第二章 太守の野望

異世界のおかいもの(前編)

「これが野盗捕縛ほばくの報奨金です」

 ギンコが革袋をテーブルに置いた。

 昼の軽食を取ったのちのギンコの部屋、三人とギンコ、アルニカ、ブロムがテーブルについている。

「これはあなた方でどうぞ」

「運んだのはギンコ殿では?」

 新五郎が聞く。

「これからを考えると、少しでもごいりようかと思いまして。あと、こちらは昨日のお礼です。八人も相手だと一人では無傷では済まなかったですから」

 ギンコがもう一つ革袋を置いた。毅は新五郎と目を合わせて言った。

「宿と食事を世話してもらっているから受け取れないな。その代わり、報奨金の方は貰っとくよ、開けてみてもいいか?」

「ええ、一人あたり一万セレウス、八万セレウスあると思います。ここがロホセレウスだから単位はセレウス。わかりやすいでしょう?」

「そうだな」

 苦笑して新五郎が答えた。やはり横文字は苦手そうだ。

 革袋を開けると、五円玉のような貨幣の穴の開いた部分に赤い宝石のようなものがあしらわれている。

「これは金ですか?」

 すみれが聞いた。

「ええ、メッキですけど、これ一枚で千セレウスです」

 すみれと新五郎は目を丸くしながら硬貨に見入っている。毅が口を開く。

「話は変わるがいくつか聞きたいことがあるんだ」

「ええ、私たちでわかることでしたら」

 ギンコが答えた。


 毅は国名や地名、歴史上のものも含めていくつか挙げたが、ギンコ達には全く聞き覚えのないものだった。また、全く知らないところから人が姿を現すことがあるかとも聞いたが、自分たちが知っている限りでは初めてだと答え、書物に前例があるかもしれないので落ち着いたら調べてみるよう勧められた。

 どうやらここは地球かどうかも怪しい、毅は質問を続けた。

「ところで野盗は珍しいと聞いたのだが護衛の必要はあるのか?」

「野盗は滅多に出ませんが、野獣が出るんです、大きいのは逃げればよいのですが、それより小さい群れが厄介なんです。馬がケガをしたらそこで足止めですからね」

「あ、ああー」

 毅がやけに実感のこもった相槌をうつ。両手で丸を描きながら聞いた。

「そういえば、これくらいの白い毛の生えた素早いけものを知らないか?すばしっこいし、堅くて重くて大変だったんだ」

「あなたよく生きてましたね。文献でしか見たこと無いですよ。森の相当奥深くにいると聞きましたが、まさか道の近くで見たんですか?」

「結構な奥深くだったな。道の辺りにはいないと思ったが」

「はあ……」

 ギンコは驚きあきれた。

「さすがにそこまでのは出ないと思いますが……、出るならアルニカを連れていけませんよ。そうそう、すみれさん。アルニカを連れて行くときは同行お願いできますか、何かあったら護衛のお二人だけでなく私もすみれさんを守るようにします」

「ええ、いいですよ」

 すみれが笑顔で答え、アルニカに手を振った。アルニカも手を振り返す。

「今日のところはこのへんで、ブロム、今日は店の仕事はいいから三人の案内を頼むよ」

「わかりました」

「私も行く」

 アルニカが手を上げた。すみれ達はギンコの部屋を出た。



「衣服と日用品はこちらです、服は二日に一回洗濯しますので袋に入れて部屋の前に出すようにしてください」

 建物の二階でブロムが説明する。アルニカは先に女性ものの服のところへ行き、手招きをする。

「すみれちゃん、こっちこっち」

「すみれちゃん、これはどう?かわいいと思うけど、あーこれもいいなー、すみれちゃんに似合うなー」

 アルニカはすみれ以上に熱心に服を選んでいる。大人たちは新五郎の服について話していた。

「動きやすさを考えると、これが良いのだが」

 新五郎は自分の着物をつまんで言う。

「それならこちらで仕立てますよ、今身につけているものを見本にするので時間は多少かかりますが」

「その間に兄さんの着るのは俺が適当につくろっとくぜ」

 毅はそう言って離れ、すみれのところにやって来た。

「すみれちゃん、しばらくここで生活することを考えて多めに選んで。お金が足りなかったらその時考えるから」

「はい」

 毅は二人に手を上げて服を選びにいった。突然、すみれの頭の中でタルトが声を上げた。

「すみれ、布地も買え」

「どういうこと?」

すみれは小さく声を上げた。

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