怪人コウモリゲイザー、異世界に立つ(後編)

 白樺しらかばつよしは変身し、怪人コウモリゲイザーと姿を変えた。

 上空を旋回しながら見渡してみると、まだ日は高く、今までいた森が想像以上に広いことがわかった。

 何十キロメートル、いや百キロメートルそこそこは見渡せるはずなのだが、周りは起伏のない森林ばかりで山も海も見えやしない。まるで深緑色の大海だ。

「とんでもない所に来たな」

 さっきのウサギもどきといい、ここ本当に日本なんだろうか。


 生き物がいるか調べるため、超音波を発しながら辺りを旋回する。二、三キロメートル以内に生き物らしき反応はいくつか確認できたが、人間のような反応は感じられなかった。

 東京に戻らねばならないが、ここがどこだかわからない。人間がいたらとは思ったが、見つからないんじゃ仕方ない。

 ひとまずは人間を、あわよくば集落を探すため、ゲイザーは太陽を背に、おそらくは北へと飛び去っていった。


 変身して五分ほど、まだ一キロメートル少ししか離れていない頃、飛び立った辺りから突如生き物の気配が現れた。

「やっぱり生きていたか」

 ウサギもどきは死んでいなかったのだ。真っ向から迎え打つ形の蹴りではないとはいえ、戦闘員ならともかく、普通の人間なら死ぬほどの力は入れたはずだった。

 あれで全く手術も改造もされてないというのならとんでもない化け物だとゲイザーは思いながらも振り返らず飛び続けた。

 人の気配は無い一方、動物のような気配はまだいくつかあった。例のウサギもどきの大きさもあれば、クマくらいの大きさのものもあった。

 これがもし全部化け物だとしたら、気が滅入ってしまう。自分自身も十分化け物なのに、森の広さも相まってか、ゲイザーは少しだけ憂鬱な気持ちになっていた。



 そんな憂鬱な気持ちで飛び続けると、空の端には海と山がかすかに見えはじめてきた。海岸線か、山のふもとに沿って飛んでいけば、集落か街道かは見つかるだろう。

 ほどなくして、二、三十キロメートル先であろうか、ようやくゲイザーをうんざりさせてきた森の端が見えてきた。その先は平地のようで濃い緑が淡い緑に変わっている。

 平地には森に沿って街道があるようだ。ゲイザーは少しずつ高度を下げながら、スピードを上げて街道らしき筋に近づいていった。



――二頭立ての馬車が街道をゆく。人を見つけたのかその動きはゆっくりと止まった。

「この辺りじゃ見ない顔と恰好かっこうだね」

 馬を操っていた恰幅かっぷくの良さそうな男がそう声をかける。

「こんなところで迷い人なんて珍しい。この先に町があるから、ここにいるよりひとまず一緒に行かないか?」

 男は優しい声で、そう問いかけた。

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