ロマナ帝国立 精霊まほー学園 マジサバ無人島漂流記 ~漂着した島が実は海賊の宝島ってマジですか?(実際に役立つ サバイバル講座 のオマケ付き)

一矢射的

第1話 無人島のリーダー



「アンタっていつも気難しそうな顔をしているのね? それで? 今度はいったい何が気に入らないっての? オーシン」

「そんなの……。この状況を見れば、言わなくたって判るだろう?」



 そりゃーね、俺の不満なんて腐るほどあるさ。

 海水に濡れた服が気持ち悪いし。

 腹がグウグウ鳴っているのにロクな食い物もない。

 俺たちは今、浜辺で焚火を囲んではいるけれど。

 その火を起こすだけで、いったいどれだけの時間がかかったことか。

 この場に居るのは子どもだけで、面倒をみてくれる大人の姿は皆無。


 ハッキリ言えば「無人島で遭難しているんだ」俺たちは!

 平均年齢の十五歳の中等部だけで! 


 その上、同世代の仲間たちが、こぞってコチラを「何かを期待するような目つき」で見つめてくるとなれば……そりゃーねえ。

 どんなに察しが悪かろうと、難しい顔だってしたくもなるさ。いくら可愛いアンリが俺の頬をツンツンしながら ご機嫌とりをしてくれたとしても無理だって。


 おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名はオーシン・ローズチャイルド。

 ロマナ帝国立、精霊まほー学園中等部、三年生。金髪碧眼のびしょーねん。

 年齢は十五。そうだよ、まだガキだ、悪いかよ?

 周りからの評価は……。

 元気で誰にでも愛想がよく、面倒見の良い理想のガキ大将だって? 

 

 そんなのはよォ、命が危険にさらされてない平常時に限る話だろ!

 言わなくたって判るだろ?

 今は、皆が命がけ。緊急事態だ!


 意を決して、俺は重い口を開く。



「まさか、俺にリーダーを務めろって言うのかい? 皆、それでいいのか?」



 砂浜に置いた流木が今となっては俺たちの長椅子がわりだ。

 火を囲んで座るのは、俺を含めて五人の少年少女。

 全員が同じ学園の生徒で顔見知り。

 自己紹介の手間が省けて良かったと、せいぜい自分を慰めることにしよう。

 俺の質問を受けて、真っ先に立ち上がったのはトマスだったね。


 銀縁メガネはガリ勉の証。茶髪のボブカットも地味さに拍車をかけている。

 けれど秀才トマス・マードックの名を知らない者なんて、ウチの学校じゃ誰もいないぜ。コイツは俺の舎弟を自称しているだけあって、すぐフォローに回るんだ。



「モチロンですとも、オーシン。端的に言って僕たちは遭難したのですから。こんな時に何よりも必要なのは、信頼のおけるリーダーですよ。責任が重い役目をまかせられるのなんて、この中だと貴方しかいませんよ。でも、だからと言ってあまり気負わないで。普段通り、貴方らしく振舞ってくれたらそれで十分なのですから」

「そうか? みんなの代表なら、お前の方が向いているだろ?」

「いつも言ってるでしょ? あだ名がハカセの奴なんて、リーダーには不向きだと。そういう輩はナンバーツーになってこそ輝くんでね。サポートなら任して下さい」



 やれやれ。ハカセに押し付けるのは無理と。

 俺がうつむいて頭をボリボリかいていると、二人目が立ち上がる。

 卑屈という言葉とは無縁。誰よりも強気で勝気な女の子。

 


「まぁ、悪くない選択ね。少なくともゲンジよりはマシ。男にびるかどうかで女性を判断しないでしょうから、オーシンは」

「ちょっと、リリイ。男に媚びるってのはもしかしてアタシの事だったりする?」

「あーら、他に該当者が誰か居て? アンリ?」

「おいおい、こっちが先だ。吾輩が差別主義者だって? 酷い誤解だなぁ。少しはこちらの気持ちも想像してみたまえ? 優しいレディと、ツンツンしたレディ。どっちと仲良くしたいかは、どんな男性でも まず決まっているものだよ、リリイ」

