悪役(ヴィラン)一行、異世界へ
ふみやおさむ
第一章 悪役(ヴィラン)、異世界に迷い込む
怪人コウモリゲイザー、異世界に立つ(前編)
――最弱の怪人は誰なのだろう?
とある特撮で候補としてまず何人かが挙がった。
まずは強力な毒と怪力を持つが、動きが遅いので攻撃が当たらず倒されたオオトカゲの怪人。
逆にとても素早く空を飛べるのだが、打たれ弱くて一撃で倒されたアマツバメの怪人。
強い力と堅い守りを持ち、それなりの速さがあったのだが、自身は空を飛べず、相手に空から一方的に攻撃されたアルマジロの怪人などが挙げられた。
だが、これらの怪人は、空回りだったとはいえ見せ場はあった。ヒーローであるブルーコマンドと対峙し、それぞれの長所をふんだんに見せつけた。攻撃が当たらなかった者もいたが、ブルーを
しかし、ブルーは強かった。ブルーの動きはとても素早く、空を自由に飛びまわり、防御力も高かった。その上強力な武器まで持っていた。要は相手が強すぎたわけだ。
そして何より彼らは、ブルーコマンドの必殺技で倒されたのだ。
さて、物語の最終盤に登場した怪人であるにもかかわらず変身前のブルーに倒されたため最弱の汚名を着せられた怪人がいる。
その怪人は特殊な超音波を使って人間を操り、いくつかの都市を支配下に置きながら徐々に侵攻範囲を拡大していった。
やがてその勢力は東京の都心へと迫っていき、日本全国を恐怖に陥れた。
と、そこまでは良かった。むしろ一介の怪人にしては良すぎたとも言ってよい。幹部クラスでもここまでの脅威にはきっとならないだろう。
だが、変身前のブルーコマンドである
まあいずれにせよ日本には平和が訪れた。勇一郎と視聴者にモヤモヤを残しながら――
――その怪人の名はコウモリゲイザー。彼は一体どうなってしまったのだろうか。
「あの野郎、名乗りもさせないうちに、いきなり蹴りかかりやがって
細身の男はゆっくりと腰を上げた。
「にしてもここはどこだ?」
眼前には木々が並び、地面は黒っぽい土や枯葉で覆われ、ところどころに短い草が生え、
あいつに蹴られた時は間違いなく変身していたし道路の上にいた。坂道の上から蹴られて少し下に吹っ飛んだはずなのに、今の自分は変身が解けていて、今いる地面は舗装道路でもなく、坂道でもない。残念だが人々にかけた催眠は既に解けてしまっているだろう。
「気を失って運ばれたのか?」
自分には気を失ったような感覚は無いし、蹴られた後何かされたという感覚も無い。
あいつなら気絶している間に止めを刺すと思っていたのだが、もしも自分にそんな価値すらなく見逃されたというのなら、なんという屈辱なんだ。
そのとき、数メートル先にある茂みがざわざわと音を立て動いたと思ったら、白いかたまりが自分の脇腹めがけ、飛び込んできた。
ゴッと鈍い音がし、左脇腹に衝撃を受けた。脇腹の痛みは思いのほか強く片膝をついてしまった。白いかたまりは既に距離をとっている。
この身は改造人間だからこそ、この程度で済んでいるが、普通の人間だったらきっと内臓がボロボロになっていたか、そのまま死んでいただろう。
すぐに視線を飛び込んできた白いかたまりにやると、そこにはウサギのような動物がいてこちらを向いている。目が合うやいなや、そのウサギはまたこちらに跳びかかってきた。
まだ脇腹は痛むが、右斜め前に転がって体勢を整える。が、すぐさまウサギは跳びかかる。脇を締め右腕で払いながら体当たりを受け流す。
見た目に反して重くて堅く、まるでボウリングの球を受けているようだ。そう感じている間もなく、またウサギは跳びかかる。今度は後方に下がってウサギを避ける。
そうやって絶え間なく跳びかかってくるウサギの体当たりを、前後左右に避けたり受け流したりして
五分と経たない頃だろうか、体当たりを捌き続けているとタイミング良く体勢が落ち着いたところに真正面からウサギが跳びかかって来た。脇腹はまだ少し痺れているが、痛みはもう引いてきている。
「とう!」
右半身を引いてかわしながら、体当たりの勢いを増してやるように、ウサギの尻に後ろ回し蹴りを入れる。すると勢いを増したままウサギは二十メートルほど離れた木に大きな音を立てぶつかっていき、落ちてそのまま止まった。木の葉が何枚か舞い散っている。
あれぐらいで動きが止まったとも思えないが、慎重に近づいて見てみると、木の幹は凹んでいて、さっきまで絶え間なく跳びかかってきたウサギは横たわったままで、動く気配を見せない。
「なんだこれは?」
男は
横たわっていたのはウサギではない。いや、白い毛はふかふかに見え、大きさは一般に想像するウサギより一回りくらい大きいくらいだが、尻尾は無い。耳は小さく、どちらかと言えば雰囲気はネズミやリスに近い。襲ってさえこなければ、きっとかわいらしいに違いない。
いずれにせよ見たこともない生物には違いない。恐る恐る手を触れてみると、さっきまで石か鉄かのように堅かったその身体は、一般的な猫やウサギのような柔らかな動物の感触となっていた。
当たりどころが悪かったのか、生暖かいが呼吸も鼓動もない。死んでしまったのか、一時的な心停止なのかはわからないが、ここで息を吹き返してまた襲い掛かられても面倒だ。ひとまずはここを立ち去ることにしよう。一刻も早く東京に戻らねばならないのだ。
「……変身」
うつむき加減の細身の男は小さな声でそうゆっくりと呟き、大きく飛び上がった。
――その細身の男、
世界征服を
ただ、その能力をもう日本中に知らしめることが出来なかったことを彼は知らない。
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