第009話 2人の少女


 AIちゃんが降りてきたのでカラスを消すと、2人の女を見る。

 2人はいまだに警戒をしているようで持っている杖を抱くように構えていた。


「杖?」


 そんなもんで何ができる?


「魔法の杖と考えてください。法師様が持っている錫杖のようなものです」


 なるほど。

 魔法の補助道具か。


 まあいい。

 問題はこの女2人だな。

 馬車に乗せてもらうためには友好的にはいかなくてはいけない。


「やあ、君達、ケガはなかったかい?」

「ぷっ……」


 AIちゃんが噴き出した。


「なんだ?」

「いや、誰かなーっと思って。もしかして、それがマスターの女性の落とし方ですか?」


 やめよ……


「お前は黙ってろ。で? ケガは?」


 俺は2人の女を見る。

 1人は茶色の髪をした少女で俺より頭一つ分小さい。

 白い服を着ており、見た感じ、そこまで強そうではない。


 もう1人の女は黒髪の少女のようで茶髪の少女よりもさらに頭一つ分小さい。

 さすがにAIちゃんほど小さくないが、子供に見えてしまう。

 眠そうな半目だが、顔は幼く、これまた強そうではない。


「あ、はい。ケガはないです」

「…………私もない」


 小さい方は声も小さいなー……


「一応、聞くが、こいつらはお仲間さんだったか?」


 チラッと地に伏している盗賊共を見た。


「いえ、こいつらは賊です。私達はセリアの町の冒険者なんです」


 茶髪の少女が一歩前に出てきて、説明する。


「冒険者? そういえば、AIちゃんが昨日もそんなことをチラッと言っていたな」


 軽く流したが、知らん。

 冒険をする者か?


「マスター、冒険者は魔物を倒したり、採取の仕事をするフリーランスの何でも屋のことです。この世界は魔物が多いですし、そういう職業が多いんですよ」


 なるほどね。

 しかし、こんな少女がやる仕事か?

 まあ、陰陽師にも女はいるんだけど。


「えっと、冒険者をご存じないんですか? 格好から見ても外国の方でしょうか?」


 俺達の会話を聞いていた茶髪の少女が聞いてくる。


 さて、どうするかね?

 素直に話すか、適当に誤魔化すか……


『マスター、素直に話す方がよろしいかと思います』


 俺がどうするか悩んでいると、脳内にAIちゃんの声が聞こえてきた。


『その状態でも脳内会話はできるのか?』

『もちろん可能です。私達は繋がっていますので』


 便利だな。


『わかった。それで素直に話した方が良いとは?』

『私のセンサーによると、この2人に敵性反応はありません。多少、警戒はしていますが、悪意は感じ取れません』


 そんなことまでわかるのか。

 30メートル以内じゃないと無理と言われた時はちょっぴし役に立たないなと思ったが、十分すぎる。


『素直に頼った方が良いか?』

『お金もありませんし、知らない土地に行くのです。この者達は私達の目的地であるセリアの町の者でしょう。縁は大事です。もしかしたら奥さんになるかもしれませんよ?』


 いや、奥さんはどうでもいい。


「すまんが、外国の者というか、そもそもこの世界の者ではない」

「え? あ、はい」

「…………ずっと沈黙していたと思ったら急に変なことを言い出した」


 黒髪の少女がボソッとつぶやく。


「変ですまんな。実を言うと、俺は転生者? 転生者でいいのかはわからんが、昨日、この世界にやってきたんだ」

「えっと、その割には随分と成長しているようですけど……」


 まあ、20歳だしな。


「その辺はわからん。とはいえ、俺は確かに昨日、元の世界で死んだ。享年99歳だった」

「え!?」

「…………おじいちゃん」


 おじいちゃんだよ。


「そういうわけで右も左もわからないんだ。このAIちゃんだけが頼りだった」


 俺はそう言いながらAIちゃんの頭を撫でる。


「その子は?」

「俺のスキルの人工知能だ。今は俺の式神に乗り移っている」

「えーっと……すみません。まったくわかりません」


 わからない者同士だな。


「式神というのは従魔みたいなものです。そう認識してください。先ほどの鳥のカラスちゃんもそれと同じです」


 AIちゃんが代わりに説明する。


「なるほど……異世界の魔法でしょうか? それとも転生者のスキル?」

「人工知能である私がマスターのスキルです。右も左もわからないマスターの補助スキルですね。式神はマスターの世界の魔法です」

「な、なるほど……すごいんですね」


 何がすごくて、何がすごくないのかすらわからん。

 多分、こいつらもわかっていない。


「それで冒険者だったか? お前らは何をしていたんだ? 何かの仕事か?」


 俺は話を元に戻した。


「あっ……私達はそのー…………」


 茶髪の少女が気まずそうな顔になる。


「ん? どうした? 言えないような仕事か?」

「…………私達の仕事は盗賊狩り。獲物を奪われた」


 黒髪の少女が俺が殺した盗賊達を指差した。


「あー……それはすまん」


 どうやら横取りをしてしまったらしい。


「い、いえ! いいんです! 助けてもらったわけですし!」

「…………助けなんて求めてない」

「アリス!」


 どうやらこの黒髪はアリスという名らしい。

 変な名前だ。


「本当にすまん。盗賊に襲われている女性に見えたんだ。しかし、なんで女性2人で?」


 めっちゃ弱そうなのに。


「…………そういう囮作戦。盗賊だって強そうなのを襲わないでしょ」


 そりゃそうだ。

 こいつらは弱そうに見えるが、この盗賊共を倒せるくらいの力はあるのだろう。

 正直、貧弱な腕だし、華奢な身体にしか見えないが、おそらく、優秀な魔法を使えるのだと予想できる。


「なるほどな。いや、本当に申し訳ない」

「いえ! 救ってくださったわけですし、それに賊の方からあなたを襲って、返り討ちにしたわけですから仕方がないです」


 カラスをけしかけたんだけどな。


「…………ナタリア、問題はそこ。今回のことは当然仕事だから収入が出る。それは誰の物?」


 茶髪の少女はナタリアらしい。


「そ、それは……」


 揉めるっぽいな……

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