「ほーら、ほーら、だからゲンジは嫌なのよ。私はオーシンに一票!」



 ツンツンしたレディこと、リリイ・ヴァンダービルド。

 名家のお嬢様で、ほんのちょっと……お高くとまっているのは確かだ。

 けれど、その攻撃魔法は大人も目も見張るほどだし。

 タイマンの模擬試合なら俺だって勝てないよ。

 サンダーレディの異名は伊達じゃない。

 頼りになる味方だってことは間違いないだろう。仲良くできさえすれば。


 三人目はたった今リリイに人格を全否定された男。

 その程度でめげるような奴じゃないってのは、当然ながら彼女も織り込み済みなんだろうけど。



「まぁ、レディ達もこう言っているし。吾輩も君が適任者だと思うよ」



 謎多き男、ゲンジ・テンコウ。

 この地方じゃ珍しい黒髪黒目、いつも不敵な笑みをたたえた少年だ。

 故郷はロマナ帝国近辺(学園がある所さ)じゃないとか、東方生まれなのか? 

 彼ときたら、スカしたバケットハットを被るだけでは飽き足らず、七三にわけた前髪でタレ気味の右目を隠し、口には何のオマジナイか小枝をくわえている。常時帽子の角度を気にしているのは、正直どうかと思うぜ?

 何でも、代々奇術師の家系で彼自身も幻術が得意なのだとか。

 物腰もそこそこ紳士的だし、別に悪い奴じゃないんだけど。

 トリックで人を引っかけるのが大好きなんだよなぁ。

 まぁ、今は緊急ひじょー事態。彼もわきまえてくれるだろう、多分。


 最後に立ち上がったのは、隣に座っていたアンリ。

 本名はアンリエッタ・バーソロミュー。

 くせのある赤毛でポワポワのおさげを二つ作り、耳の脇から下げた俺の相棒。

 ゲンジ曰く、ツンツンしてない方の優しいお姉さんレディ。

 性格は快活で遠慮知らず、いつでもズボンをはいているのは木を登ったり、飛び石を跳ねて川渡をする為。つまりは俺たちと行動を共にする為だ。

 そのくせ料理が得意で歌やダンスも上手いとくれば、そりゃあ当然モテモテさ。

 いつかは、俺の相棒を卒業して他の奴の所へ行くのだろうと半ば諦めてる。しかし、少なくとも今は俺の気分を盛り上げる為に彼女も気を使ってくれているわけだ。

 これで応えられないようでは……。

 俺の決断を察したように、アンリが控え目なアオリを入れる。



「ほらほらほら、みんな賛成だってよ? いつまでもブスッと時化シケた顔してんじゃないわよ。いつも言っているでしょう? 人生はアンタが頭でこねくりまわしている程ひどくないって」

「わ――ったよ! そこまで言われて一念発起しなきゃ男がすたるってモンだ」


 俺は天を仰ぎながらヤケクソ気味に叫ぶ。


 ここは恐らく無人島だ。島中を回って痕跡を確かめたワケではないが、海難事故から辿り着く場所なんて無人島に決まっているだろう?

 病は気から。テンションの低さは死に直結しかねない。

 皆が流木から立ち上がったのに、一人だけ座っているノロマ野郎がまだ居るな?

 それは誰かって?


 そう、俺だ。


 重い腰を上げると、俺は柄でもなく就任演説を始めてしまう。

 止せばいいのによォ!



「俺たちは遭難した。修学旅行の帰り道、乗っていた定期船が海賊の襲撃を受け、きれいさっぱり沈没したワケだ。こうして どこかの島に流れ着いただけでも、まだ幸運だったのかもしれない。だがそのツキを無駄にしたくなければ、救助が来るまで全員がなんとしても無事に生き延びなければいけない。いけないんだ!」



 みんなが真面目に聞いていることを確認して、俺は演説を続ける。



「修学旅行のパンフに書かれた内容を覚えているな? ミステラ諸島は沢山の島々で構成されているが、その大半は無人島だと。そんなら、自分でやるしかない。大人に頼らず、俺たちだけの力で!」



 全員がうなずいたのを見届けてから、俺はさらに畳みかける。

 よしよし、テンションはアゲアゲでいかないと。



「や――ってやろうぜ! これは一足早い卒業試験だ。これまで学んだことを存分に活かし、俺たち自身で合格かどうかを試すのさ。試験監督はこの大自然。いいな? 絶対に合格してやろうぜ! 全員で!」


