 この町は4つの区に分かれており、それぞれギルドがある。

 もちろん、仲は悪い。


「異世界人は行動が読めませんからね。移籍されないといいのですが……」


 文化も違えば、考え方も違っている。

 どういう行動で機嫌を損ねるかはわからないところがある。


「どういう奴なんだ?」

「おそらくですが、生前はかなりの上流階級か権力者だったと思われます。言葉遣いや態度、立ち振る舞いが貴族のそれです」


 はっきり言えば、偉そう。


「まあ、そんな感じはしたな。他には?」


 えーっと……


「本人はあまり覚えていないようですが、奥さんが12人いたようです」

「…………マジか。すごいな、おい」


 ジェフリーさんも引いている。


「王族ですかね?」

「わからん。女好きなのかね?」

「さあ? 普通の青年に見えましたけどね。言葉遣いはあれですけど、真面目な印象を受けました」


 普通とは言わないが、そんなに女性を口説くような軽そうな人間には見えない。


「まあ、そういうのが得てして…………いや、いい。とにかく、いい感じに接しておけ。間違っても他所に取られるな」

「わかりました」

「それと【風の翼】のクランリーダーに話しておけ」


 【風の翼】とはナタリア達が所属しているクランのことだ。


「レイラさんですか?」

「ああ。あいつがどういう判断をするかは知らんが、一応、耳に入れておけ」

「わかりました」


 あの人、苦手なんだよなー……

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