第015話 Dランク


 俺達が階段を降り、地下にやってくると、そこそこの数の冒険者らしき人が訓練中だった。


「この辺でいいだろ」


 前を歩くおっさんが立ち止まったため、俺達も立ち止まった。


「マスター、頑張って!」

「頑張れー」

「…………がんば」


 少女3人が応援してくれる。


「なんかお前にだけギャラリーがいるな……」


 おっさんが3人を呆れたような目で見る。


「お前にもパメラがいるだろ」

「応援する気はゼロのようだがな」


 パメラはペンと紙を持ち、メモをする体勢となっており、応援する気はなさそうだ。


「お気の毒に」

「チッ! 女はお前みたいなのがいいのか!?」


 そういうことではないと思う。


「どうでもいいから始めようぜ。どうすればいいんだ?」

「模擬戦が良いかと思ったが、お前は魔法使いだったな。やめておこう」


 ん?


「日和りましたよ!」

「まあ、妥当だと思う」

「…………情けない」


 あー、そういうことか。


「別に魔法じゃなくてもいいぞ。俺は剣も使える」

「一番得意なのは魔法だろう? ならば、それを見せてくれ」


 これは確かに日和っているわ。

 まあ、現役時代はどれだけ強かったかは知らないが、引退してるわけだしな。


「どうする?」

「これを見ろ」


 おっさんはそう言うと、護符らしきものは取り出した。


「護符?」

「そうだ。これは魔法を防ぐ護符でな、かなりのものなんだ。俺がこれを持っているから魔法で攻撃してこい」

「大丈夫か?」

「かなりのものと言っただろう。問題ない」


 本当に大丈夫かね?


「マスター! 煉獄大呪殺です! もしくは、妖狐無間地獄です! 如月の力を見せつけるのです!」

「アホ。町が燃えるし、全員、死ぬわ」


 母上に教わったヤバい術だ。


「よし! やっぱりこれにしよう!」


 おっさんは護符を訓練用の藁人形に張った。

 それに術を撃てということらしい。

 もはや、完全に模擬戦ではなくなっている。


「じゃあ、それでいいよ。俺はなんでもいいしな。Dランクはどれくらいだ?」

「魔法を見て判断する。いつでもいいぞ」


 そう言われたので手を宙に向け、狐火を出す。

 すると、手のひらの上に火球が現れた。


「どれくらいだろ?」

「マスター、それではFランクな気がします」


 AIちゃんがそう言うので、霊力の出力を上げ、火を強くする。


「こんなもんか?」

「うーん、Eランクですかね?」


 まだか……


 俺はさらに火力を上げた。


「じゃあ、こんなもん?」

「見た目が大事な気がします。大きくしましょう」


 そう言われたので頭程度の大きさだった火を倍くらいの大きさにしてみる。


「こんなもんか?」

「いい感じです。行きましょう」

「よーし! 狐火!」


 俺が出した火球は狐の尻尾のように伸びていき、藁人形に直撃する。

 すると、藁人形が金色に燃え上がった。


「ひえー……」

「…………私、魔法使いを名乗るのをやめようかな」


 ナタリアとアリスが呆然と燃える火を見ている。


「マスター、どうですー?」

「いや、あの護符すごいな。藁人形が全然燃えてない」


 これだけの火力を出せば、藁なんて一瞬で燃えカスになるものだが、いまだに火の中に藁人形の影が見えている。


「悔しいです。やはりもっと火力を上げておくべきでした」


 いや、あの護符って多分、かなり高価だろ。

 もったいないわ。


「お、おい、あの火はいつまで燃えるんだ?」


 おっさんが聞いてくる。


「お前がいいって言うまでだ。いつまでも燃え続ける」

「消せ! 暑いわ!」


 まあ、地下だしな。


 俺は言われた通りに狐火を消す。

 すると、そこには燃えカスどころか焦げすらついていない藁人形が立っていた。


「すごいです」

「あの護符、いいなー。俺が作る防御の護符より良いもんだろ」


 術式を教えてくれないかな?


「よ、よし! まあまあ、だな! Dランクくらいにしてやろう。パメラ、頼む」


 おっさんはダラダラと汗を流しながらそう言うと、足早に階段を昇っていった。


「えーっと、とりあえず、受付に戻りましょうか」


 呆れた顔でおっさんを目で追っていたパメラがそう言うので、俺達も階段を上がり、受付に戻った。


「では、こちらが冒険者カードになります。転生者であるユウマさんにとっては身分証明にもなるので大事にしてください」

「感謝する。早速、依頼を受けたいんだが……」


 金がない。


「依頼はあそこに壁に依頼票が貼ってあるのでそこを確認ください。もちろん、Cランク以上は受けられません」


 あの壁一面に貼ってある紙が依頼票か。


「ちょっと気になったことを聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「依頼はランクで受けられるか受けられないかはわかる。だが、複数で挑む場合はどうなる? アリスがBランクでナタリアがCランクなわけだろ?」


 Cランクしか受けられないのかな?


「それについてはパーティーランクというものがあるんですよ」


 あー……そういうこと。

 個人のランクではなくパーティーのランクで判断するわけだ。


「なるほど。ちなみに、こいつらのパーティーランクは?」

「えーっと、Cランクですね」


 ふーん……


「まあ、わかったわ。早速だが、仕事をしたい。右も左もわからないからいい感じの依頼を教えてくれ」

「あのー、それなんですけど、もう夕方ですし、依頼は明日にした方がいいですよ? 儲かるのは当然、町から出る仕事ですし、今から出ると、夜になってしまいます。夜は門を閉じますし、野宿になっちゃいますよ」


 どっちみち、野宿なわけか……

 ならば、町の中の方が安心でいい。


「勝手に壁を越えたらマズいよな?」

「もちろんです。それは違法です」


 だよなー。


「ナタリア、お前、きれいな髪をしているな」


 俺は後ろを振り向き、ナタリアを褒める。


「か、貸すよ。貸すから褒めないで。なんか怖い」


 なんで?


「マスターは12人も奥さんがいたから根っからの女好きと思われているんですよ」


 お前がバラしたんだろ。


「12っ!?」


 あ、パメラにもバレた。


「前世はそういう人生だったというだけだ。記憶もないし、知らんわ」

「あ、うん……」


 引いてるし……


「まあ、いい。明日仕事をして、返すから1泊分の金を貸してくれ」

「うん、いいよ」


 優しいナタリアは財布を取り出す。


「…………ユウマ、泊まるところがないならウチに来ない?」


 ナタリアが財布から金貨を取り出したと同時にアリスがとんでもないことを言い出した。

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