異世界のおかいもの(後編)
「すみれちゃんどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
すみれはごまかしたがタルトは構わず話す。
「黒と白とあとはオマエの好きな色でいい。いいから布地も買え」
おもちゃでも作ってほしいのか熱心だ。結局布地も買うこととなった。
新五郎の服の仕立てやいろいろあって、服や日用品の買い物は二時間ほどかかった。新五郎の服については翌朝預けてそっくりに仕立ててもらうこととなった。三人が当面着る服、肌着下着類や布地・日用品なども購入したが、安くしてもらったのもあって、仕立て代を含めても手持ちの半分程度にはおさまった。
「まだ時間があるから外も見ていいか?」
毅が聞く。
「ええ、案内しますよ、ここで買われたものは部屋に届けさせます」
「ギンコ殿、武具を扱っている店はあるのですか?」
「少ないですがあります、まずそちらに行きましょうか?」
「かたじけない」
毅がすみれのもとへ行って聞いた。
「俺たちは外に出るけどすみれちゃんはどうする?」
「今日は部屋にいようかな」
少し考えてすみれは答えた。
「わかった。夕食後にまたちょっと話そう」
毅たちは階下に降り外に出て行った。
アルニカとも別れ、すみれが自室に戻って一人になるとタルトが飛び出した。
「さっきのはどういうこと?」
すみれはタルトを撫でながら聞いた。
「作るんだよ」
「何を?」
「服」
「服?タルトの?」
すみれはタルトの前足を持っている。
「オマエのだよ」
「私の?あるよ?」
すみれはタルトの肉球をふにふにしている。
「それに私、ハンカチくらいしか作れないよ?」
「にゃっ?」
タルトは顔をしかめて頭を掻こうとしたが、前足を両方ともすみれに掴まれているため首を傾げただけである。元からただの猫じゃないのだがその姿勢も相まって妙に人間臭い。その時ドアをノックする音がした。
「すみれちゃん今いい?」
「うん。ちょっと待ってね」
タルトはすみれの影に飛び込んでしまった。
「兄さん、掘り出し物があって良かったな」
「ああ、だが、曲がった枝を
二人が話しているのは武器屋で木刀を作ってもらった時のことである。本物の剣を模した
「それにしてもいろいろあったなあ、俺は使えないけど」
毅のつぶやきに新五郎が
「傭兵が買いに来ますからね。彼らの得意なものも様々ですし」
「へえ、傭兵ねえ」
毅がまたつぶやく、新五郎が切り出した。
「ブロム殿、剣術はどうですか?少しでしたら手ほどきしますが」
「わたしはそういうのは苦手なもので、興味のある従業員がいたらお願いしますよ」
雑談を交わしながら帰途についていると、周辺とは違って背の低く広い建物に目がついた。
「ブロムさん、ここは何?」
毅が聞いた。
「ここは寺院です、学校や孤児院、簡単な病院も兼ねてます」
「へぇー、孤児院ねえ」
毅が窓を覗き込みながら言った。子供が数人いて何かをしているが、外からでは何をしているかまではわからなかった。
「一体どうしたんです?あら、ブロムさん」
ウサギの耳をした女性が中から出て声を掛けた。
「こんにちはシナモンさん、うちのお客さんが
「そうですか、はじめまして、ここの見習いと孤児の世話をしているシナモンです」
二人は簡単に自己紹介をした。
「孤児院と聞いたけど、孤児は多いのかい?」
毅が聞く。
「戦乱が起きているわけではないので、以前と比べて多くはありません。ただ病気やけがで亡くなる親御さんがいるというのと、まわりの国と比べて若干豊かということもあってか、他のところから自力で辿り着いたり、ひどい時には表に棄てられてというのが……」
「……」
毅は神妙な顔をしている。
「幸いにもギンコさんたちのシダー商会や他の皆さんのおかげで飢えることなくやってます。本当にありがたいことです」
「そうか……俺たちはここに来たばかりですぐとはいかないが、暇が出来たら手伝いに行かせて貰うよ」
「ありがとうございます、大したおもてなしは出来ませんがお待ちしてます」
「邪魔したね、それじゃあ」
三人は軽く頭を下げて寺院を後にした。
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