挟撃!
エスコバリアからの帰途、御者台の上にはすみれに代わって毅がマートルの隣にいる。
「面倒なことになったっすね」
「ああ、何かあったら俺たちに任せてすみれちゃんと馬車の中にいてくれ」
「はい」
「いざとなったら足止めはするからその時は二人だけで町に戻ってくれ」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ」
「さすがに無いとは思うけどな」
馬車は進み、ロホセレウスとエスコバリアの中間あたり。
「人の気配がする、速度を落としてくれ」
「毅殿」
「兄さんも気づいたか、前に十人くらいか」
「そのようだが――」
その時、突然前方から火球が天に向かって音を立てて上がり爆発を起こした。その火球が合図だったのか後ろに突如人の気配が現れた。
「
「毅殿、後ろも十人ほどか」
「たぶん。魔術使いが確実にいる前は俺が行く、兄さんは後ろでいいか?」
「承知。馬車のことを
「ああ、後ろにも魔術使いがいるかもしれないから気を付けろ。マートル、出来るだけ早く隙を作って合図するからすぐ全速で逃げ出せるように頼む」
「はい。お気をつけて」
毅はトンファーを持って馬車を降りる。新五郎は懐から酒の入った小さな陶器を出してすみれに渡した。
「すみれ殿、これを持ってて貰えぬか、すぐ戻ってくるゆえに」
「ええ、二人とも気をつけて」
新五郎は笑みをたたえながら、悲痛な表情で震えているすみれを慰めるように頭をぽんと軽く叩き、馬車を降りた。
「行くか」
二人は互いに肩を叩き合い、毅は前方、新五郎は後方に
馬車のおよそ五十メートルほど前方、道の中央に三人が立ち、両脇には四人ずつ、八人が座って毅をじっと見ていた。
中央は灰色のローブを着た者が真ん中にいて、その両隣は赤みがかったローブを着ている。三人とも
反対側の新五郎の前には赤いローブを着た者が一人、さらに前には四人で左右は三人ずつ、赤いローブ以外は前方と同じく胸当てや軽鎧などを身につけていて、見た限りでは全員人間のようだ。武器は様々で槍や剣を持つものもいれば、手斧、鞭、さらに、一番前の男は
「通さないよ、そのままここで死ぬといい」
声から赤いローブはどうやら女のようだ。赤いローブの女は首を新五郎のほうに向けると、集団はそれぞれに武器を身構えた。
「女子供が賊の真似事か、嫌な世の中だ」
まだ素手の新五郎は軽いため息をついて言った。
「何だと!ファイアーボール!」
激怒した赤いローブの女は杖を向け、槍斧の男の肩越しに大きな火球を繰り出した。が、火球が大き過ぎたため槍斧の男はたじろいだ。その隙を新五郎は見逃さなかった。
「しばし借りるぞ」
新五郎は火球を難なく
そのままローブの女の左側五人に勢いよく槍斧を右から左へと払う。四人は躱したが、手斧を持った一人は躱しきれず、槍斧の男同様飛んでいく。体勢を崩している残り四人のうち、一番左には真正面から蹴りを、その隣には槍斧の穂先側を持って相手の首元を柄で叩いた。
二人はうめき声をあげその場に倒れたが、残り二人の体勢は戻っていて剣を構えている。ローブの女は巻き添えを恐れてか仕掛けて来ずに何歩か下がって新五郎を凝視している。右側にいる五人のうち、鞭を持った男が新五郎に向かって出て鞭を振るった。
上方から襲い掛かる鞭を新五郎は左に避け、左側の二人の間に入り、それぞれの手で二人を突き飛ばした。鞭の男は次は鞭を横に振るっていたため右手で突き飛ばした男と得物の剣に鞭が絡みついた。
「うわ、何すんだ!」
そう声を上げた男の陰に隠れて死角から鞭の男の膝に槍斧を引っかける。体勢の崩れた瞬間、鞭が絡んだ男に体当たりを入れて鞭の男にぶつけると二人折り重なって倒れこんだ。
新五郎は左手で突き飛ばした男を
ローブの女の左前方には一人、右前方にはまだ四人いる。
「何も言わず武器を下ろして貰えればありがたいのだが」
新五郎が口を開く。
「たった一人にここまで手こずるとは情けない」
ローブの女は自分に
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