ジェネレーションギャップ
ギンコの商会の一室、毅はドアを閉める音で目を覚ました。一連の出来事はあわよくば夢であれと願っていたが、今現在も続いているところこちらが現実か。見回すと、新五郎がいない。
午後からはギンコと話がある。それまで三人で、できるだけ情報を共有した方がいいか。今後を考えていると窓の外から変わった音がする。窓から外を見ると新五郎が商会の裏、上半身裸で棒を振るっていた。
よく見ると剣の振りだけではなく槍や
「多芸なんだな」
毅は感心した。見てないで顔を洗いに行かねば。今日もきっと長い一日になるだろう。毅は部屋を出た。
朝食を済ませ、部屋にすみれを呼ぶ。毅が二人に話を切り出した。
「いきなりでなんだが……ロホセレウスなんて名前聞いたことあるか?」
二人は首を振る。
「だよな、日本で獣人を見たことあったか?」
二人は首を振る。
「……俺もない」
ただし改造人間以外ではあるが、ともかく毅は続けた。
「馬鹿にしているように聞こえるかもしれないが……」
「確認したいが、二人とも日本人だよな?」
二人とも
「
すみれが頷く、新五郎が答える。
「
「ああ」
毅がちょっと仰々しいなとは思ったが構わず進める。自分含めて日本人には違いないだろう。日本人には。
「兄さん、徳川
「もちろん」
「
「……初めて聞く名だな」
「うーん……
「それはある。あまり詳しく存ぜぬが」
「
「聞かないな」
「じゃあ黒船って知ってるか?」
「ああ、江戸は大変だったらしいが今は落ち着いていると聞く」
「……?、今何年かわかるか?」
「ああ、確か安政――」
「えっ?」
「安政、あ・ん・せ・い」
毅の頭に『安政の
「幕末かぁー……」
毅がため息交じりの声を上げうなだれた。新五郎は一瞬だけしかめ面をし片眉を上げた。毅は頭を抱えている。うすうす感づいていたが、本当に江戸時代だったとは。頭を上げて、毅が言う。
「兄さんありがとう、すみれちゃん、今、昭和何年かわかるかい?」
「昭和?」
「えっ?」
「えっ?」
二人とも固まってしまった。新五郎はきょとんとしている。すみれの反応から彼女は未来だと毅は察した。
「すみれちゃんごめんよ、西暦ではどう?」
「うん。二〇〇X年だけど……」
「……ありがとう、俺は一九七X年だ」
「……」
「毅殿、一体何のことだ?」
「兄さん、驚かないで聞いてくれ、俺は兄さんよりおよそ百年先からここに来ている。すみれちゃんは更に三十年先だ」
いくらか間をおいて新五郎が聞いた。
「……
すみれは強く首を横に振る。毅は少し考えて答えた。
「……人が突然いなくなることはある。ただ、俺たちみたいな消え方だとは……思えないな……」
最後は振り絞って答えた。
「あのー」
すみれが口を開いた。
「どうした、すみれちゃん」
「もし、日本に戻ったとしていつの日本になるの?」
「……そうだよな……」
来た時はバラバラでも帰るときは三人とも元の時代かどうかわからない、そもそも、戻れるかどうかもわからないのだ。三人とも考え込んでしまった。
長い沈黙を破って新五郎が問うた。
「これからどうする」
「わからない。ここがいつで、どこかということもそうだが、俺たちのような例が他にあるかどうか情報を集めないと。あとはここに長居してしまうかもということも頭に入れないとな」
「そうだな」
三人は目を合わせて強く頷いた。
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