逆襲までのインターミッション

 新五郎もすみれの落下を見て慌てて駆け寄ると、気を失ったすみれと介抱している謎の獣人がいた。すみれは元の服に戻っていて、獣人は毅と同じ気配をしている。新五郎は恐る恐る声を掛けた。

「毅殿か?……」

「兄さんか、やべ、変身してたんだ」

 毅は変身を解き、瞬時に元の姿に戻った。

「……未来だと、皆簡単に姿を変えられるのか?」

 新五郎は目をパチパチさせたのち、率直な疑問をぶつけた。

「俺の時代では変身できるのは、自分を含めて多分数人ぐらいしかいなかったと思う」

「どうして姿を変えられることができたんだ?」

「たまたま知り合いにコウモリに変身できるようにしてもらったんだ」

「コウモリだったのか、他の者もコウモリに?」

「いや、他の奴は別の動物だった。皆死んで、もう俺一人だけどな」

「そうか、それはすまないことを聞いた。面妖めんようなことが続いていたのでな。すみれ殿も同じ変身が出来るのか?」

「いや、どうも俺の変身と違い服装だけのようだ」

「刺客が急に倒れたのは毅殿の手でか?」

「いや、多分すみれちゃんだと思う。自分も初めて見た、これは本人に聞いてみないと……」

「そうだな、毅殿も凄いが、すみれ殿も凄いな」

「いや、俺は大したことはないが、ただ、あの黒い恰好のすみれちゃんは俺達より遥かに強いんじゃないか?」

「ああ……そういえばマートル殿は無事か?」

 新五郎がマートルの元に駆け寄るとマートルは眠っているようだった。

「マートル殿は無事のようだ、ぐっすり眠っている、すみれ殿は?」

「良かった。すみれちゃんは気を失ってるが大丈夫そうだ」

 新五郎はほっとため息をつき、すみれの元に行き頬を優しく叩いた。

「すみれ殿、すみれ殿、気をしっかり」

 ほどなくしてすみれが目覚めた。

「……ここは?」

「馬車から少し離れたところだ、すみれ殿、体は大丈夫か?」

「ええ」

 新五郎と毅の顔から緊張が解けて笑顔がこぼれた。

「良かった。すみれちゃん、聞きたいことがあるんだけどいいかい?」

 毅が尋ねる。タルトが急に割り込んだ。

「すみれ、オレのことは隠せ」

「え?はい」

 すみれが困惑気味に答えた。



 すみれに質問した結果わかったことは、頭の中の声に従ったら変身していて、すみれが変身したのはこれが初めてである。空を飛べたり、人を眠らせることが出来るのもすみれ自身今わかったことで、それ以外何が出来るかはまだわからないとの事だった。

「この事はギンコ達に伝えるか?」

 毅が切り出す。新五郎は答える。

「いや、知っているのは三人だけのほうがいいだろう」

「そうか」

「毅殿の変身はどうする?」

「詳しくは知らないが、この世界でも俺みたいに変身できるのがいるらしいんだ」

「ほう」

「大っぴらにするつもりは無いけど、機会を見て自分から話すよ」

「では、これも三人だけで」

「ああ」

「毅さんの変身?」

 すみれが聞き返した。

「毅殿にはコウモリに姿を変えることが出来て、落ちているすみれ殿を姿を変えた毅殿が助けたのだ」

 簡潔に新五郎が説明する。すみれはきょとんとしている。

「後でちゃんと説明するよ。俺とすみれちゃんのことは当面三人だけの秘密ってことで」

 二人は頷いた。

「マートル殿やギンコ殿たちにはどう説明する?それと、この刺客たちをどうする?」

 三人の打ち合わせは小一時間も続いた。



「おい、マートル、起きろマートル」

 毅がマートルを揺さぶる。

「……ここは?」

「寝ぼけるな、マートル。みんな無事だ。それと聞きたいことがある」

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