最終章 - 02

あれから一週間。


誰一人として出会えなかった私は、体力と魔力が回復したこともあり、現状を把握するために魔界を出た。




今までやってきたように、変装と魔法で人間に紛れ、情報を収集する。


今回は私一人しかいないが、城や軍の情報を集めるわけではないので難しくはなかった。


むしろ、魔族に勝利したお祝いムードが続いていて、誰もがその事を話したがっていた。


ただ、誰も彼も伝え聞いた話だったので、細かい所が異なっていた。けれど、大よそを把握するには十分であった。




分かった事は以下の通りである。


私が影に飲み込まれた後、勇者達はファーストリアを撃破。魔王様もその時にお亡くなりになった。


カルミドの言っていた事は本当のようで、ファーストリアの魔法がすべての魔界の魔族を飲み込み、誰一人残らなかった。


残った魔族は魔界を出ていた者達になるが、彼らがいなくなってしまうのも時間の問題らしい。


勇者達が必死に食い止めようとしているが、人間は魔族を生かす気がなく、魔族も人間に降伏するつもりがない。魔族の自決覚悟の戦いが続いているようだ。




そして私は再び魔界に戻ってきた。




私はこれから、どうすればいいのだろうか?


まだ戦っている同胞のためにも、四天王として加勢するか。


これ以上犠牲者を出さないためにも、続いている争いを止めに入るか。




私が生きていることを知っている者はおそらくいない。故に、私にできることは多いかもしれない。


それだけの力を、持っているはずだ。




だが、私にはもう、その力をふるう気力が残っていなかった。


同胞がどうなってもいいというわけではない。


けれど、戦うことしかできない私が入っていったところで、何かを変えられる気がしなかった。




私が手にした力はなんだったのだろうか。


私は強くなってどうしたかったのだろうか。




いや、そう考えるのはやめよう。


今はともかく、それまでは強さが必要であり絶対であった。だから手に入れようとした。


そして私は、魔王軍四天王にまでなった。


種族とか性別とか体格とか、そんなものは関係ないことを見せつけてやった。


すごいことじゃないか。


地位も名誉も手に入れて、私を見下していた奴らを黙らせた。


軍に入る前を思い出せば、夢のまた夢のような話だ。


それを私は、自分の力で成し遂げたのだ。




そうだ、私の力は、私のためにある。それでいいのではないか。


人間がどうこうの前に、私にとっては身近な魔族も敵でしかなかった。


魔族のために戦ってきたが、それは軍人だったからというだけであり、功績のためだけだったのではないか。




戦争は魔族の敗戦という形で終わり、魔王軍はなくなった。


人間への恨みがなくなったわけではないが、もう戦う理由がなくなった。


戦い、強くなければ生き残れなかったが、私に害をなす者はもうここにはいない。


この魔界には、魔族も人間もいないのだから。




これからは、ここで一人生きていこう。




それも悪くないと思った。


孤独という言葉に悪い印象があるが、その分、なににも囚われない日々がおくれる。


そう思えられるのなら、今までの張りつめた人生も無駄にはならないだろう。




精一杯のことはやった。


それ以上の成果を上げられた。


最後は無残に終わったが、ある意味、ようやく自ら課せていた荷が下りた気がする。




「私なんかにしては、上出来だったな」




初めて自分で自分を褒めたような気がした。




正しい選択ではないかもしれない。完全に納得できているわけでもない。


それでも私は私のためにこれからも生きる。




だから、まずはゆっくりと休ませてもらおう。


最近気が付いたのだが、私は眠るのが気に入ったようだ。




ここにいるのは、魔王軍女幹部のフォースではもうない。


ここにいるのは、森で一人静かに暮らす魔族の女だ。

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