9章 - 01
私は常にいくつかの武器を魔法で圧縮して携帯している。
その中から私はトンファーを取り出した。
魔法で強化されているシロエを仕留めるには威力が弱いが、盾としても使える武器だ。
生身の私と魔法強化したシロエ、受けた印象としては、身体能力はシロエの方がやや上といったところか。
だが、技術は私がはるかに上回っているはず。
力VS技、才能VS経験といったところか。
魔族とか人間とか以前に、今まで私が培ってきたモノを考えれば、この対決は決して負けられない。
息も整い、体にしっかりと力が入るようになってきた。
私はトンファーを強く握りしめると、歩いてシロエに近づいていく。
シロエは微動だにせず、私が間合いに入るのを待った。
ほんのひと時、至る所で戦闘が繰り広げられている中、静かな時間が流れた。
戦い始めれば、後はどちらかが倒れるまで終われない。
「はぁ!」
先制したのシロエであった。
杖の先端が突き上げるように私の胸を目がけて飛んでくる。
私はそれを半身になって躱す。
シロエは躱されたとほぼ同時に地面を強く踏むと、突進する杖の勢いを殺さずに斜め上に振りかぶり、そのまま斜めに振り下ろしてくる。
私はそれをトンファーで受ける。
勢いを外へ逃がすように弾いたが、腕に痛みが残った。
やはり、まともに受けてはならない。
弾かれた杖を、シロエは器用に体を使って回すと、今度は真横から膝を狙ってきた。
私はそれを跳ねて躱すが、空中で身動きが取れなくなったところに突きが飛んでくる。
トンファーで受けた私は後方に飛ばされた。
空中で後転して着地する。
間髪入れず、接近してきたシロエから連続攻撃を受ける。
始めて一年未満の技とは思えないほど鋭い攻撃であった。
ところどころに粗が見えるが、そこにつけ込もうとすると、すぐさまカバーしてくる。
リーチの差をなかなか埋められない。
後退しながら攻撃を躱し続け、しばらく防戦が続く。
しかし、私はいたって冷静であった。
逆に、攻め続けているシロエの方がつらそうである。
活路を見出そうとシロエは動きを変えてきた。
その瞬間を見逃さずに、私は前で出る。
そうはさせまいとシロエはすぐさま攻撃を仕掛けてくる。
それを私は完璧に受け流してやった。
体制を崩したシロエに蹴りを入れた。
シロエは咄嗟に後方に飛んでダメージを緩和したが、少し苦しそうにしている。
それでもシロエは果敢に攻めてきたが、私はその攻めにだいぶ慣れてきた。
リーチ差から先ほどと同じように防戦一方になったが、今度は後退する必要がなかった。
もうその場でシロエの攻撃を捌き切れる。
シロエはこの事態に危険を感じて距離を取った。
まだまだやれそうだが、肩で息をし始めている。
「ここまではよかった。白兵戦になるまでは、お前の思惑通りだったんじゃないか?」
私は追撃せず、その場で話し始めた。
「屈辱的だが見事だったと言える。過去二回の因縁がここまで私を追い詰めたというのなら、まるで決められたシナリオのようだな」
シロエは構えを崩さずに息を整えながら、耳を傾けていた。
「人間の作った物語だったら、この先勝っていたかもしれん」
いつの間にか、あたりは静かになっていた。
他のところは、もう終わったのだろうか?
「だが、これが現実だ。お前は私を魔導師と思っていたようだが、それは間違いだ。私は強者になりたかった。だからなんでも習得した。ただ非力だったから魔法の比重が高かった、それだけだ。戦闘訓練だけを取ったって、お前の何倍もこなしている」
なぜこんな話を始めたのか自分でもわからなかった。
ただなんとなく、目の前にいるシロエに何かをぶつけたくなったのだ。
「理想を突き進むのもいいが、このままだとお前、これで死ぬぞ?」
真っ直ぐ向けられる眼差しを、またこちらも逸らすことなく、私はシロエの返しを待った。
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