Day 1 -3
――日没が近い。
少しでも《シカゴ》から距離を稼ぎたいが、疲労感で頭の芯が痺れた様になっている。判断力が低下し、ヒヤリとする頻度も増えた。
日が落ちて薄暮になれば、運転は一層難しくなるだろう。土地勘も無く、街灯や標識すら無い悪路。アスファルトの痕跡だけを頼りに走り続ければ、ペーパードライバーの私が無事故でいられるとは到底思えない。
”一刻も早く、どこか車中泊できる安全な場所を見つけないと”
汗の滲んだ目を細めるが、夕暮れに浮かぶ廃墟は如何にも不気味で近寄りがたい。それでも急がなければならないのは、私のコンディションだけが理由ではなかった。
都市部を離れてしまえば、ヒトの生存圏が後退する事で生態系に溢れだした《蟲》達 ――腕ほどもある昆虫類や数メートルの多足類、もちろん肉食(雑食) ―― が
タチの悪い事に、彼らの多くは夜行性で光走性(光に向かって来る)……。
頭を過ぎったのは、闇を割るヘッドライトやフロントガラス目掛けて、様々な《蟲》が殺到する光景。
座席と一体化しかけた汗まみれの背中が、一瞬で粟立つ。
「大丈夫? お姉さん?」
どうやら彼が目覚めたようだ。ルームミラーを介して目線が合う。すっかり薄暗くなった車内のせいで、表情まではよく分からない。
不意を衝かれた私は、頭に浮かんだ台詞を矢継ぎ早に返す。
「ゴメンね、運転が荒くて」
「起こしちゃった? 寒くない?」
エアコンが三月の夕刻らしい冷気を和らげているが、七部袖のスウエットでは少々寒いかも知れない。
”衣服” ”休息” ”食事” ”睡眠”
上手く回らない頭に、タスクリストが追加される。
考えてみれば、二人とも半日近く1滴の水分さえ摂っていない。このままでは、脱水症状の恐れもあった。
”アレだ!”
素人知識の選り好みをスッパリ諦め、遠目に見えたモーテルらしき廃屋目掛けて、
元は市街地だったと思しき荒れ地がe-
「ねぇ君! 名前は?」
「知っているでしょ! 僕の名前は《P5J348》!」
予想に反して返事が大声だったことに驚くが、これで会話は終わらない。
「そうじゃくて! 《
「だって、僕! おねーさんの名前も教えてもらってないよ!」
途端、発作的な笑いがこみ上げてきた。
そうだった! そうだった! 私、自分の名前すら教えずに彼を連れ出したんだった。ホントどこまで無計画で、行き当たりばったりなんだろう!
不審に思われない程度に笑顔を抑え、後部座席に振り返って今更ながらの自己紹介を行う。
「お姉さんの名前は、△△△……」
そう言い終わるやいなや、視界の端で地面が消えた。
落下感が全身を包んだ直後に衝撃。
頭をしたたかに打ちつけた私は、アッサリと意識を手放す――。
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