最終章 - 01
一人の魔族の女の子が泣いている。
ひもじい生活に何も言わなかった。
家族に会えなくなっても耐えていた。
だけど、目を離すとたまに涙を流していた。
もう一人の女の子は隠れていた。泣き止むのをじっと待っていた。
あたりが真っ暗であることに気が付いた。
夢から覚めたような感覚があり、まぶたを開けた気がするが、何も見えない。
体の感覚はある。うつ伏せになっているようだ。
手足を動かし、あたりを探ってみる。
砂や砂利のような感触があり、地面の上だと確認する。
とりあえず体を起こそうとするが、体中が痛くて、動かすのが一苦労だった。
なんとか四つん這いになると、背中が何かにあたった。
一瞬、狭い洞窟の中か?と思ったが、押せば突き抜けそうな感触だった。
上が外であることを願い、思い切って立ち上がってみる。
今度は視界が真っ白になった。眩い光で目に痛い。
手で目を覆いながら、私は目を凝らした。
少しずつ、目が明るさに慣れてきて、あたりが見えてくる。
私は丘の上にいた。
見渡す限りの森と青い空が広がっている。
所々に瓦礫が隠れていて、城や街があったことを物語っている。
ここは、あの魔界なのか?
私はどこまでも広がる大自然に、しばし呆けていた。
私は、ファーストリアの魔法の影に飲み込まれた。
カルミドとかいう女が、あの影に食われたら死ぬと言っていたが、では私は何故生きている?
実は他の連中も生きているのではないか?
魔王様はご無事なのか?
私は、膝上まである土や草木を退けながら城があった場所を目指した。
あたりを見渡しながら、少しずつ歩を進める。
不思議なことに、これだけの森が広がっていながら生き物の気配がしない。
実は魔界ではない、何年も時間が経過しているなど、ありえなさそうなことも想像していたが、程なくしてシロエとの戦いの跡を見つけて、やはりここは魔界で、それほど時間も経過していないことがわかった。
そして私は、痛む体を堪えて城のまわりを回っていると、日が沈みかけていることに気が付いた。
今日はもうよそう。
そう思った私は、ひらけた場所を探しながら枝を集めた。
てきとうな場所を見つけると、枝を一か所にまとめて置き、魔法で火を起こす。
死にかけた後だからか、簡単な魔法すら安定しなかった。
なんとか成功させて一息つくと、ようやく目に見えない異変にも気が付いた。
魔素が薄くなっている…?
シロエと戦っている時はガトーで魔素が無くなっていたから、その影響か?
少しだけ考えたが、それよりも気になることがあったのでやめた。
私は地面に座り、火を眺めながら、自分だけがここにいる理由を考えた。
少なくともこの周辺には誰もいない。
私だけ取り残されたとかなら、その方がいい。何もわからない今はそう願っておく。
魔王様なら、あの状況でも魔族をお救いできてもおかしくないはず。
けれど、本当に私しか生き残れなかったのならそれは…。
シロエだ。
あの影は魔族から魔力を奪うと言っていた。だが、あの時の私にはひとかけらの魔力も無い。
さらに、シロエは最後の最後で私に何かしていた気がしてきた。
私は火を放った方の手をなんとなく見た。
魔力があまり回復していない上に、制御もままならないのは疲労のせいだと思っていたが…。
シロエのやつ、私にシロエの魔力を押し込んだのか?
それなら、現状の絶不調の理由になるし、空っぽな上にシロエの魔力を持った私を、魔族の魔力を求めるあの影が食わず嫌いした理由にもなる、そう思った。
だが、それだとシロエが私の命の恩人になってしまわないか。
他の理由も模索するが、どうしてもシロエのおかげである可能性が一番高くなってしまう。
いたずらっぽく笑うシロエの顔が脳裏を過る。
つい、ため息が出た。
もう寝よう。明日もこの辺を捜索しよう。他に生き残った者がいれば、シロエは関係なくなるはずだ。
布団も枕もない地面に横になり、夜空を仰いだ。
風も無く、枝が燃える音しかしない。
………。
本当に、何もなくなってしまったのか?
強さを証明する場所は、もうなくなってしまったのか?
強くある必要性も、なくなってしまったのか?
生きる意味を失った恐怖が去来するが、いつしか私は眠りについた。
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