第008話 盗賊
「問題ばっかりの世界だなー……」
カラスと視界をリンクした俺は上空から見下ろしながらつぶやく。
「魔物が多いですし、治安も良くないんでしょうね。多分、盗賊でしょう」
もちろん、盗賊は男達の方だろう。
女の方は馬車を守るように立っているし、どちらが襲っている側かは明白だ。
「盗賊ねー……兵士は何をしているんだか」
「魔物もいますし、難しいんでしょうね。いかがなさいますか?」
「女子供は助ける。そして、助けた恩で馬車に乗せてもらおう」
「さすがです」
どういう意味のさすがかな?
「では、大蜘蛛ちゃんの出番かな?」
俺は懐から護符を取り出す。
「マスター、大蜘蛛ちゃんはやめたほうが良いと思います。多分、助けられた側も怖がるでしょうし、良い印象を与えません」
それもそうだな。
昨日の兵士達も大蜘蛛ちゃんにビビりまくってたし。
「俺が行くか」
「人間ですけど、大丈夫です?」
「餓鬼道に落ちた者は妖と変わらん。俺は寺の坊主でもないし、神職でもない。祓う者だ」
「マスター、かっこいい!」
そうかね?
かわいい子だわ。
「よし、なるべく恩を売るために犠牲者が出る前に向かおう」
「はいさ!」
俺は前方に歩き出すと同時に式神のカラスに男を攻撃するように命じた。
すると、上空を滑空していたカラスが一人の盗賊に突撃する。
「ん? 鳥…………って、うおっ!」
盗賊の1人がカラスの突進を慌てて躱した。
どうでもいいが、ちゃんと言葉を理解できるな。
言語のインストールは上手くいっているようだ。
「なんだ?」
「どうした?」
「ん? 鳥か?」
他の盗賊共もカラスに注目しだす。
そして、カラスが再度、突進した。
「クソッ! なんだこのクソ鳥!」
襲われた盗賊は突進してくるカラスに向かって剣を振るが、カラスはそんな剣には当たらない。
カラスは再度、上空に上がると、またもや突進をする。
だが、盗賊もバカではないので簡単に避けた。
「もしかして、カラスちゃんって弱いんです?」
カラスちゃんと盗賊の攻防を見ているAIちゃんが聞いてくる。
「普通のカラスと変わらん。あれは偵察用なんだよ」
偵察用の式神に戦闘能力は期待していない。
あれはただの時間稼ぎに過ぎないのだ。
その証拠に戦闘が起きる前に俺達は盗賊の近くまでやってきた。
俺が上空で飛び回っているカラスに戻るように命じると、カラスが上空を滑空し、俺達のところに戻ってきた。
そして、カラスはゆっくりと羽ばたきながら降り、AIちゃんの肩にとまる。
すると、上空にいたカラスを見上げていた盗賊の男達も女達もカラスを目で追っていたため、全員の視線が俺とAIちゃんに集まった。
「ウチのカラスちゃんがご迷惑をおかけしませんでした?」
一応、聞いてみる。
「テメーの鳥か!」
「死にたいのかっ!?」
「ばいしょーきんだ! 身ぐるみを置いていけ!」
知能の低そうな奴らだなー……
「すまんが、一文無しなんだ。むしろ、何かを恵んでくれ」
頼むよ。
「ふざけるな!」
「高そうな服を着てるじゃねーか!」
「そんな身なりの子供を連れて、金がないわけないだろ!」
なるほど。
確かにそうだ。
「いいだろう? これは国一番の呉服屋に作らせたんだ」
上等な絹らしいぞ。
「真っ黒でわかんねーよ! 奇妙な服を着やがって! 外国の者か!?」
「どっちみち、金持ちだろう。殺して奪おう」
「はっ! こんなところにのこのこ現れるなんてツイてないな、坊主」
坊主?
俺のことか?
剃髪はしていないんだが……
あ、いや、子供っていう意味か。
「野盗はどこの世界も変わらんなー」
「マスターの言うところの餓鬼道に落ちた者は誰も同じようなものでしょう」
いや、まったくもってその通り。
「何を言ってやがる! 死ねっ!」
一人の男が剣を振り上げ、突っ込んできた。
「我が弟子よ。もう一つ、術を教えてやろう。これがかまいたちだ」
俺は霊力を手に込め、指を向けると、直後、見えない刃が盗賊の男を襲った。
すると、男は足を止め、自分の身体をさする。
「あれ? あ、れ…………?」
男の上半身が斜めにずれ、地に伏した。
地面には胴体が分かれた死体で真っ赤に染まる。
「マスター、やっぱり威力が高いですって。もうちょっと緩めの術はないんですか?」
「緩めねー……」
俺が相手をしてきたのは妖だし、手加減なんてしない。
「て、てめー!」
「やっちまえ!」
仲間を殺された他の盗賊達が一斉に襲ってくる。
俺は術は控えようと思い、違う方法を取ることにした。
「術しか能がない陰陽師だと思うなよ」
そう言いながら懐に手を入れると、護符の束を取り出し、霊力を込める。
すると、護符の束が動き出し、護符でできた二尺……60センチ程度の剣ができた。
それと同時に先頭の男が斬りかかってきたため、護符の剣で受ける。
「なっ!? 紙だろ!?」
護符の剣で簡単に受け止められた男が驚愕した。
「紙は動かんし、勝手に剣にはならん。しかし、安物の剣だな……」
俺はそのまま力を込め、相手の剣ごと男を斬る。
「――がっ!」
斬られた男はそのまま地に伏した。
「死ねっ!」
「くたばれっ!」
残りの男達が一斉に斬りかかって来るが、どいつもこいつも遅く、剣の振りもなっていないため、簡単に躱せた。
俺は残りの盗賊達も切り伏せると、護符の剣をただの護符に戻した。
「昨日の兵士と比べると随分と練度が低いな…………あれ?」
AIちゃんがいないぞ。
「マスター……」
AIちゃんの声がしたので見上げると、AIちゃんはカラスに持ち上げられ、上空に避難していた。
「カラスちゃん、意外と力持ちだな」
「私が軽いんですよー。羽のような軽さです。ね?」
AIちゃんがカラスちゃんを見上げる。
「カー……」
いや、カラスちゃん、めっちゃ羽ばたいているし、いっぱいいっぱいだぞ。
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