第007話 また歩き


 目を覚ますと、やけに頭が重かった。


「なんだこれ……」


 上半身を起こし、頭を抱える。


「おはようございます、マスター。ご気分はいかがですか?」


 AIちゃんが身を屈め、心配そうな顔で覗き込んできた。


「頭が不調だ……」


 晩年を思い出す頭の重さを感じる。


「結構な情報量をインストールしましたからね。それにマスターの記憶が断片的だったこともありまして、かなり難儀しました」


 ふーん……

 しかし、昨日とは違い、インストールの意味がわかるようになっているな。


「これで現地の者と話せるようになったわけだな?」

「はい。他の情報もインストールしようかと思っていたのですが、これ以上はマスターへ負担が大と判断し、やめました」


 大だな。

 もしかしたら俺の頭の容量はそれほど残っていないのかもしれない。

 断片的とはいえ、99歳までの情報が入っているわけだし。


「それでいい。わからないことはお前に聞けばいいし、必ずしもすべての情報を共有する必要はない」

「はい。私もそのように判断をしました。私自身がマスターの術をインストールしなかった理由も私が覚えても意味がないと判断したからです。私は主な機能は補助ですが、戦闘経験の豊富なマスターの補助にはならないと判断したのです」


 戦闘中に脳内で色々言われても鬱陶しいだけだしな。


「それでいい。とはいえ、簡単なものは覚えておけ。一応、弟子の設定だし、敵の数が多い場合は1人でやるのは面倒だ」

「承知しました。昨日、マスターが見せてくれた術はインストール済みです」


 AIちゃんはそう言うと、指を天に向けた。

 すると、AIちゃんの指から小さな金色の火が現れる。


「狐火か」

「はい。ただ、式神は無理でした」


 AIちゃんがそう言って、白紙の護符を返してくる。

 どうやら寝ている間に懐から取ったらしい。


「式神が式神を作り出すのは無理なのかもな」


 そんな話は聞いたこともなければ、やってみようと思ったこともないのでわからない。


「そのようですね。私はマスターとリンクしているので術は簡単に学べます。ですが、狐火はすぐにできるようになりましたが、式神はどうやっても無理でした」

「まあ、別に良いだろう。とりあえずは狐火が出せるようになればいい。その焚火も狐火で火を着けたのか?」


 昨日、寝る前に消した焚火には火が着いていた。

 しかも、蛇を刺した串が2本ほど地面に刺さり、炙られている。


「はい。やってみたくなりまして」

「その蛇は?」

「今朝、捕まえました。マスターの朝御飯です」


 別にいいけど、また蛇か……


「2匹も食えと?」

「いえ、美味しそうでしたので食べてみようと思いまして」


 だろうな。


「別に構わんが、お前は食べなくても問題ないぞ。俺の霊力で動いているわけだし」

「いいじゃないですか。気分です、気分」


 気分屋の人工知能なんだな。


「まあいい。食うか。食ってさっさと森を出よう。上手くいけば、馬車に遭遇し、乗せてもらえるかもしれん」

「それもそうですね」


 俺達は朝食の蛇を食べると、すぐに出発する。

 そして、昨日と同様に森の中を歩いていくと、徐々に木が少なくなり始め、昼前には森を出た。

 とはいえ、出たのは左右が森に囲まれた道である。


「この道をどちらかに進めば町に着くわけだな?」

「はい。この道は西のエイルの町と東のセリアの町を繋ぐ街道になります」

「どっちがいい?」

「エイルは商業の町で発展はしているのですが、大きさはそこそこです。一方でセリアは王都に近く、大きな町ですのでこちらの方が良いかと」


 まあ、大きい方がいいか。


「では、東に行こう。どっちだ?」

「こちらになります」


 AIちゃんがそう言って右の道を進んでいったので俺も続く。


「何にしてもまずは金だな。一銭も持っていない」

「そうですね。よく考えたら馬車に遭遇しても乗せてもらえないかもしれません」


 金がいるか……

 最悪は歩きだな。


「まあ、数日くらいなら我慢しよう」

「良い人に遭遇することを祈りましょう」

「そうだなー……」


 俺はまったく期待せずに歩き続ける。

 そして、しばらく歩いていると、前方に何かが見えてきた。

 ただ、遠くてよくわからない。


「何だあれ?」

「さあ? マスターの力でわかりませんか?」

「鳥の式神を出して、見てくるか……」


 俺はそう言うと、霊力を込めた護符を宙に投げた。

 すると、護符がカラスに変わり、俺達の頭上を滑空しだす。


「わあ! かわいいです!」


 カラスってかわいいかな?

 あまりいいイメージもないんだけどな……


 俺は嬉しそうに笑うAIちゃんの頭を撫でる。


「何です?」

「お前はかわいいな。これがあんな化け狐に成長すると思うと悲しい……」

「いや、式神は成長しないでしょ。というか、完全におじいちゃんですね」

「俺、20歳だから」

「じゃあ、ロリコンさんです?」


 70歳で20歳を娶った手前、何も言えねー。

 いや、その記憶はないんだけどさ。


「まあいいや。ちょっと見てくる」


 俺はカラスと目を繋げると、カラスを前方に飛ばした。

 俺の片目には上空から地面を見下ろすカラスの視界が広がっている。


「おー、すごいですねー」

「ん?」

「私もリンクしてみました」


 そんなこともできるのか……


「お前もカラスに憑依したら飛べるぞ」

「良いかもしれませんねー……おや? 人同士の敵対のようですね」


 AIちゃんが言うように剣を持った複数の男達と杖を持った2人の女が馬車の前で対峙していた。

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