9章 - 02

シロエは何かを言おうとしたように見えたが、唇を強く閉じた。




考え直してシフォンを再度使おうとしても、私がそれを許すわけがない。他の魔法も同様。


バームをもう一つ用意しているとも考えられない。魔法の圧縮は時間経過と共に効果が弱くなる。詠唱に5日かかる魔法を一人で2つ用意するのは不可能。


故に、シロエが今から現状を覆すのは困難のはず。




それでもシロエの瞳は光を失ってはいなかった。


まだ手があるのか、単に諦めていないだけなのか。




どちらにしても、魔力が無い私がシロエを倒すためにできることは一つしかない。


何が来ようと、その場で看破してやるしかない。




私はシロエの周りを跳び回った。


シロエは必死で目で追うが、徐々に遅れて始める。


追い切れないと判断したシロエは、強化魔法の防御の比率を上げる。


そして、杖の真ん中を持ち、後ろ向きにも攻撃できるように構えた。




だが、後ろからの接近に感づけるようになるには相当な場数が必要だ。


私はあっさりとシロエの背後を取った。


後ろ首を目がけてトンファーを振り下ろす。




シロエはギリギリのところで私の攻撃に気が付いて体を捻じった。


トンファーは肩に当たり、シロエは痛みで声を上げた。


それでも杖で反撃をしてくるが、私はもう片方のトンファーで受け止める。




距離を取りたいシロエは杖で私を押すが動かない。ならばと自分が後退するが、私はそれを追いかける。


形勢は逆転して、私が攻撃を仕掛けていく。


シロエは持っていた杖の上下を警棒のように縮ませ、私のトンファーと同じくらいの長さにすると、それを両手で持って私の攻撃を防御する。


トンファーや打撃を杖で、蹴りを足で受け止めながら、シロエはなんとか私の攻撃から直撃を避け続ける。




その最中、シロエは先ほどの肩のダメージで一瞬怯んだ。


私はその隙に杖を抑え付けて、顔を目がけてトンファーを振る。


が、シロエは運よく躓いてそれを躱す。


すかさず蹴りを出すが、シロエは地面を転がって避け切り、ようやく私と距離が開いた。




こいつは本当に…。


生まれも、才能も、魔法や武器を与えてくれる仲間にも恵まれ、おまけに、土壇場にも強いときた。


今ので一撃入れるはずだったのに、気が付けば振り出しに戻っている。




しかし、まだまだ甘い。


シロエは杖の長さを戻せていない。


私はすぐに突進した。


シロエは、しまったと言いたげな顔をしていた。




私は低い姿勢を取って、トンファーをシロエの顔を目がけて振り上げる。


シロエはそれを杖でガードした。


その攻撃は囮で、もう片方のトンファーがさらにシロエを狙う。


シロエは直前で気が付いたようだが、トンファーはシロエの頭を捕えた。




シロエの体が殴られた方に傾く。


私はさらに囮に使った方で、シロエの顔を殴った。




シロエはその勢いで背中から地面に落ちる。


反射的に上体を起こそうと、転がって膝を尽くが、頭が上がってこない。


ようやく上げたと思えば、鼻のあたりを抑えた手から血が零れ落ちてきた。


こめかみあたりからも血が滲んでいる。




地面に滴った血を、シロエは見ていた。


そして、鼻から流れる血を腕に拭い、元の長さに戻した杖を地面に立てて立ち上がる。


拭った血は再び流れ始め、顎までつたって滴り落ちる。


まだ戦う意思を見せるが、もう力強さは見られなかった。




私は再び近づいていく。


シロエは杖で攻撃をしてくるが、もう躱す必要もなくなっていた。


すべてを受けながら前進していく、シロエは後退しながら攻撃を続けるが、ついに私の手が届く位置まで来た。


シロエは私の脇腹を蹴るが、それもダメージにならない。




シロエが蹴りの軸足で体を支えられなくなり、倒れそうになったところを、私は首を掴んでむりやり立たせた。


シロエは咄嗟に杖を離して、首を掴む私の腕を両手で引き離そうとする。


まだ少し力が残っていたようだが、手を離すどころかさらに強く首を絞める。




シロエの力は弱まっていくが、まだ手を離さない。


私はトンファーを捨て、短剣を取り出した。


もうこれで、終わりにしよう。

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