魔法少女たちの憂鬱(前編)
もう十一月だというのに、晴天だったのがまるで夕立の直前かのように空が暗くなってゆく。
日曜日の昼下がり、
これから約束があるのに、また戦いに行かなきゃいけないのか。
ひまわりには二つの顔がある。ひとつはごく普通の女子中学生水木ひまわり。もう一つは希望の星、ブライトスターに選ばれた魔法少女ブライト☆ルビー。
「早く行こうよ、約束に間に合うかもよ」
使い魔の白猫、マカロンが口を出す。使い魔とは言うものの、自分が使われているほうが絶対多いと思う。
「もう一週間連続!」
「そんなこと言われても……むこうの魔王に聞いてよう……」
ひまわりが怒るのも無理はない。先週は戦いに放課後の予定をほとんど潰された。今日は学校の友達と買い物に行く約束が。どうして自分が選ばれたのだろう。
このままでは世界が闇に覆われるというのはマカロンから聞かされた。平和のために行動するのは決して嫌じゃない。戦うことと戦う相手が嫌なのだ。
そもそも、ひまわりは何かスポーツや武道をやっていないし、やっていたというわけでもない。勉強も運動も悪いというわけでもないが、特に
相手の闇魔法使いは同年代の女の子、操られているのかどうかまでは知らないけれど、表情が暗く、とても自分から動いているようには見えない。
その上、闇魔法使いとの戦いは怖くて痛くて苦しい。相手にとっても私たちはそうなのだろう。
空は段々暗くなって、ゴロゴロと雷の音が聞こえる。大きな稲妻が落ちた時、新しい闇魔法使いが
「早く行かないとアクアとエメラルドに怒られるよ」
「わかってる」
仲間はアクアマリンとエメラルド。みんな違う学校で、同じ境遇なので顔を合わせるたび仲良くなっている。
終わったらすぐ約束に駆け付けられるよう支度をして家を出る。もう空は厚い雲で覆われている。
「段々強くなってるんだよねぇ……」
戦いが段々長くなっている気がする。約束に間に合う自信はまるでない。
ひまわりとマカロンは暗くなっている方へ駆け出した。
ドーン、けたたましい音が鳴り響き、光の柱が駅の方角に現れ消えた。戦いは駅前の広場か、駅裏の公園か。
「人がいるから隠れるね」
マカロンが走っているひまわりの影の中に消えた。百五十メートルほど走った、疲れたので歩き出した際、駅の方向を見上げると、光が現れた辺りから晴れ間が広がりつつある。ひまわりは足を止めた。
「ちょっと、これどういうこと?」
ひまわりが小さな声で
「ボクもこんなの初めてだよ、とりあえず行ってみてよ」
駅裏の公園へやってきた。少女が二人話をしていて、ひまわりを見つけるとショートカットの女の子が手を振りながら大きな声で呼び掛けた。
「ひまわり、遅いよー」
「ごめんね、あおいちゃん。まりかちゃんも」
ひまわりは小さく手を合わせてみせた。まりかというロングヘアの女の子は軽くお辞儀をした。
「ねえ、誰かいた?」
「それが全然、一体何だったんだろうね」
あおいが首をかしげて答える。空を見上げると、もう青空は広がっていて、雲は空の端だけとなっている。
「何かおかしな感じはする?」
ひまわりが聞くと、影からマカロンが出てくる。
「うーん。変な感じはないなあ」
「じゃあ、帰ってもいいの?」
あおいが聞く。
「大丈夫……なのかなあ。でも、おかしなことがあったら、三人とも集まってね」
「はぁー」
返事ともため息ともつかぬ声をあおいは上げた。
「ごめんね、これから約束があるから、じゃあまたね」
ひまわりが苦笑して言った。あおいとまりかも続ける。
「うん。あたしも、またね」
「私も、またね」
三人とも苦笑してしばしの別れを告げた。
また会うということはまた戦いが始まるということだ。三人が会うことだけなら楽しいけれど、戦うのはやっぱり苦手だ。三人はそれぞれ公園を後にした。
駅の広場のベンチで忘れ物の確認をしていると、女の子三人組がひまわりに声を掛けた。
「あれー。ひまわりが待つなんて珍しいじゃん」
「うん。さっき急用が出来て近くに来たの」
「じゃあ、行こうよ!」
空には雲一つ無い。魔法少女たちの束の間の休息が始まった。
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