「うん、その意気よ! 流石はオーシン」

「そう気負うな。これだけのメンバーが揃っているのだから」

「そうそう。大船に乗った気でいなさい。リリイたちが本気になれば不可能なんて何もないんだから。何なら、この島を私たちだけの理想郷に作り替えてやるわ」

「それはちょっと大袈裟かもしれませんが。学園のベストメンバーが揃ったのは確かです。気落ちしているなんてオーシンらしくありませんよ」


「ありがとう、みんな。頼りにしてるぜ。とりあえず、今晩は交代で見張りながら休もう。夜明けと共に行動を開始して、水や食料の確保、役立ちそうな道具・資材探しを始めようと思うんだ。何か異論がある奴は、俺の尻でもツネって教えろよ? 反対意見は?」

『異議な――し!』



 満場一致で仮眠をとることに決まり!

 やれやれ、我が学友ながら仲の良いことだ。

 明日から忙しくなりそうだぜ。

 人生にはクヨクヨしている暇すらないな、まったく!

 本気のサバイバル生活、略してマジサバだ。「まほー」のマジカルもかかって丁度よい塩梅だろう? 良くない? 良いよな? いーんだって! 


 でも、まだこの時はみんな気付いてなかったんだ。

 生き残る上で何より大切なのは、円満な人間関係だって。

 この先、ワガママを言い出す奴が居ないと良いんだけど……。





【オマケ 精霊まほー使いでもきっと必要な火の起こし方】


 ライターもマッチもない極限状態で始まるのがサバイバル生活。

 そんな時にどうやって火を起こすのかといえば、有名なのが木を擦り合わせて摩擦熱で火種を作るやり方ですね。今回はオマケとしてそれを紹介していきます。


材料:重石 木の板 木の棒(長さ1メートル、直径1センチほど) 

綿や羊毛など 薪や乾いた葉っぱ、枯れ草など


1、板を地面に敷き、重石で動かないよう固定する

2、板に棒の先がすっぽりハマるくぼみをあける

3、その窪みに木くずなどの燃えやすい物(ほくち)をまいておく

4、棒先を窪みに差し込み、掌で棒を挟んで素早く回転させる

5、手の皮がむける勢いで高速回転させると、木くずがくすぶりだす

6、それを火種として綿で包む

7、綿を地面に置き、そっと息を吹きかけて酸素を送り込む(ここで吹き消さないよう注意!)

8、綿が燃え出すので、あとはそれに燃えやすい物をくべていき焚火にする


 これで完成! 熟練した人だと五分程度で火を起こせるらしい……凄いですね!

 木と木を擦れば火が起こせる。フィクションでは有名な要素ですが、擦った木「その物」が燃え出すわけではないので、そこの所は注意です。

 いくら高速回転させてもそれは無理というもの。

 成功のポイントはホクチが風圧で散らばってしまわないよう窪みに隣接した溝を作ることだとか。ミゾに木くずを溜めておき、摩擦熱を伝導させるわけです。板の外側まで溝を掘って、下に大き目の葉っぱを敷いておくと、そこに衝撃で落ちた火種がどんどん溜まっていくのだとか。

 うーん、よく考えられているなぁ。

 え? 火種を包む綿なんて、そうそう都合よくあるワケないだろって?

 そんな貴方の為に代用品を紹介。

 タンポポの綿毛、ススキ・ガマの穂、松の樹脂を吸った木片、松ぼっくり等が良く燃えてホクチとして有用なのだそうです。

 これで貴方もサバイバル・マスター!

 火は人が文化的な生活を送るのに欠かせぬ大切な物。遭難してしまったら、まず最初に挑戦すべきことが火を起こすことでしょう。

 いやー、コンロを捻るだけで火が起こせるって、とても幸せな事だったんですね!


 ちなみ電池とスチールウールたわしがあれば、もっと簡単に火を起こすことも可能なのだとか。

 単一電池をプラス極が下になるよう二個重ね、ひも状に伸ばしたスチールウールで重ねた電池の上下(ブラス極とマイナス極)を繋げるだけ。猛烈に燃え出すので、繋げる際は割りばしなど使うと安全らしいです。


 もちろん一番簡単なのは常にライターを持ち歩くことですが。(台無しだよ)

 続くッ!




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