8章 - 05

すると、地表に巨大な白い魔方陣が浮かび上がり、そして光の粒となって消えた。




「お前、いったい何をしたんだ?」




突然の出来事に、私は考えるよりも先にシロエに問う。




「この魔法は、あなたを倒すために作り上げた、私だけの魔法です」




シロエは先ほどとはうってかわり落ち着きを取り戻している。


それは、シロエの作戦が成功したことを意味しているのだろう。




「私があなたに拉致された理由、ハイネ様があなたに負けた理由、その二つをヒントに編み出しました」




そこまで聞いて、私はこの魔法の効果がわかった。




「そうか、法律の樹と同じ。魔族の魔力を吸い出す魔法」


「そうです。私の魔力は人間界の魔素によく似ていると聞きました。だから、同じようなことができる魔法を、私ならできるのではないかと考えたのです。そして、魔力を失った魔導師なら私でも戦えるのではないかと…」




「なめるなよ。私が魔法だけで幹部にまで登りつめたと思っているのか」


「いいえ、そんなことはないです」




その言葉とは裏腹に、シロエは残り一つのシフォンを解いた。




「何の真似だ?」


「先ほども言った通り、あなたをなめてなどいないです。でも、私にはまだやるべきことがあります。ここで魔力を使い切るわけにはいかないのです」


「それで、どうするっていうのだ?殴り合いでもするのか?」


「…はい」




シロエは躊躇いがちにそう答えると、強化魔法を唱えた。


血液のように全身に魔力が行きわたり、筋肉や関節に付加され、肉体の精度を高めていく。


そして、杖を棒変わりに、杖術のような構えを取った。




「シフォンやさっきの魔法は、ここまでの布石です。ここから先は、あなたを倒すために一番時間をかけた技です」




シロエの言葉通り、強化魔法にも構えにもかなりの練度が窺えた。


どうやら本気で、私に白兵戦で勝つつもりのようだ。




私とシロエの間には少し距離があるので、これからの戦闘に備えて、私はここまでの流れを振り返った。




簡単に言ってしまえば、私はシロエの作戦にまんまとはまっているのかもしれない。


シフォンは伝説の魔法だ。おそらく誰でもそれが切り札だと考えるだろう。


だが、いくら魔力に恵まれている者とはいえ、相手を倒せるまで2つのシフォンを継続できる可能性はどのくらいある?


時間稼ぎをされることを前提にすれば、時間切れが来る可能性の方が高いのではないか。




だから、私から魔力を奪い、白兵戦を挑んだ方が勝率が高いと踏んだ。


そのためには、あの白い魔法を成功させる必要がある。


だから、大規模な溶岩魔法で一時的に私を閉じ込め、気付かれぬように魔法を唱える。


そして、攻撃によるダメージや溶岩の熱気で感覚をにぶらせ、二重シフォンを維持できなくなったと見せかけて、わざと攻撃に集中させる。


気付いた時には魔力切れか。




「くくく」




格下相手に追い込まれているというのに、その滑稽さに少し笑ってしまった。


本当にシロエの作戦通りなのかはわからない。あくまで私の想像だ。


もしかしたら、二重シフォンで倒すつもりだったが、間に合わなかったので接近戦に切り替えただけかもしれない。白兵戦はハッタリかもしれない。




だが、そんなことは些細な事。


あいつは…シロエは、本当に戦うかもわからない私を倒すために力を尽くし、現に、私を窮地に立たせている。


それはもう、才能とか人間とか関係なしに、大したモノだと思っていいのではないか。




無論、私がここでシロエに勝たなければならないし、シロエを認めたわけでもない。


それでも、目の前の女に凛々しさを感じ、それを悪いとは思えなかった。




しかし、私は魔族で、シロエは人間で、魔族と人間は戦争中だ。


私はこの感情を仕舞い込む。




「ならば、その技を見せてみろ。もう頭突きすらさせないがな」

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