魔法少女、厨房に立つ(後編)

 本店の地下にある厨房の中、すみれ、毅、新五郎、ギンコ、アルニカ、ブロム、アネモネの七人がテーブルを囲んでいて、そのテーブルの上には大量のマヨネーズがある。

「この量どうする?」

 毅がつぶやいた。

「試験的に売ってみてはどうでしょうか?」

「衛生を意識して作ってないからなあ、二・三日で食べきれるならいいけど」

 毅はギンコの提案に難色を示す。

「マヨネーズをたくさん使う料理ってあるんですか?」

 アネモネが聞く。

「すみれちゃん、なんかあるかい?」

「うーん、こういうのはどうかな?」

 すみれがアネモネとアルニカの助けを借りて厨房に立った。


「アネモネさん、キャベツと玉ねぎを切ってくれませんか」

「量はこれでいいかしら?」

「はい、お願いします」

「すみれちゃん、私は何をしたらいい?」

「じゃあアルニカちゃんはパンに切り込みを入れてくれる?」

 すみれはりんごの皮をむいている。

「すみれちゃん、俺たちにできることはあるかい?」

「毅さんたちはマヨネーズとこれを混ぜてください」

「わかった」

 みんなの協力もあって三十分近くで三つの品が出来上がった。


「たまごサンドは軽食にちょうどいいですね」

「そうですね、仕入れの都合で毎日は難しそうですが」

「卵と油じゃ生産から見直さなければいけませんね」

 ギンコとブロムが話す。異世界ではすみれの料理は好評なようだ。毅は何故だか目頭を押さえている。

「こっちの二つは何?」

 アルニカが聞く。

「こっちがコールスロー、わたしの家では玉ねぎとりんごを入れてるの。で、こっちはタルタルソース」

「両方ともそのまま食べるんですか?」

「タルタルソースはマヨネーズと同じ使いかたかな。野菜が入っているからマヨネーズより多く使うと思う。コールスローはたまごサンドのように食べることもあるけどそのまま食べるほうが多いかな」

 アネモネの問いにすみれが答える。

「タルタルソースはマヨネーズとはまた違って美味しいですね、こっちも仕入れの様子を見て販売を考えましょうか」

ギンコがブロムに話す。

「あら、もうこんな時間」

 アネモネが採光窓から空を見て言った。夕食には若干早いだろうが空は暗くなっている。

「すみませんけど、この後も皆さん手伝ってくださいます?」



 その日の夕食はたまごサンドがあればスープはいらないということで、コールスローとタルタルソースの掛かった肉料理を加えてマヨネーズ尽くしとなった。しかし、それでもまだマヨネーズは残っている。二・三日はコールスローサンドが続きそうだ。



 夕食後毅の部屋、三人は今日得た情報について話している。

「……エスコバリアについてはこんな感じだ。魔術師から魔術について……これはすみれちゃんも聞いてほしいんだが、武器を持ってないからといって油断はしないでほしい。魔術師は杖を持つらしいが持たなくても魔術は使えるみたいだ」

 新五郎とすみれは頷いた。

「あと俺と兄さんには相性が悪すぎる」

「相性が悪すぎる?」

「俺は格闘で、兄さんは刀や槍だ。魔術は間合いの外からいくらでも攻撃できるんだ、困ったことに炎や雷なんかも飛んで来るので受けて捌くことはできない」

「避けるしかないわけか」

「ああ、ただ俺に教えてくれた魔術師は術の名を叫んでいた。こういう戦い方は実に清々すがすがしい。ただ、黙ったまま魔術が飛んできてもおかしくないな」

「清々しい?」

「あ、これはこっちのことだ、忘れてくれ」

 毅は毅なりに何か美学があるのだろうか、毅は話を切り替えた。

「ところですみれちゃんのほうで何か日本人の情報はあったかい?」

「ううん、全然だった」

「そうか、出来るだけ時間を作って俺達でも調べないとな。今日の情報はこれだけかな」

「毅殿、この後一杯どうだ」

 新五郎が猪口を口にする仕草をした。

「悪いな、兄さん。ちょっと考え事があるんだ」

「そうか、じゃあこの辺で」

「おやすみなさい」

「ああ、すみれちゃん、兄さん、おやすみ」



 毅は一人になった自室。ベッドに横になって必殺技について考えていた。自分の格闘技は戦闘員時代に築き上げてきたものである。改造されていろいろな特技を身につけたが、特筆した必殺技を持っていないことに気が付いた。

 人を操る超音波もある意味では強力な技なのだが、直接相手を倒すわけではない。そして、ここに飛ばされて来た時に野盗に向けて試してみたのだが、全く効果をなさなかったのだ。超音波自体を嫌がっていた気配はあるので、飛ばす能力自体はあるはずなのだが。波長が悪いのか、それとも他に何か原因があるのだろうか。

 改造した博士は『君には多くの人々の無念が宿っている』と言っていた。無念とは一体何なんだろうか。そういえばあの人は変わった人だった。他の人がさっぱりわからない穴の開いたパンチカードをスラスラ読んでいたな。

 ともあれ、自分も何か必殺技を持たねばならない。だがいったいどんな技がいいのだろうか、そんなことを考えているうちに毅は眠りについてしまっていた。



 エスコバリア太守邸、男はひざまずいている男に向かって言った。

自由都市ロホセレウスの商人の護衛か……そいつらはこちらに引き入れられるのか?」

「現状では難しいかと」

「しかしあっちの戦力としていられると面倒だ」

「では――」

「ああ、だがいつやるかは後で指示する」

「はっ」

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