8章 - 04
溶岩が冷えて固まるまで耐えた私は、障壁魔法を解除するとすぐに岩石魔法を詠唱して、私を閉じ込めている岩を砕き跳ね飛ばした。
外と繋がったことを確認できると、私は喉が鳴るほど大きく息を吸った。
岩に密閉された上、高温に熱せられた空気は吸うことができず、危うく酸欠で意識を失うところであった。
「げほっ…げほっ」
肺に酸素が入ると、今度は咳き込んだ。
足に踏ん張りがきかずに少しよろめく。それほど消耗してしまったようだ。
だが休んでいる暇は無い、すぐに動かないと次の攻撃が来る。
私はシロエがいる方を注意しながら、固まった溶岩の上へ跳んだ。
着地と同時に身構えるが、攻撃は無かった。
シロエはただ立っていた。肩で息をしていて、向こうもつらそうである。
しかも、リング状の赤い魔方陣は消えていた。
後から出てきた方なので、もう私の魔法は使えないとみた。
だいぶやられたが、まだ勝機はある。
シフォン二つを維持できなくなったとあれば、もう一つが消えるのもすぐに違いない。
ならばシロエの時間切れに狙いを絞る。
魔力を大量に消費しているとはいえ、シロエはまだ無傷。さらに、私はだいぶダメージを負わされてしまった。無理に攻める必要はない。
「やっぱり、死なないどころか、これではまだ倒せないか」
シロエはつらそうな顔で笑ってみせる。
「あたりまえだ。お前のような小娘にやられるようでは四天王になどなれん」
私はできるだけ気丈に振る舞い、ダメージが軽かったていを装う。
シロエにはこれからできる限り警戒してもらう。
「そうですよね。私なんかが簡単に勝てるわけないですよね…」
「それに、見たところ限界が近いんじゃないか?赤いシフォンはどうした?」
「時間切れみたいです。人間が魔族にシフォンを使うのは、思っていた以上に消費が激しかったみたいです」
「なるほど。では、今度はこっちが本気を出させてもらおうかな」
私は大きく詠唱の態勢をとった。
それに合わせて、シロエも戦闘態勢に戻る。
「私もまだやれますよ。あなたを倒して一言いってやってから、絶対に仲間のところへ行きます」
「ほざけ…」
悔しいが、下位四天王を含めても強者揃いだ。私よりも先に一人始末している奴がいるかもしれないぞ。
そう思ってシロエを嘲笑った時、私はセブンのことを考えた。
あいつも強い。たしかに特出した武器は無いが、その分手数を持たせたつもりだ。勇者にだってそう易々と負けはしないはず。
しかし、勇者一行が来る前のやり取りが頭を過る。
いや、あいつは魔王軍下位四天王だ。私が気にかけることなど、なにも…。
いつの間にか、戦闘の音が増えている。
シロエは話がしたいとか言っていたが、結局はどこも戦い始めているようだ。
当然だ。今更人間の話なぞ聞く意味も無い。だから…。
そうこう考えている内に、シロエは氷の矢と電撃を放ってきた。
我に返った私はそれを躱すと、火球を作って応戦する。
目の前の敵以外のことに気を取られている場合では無い。
私は精神統一して三重詠唱をする。
シロエが唱えていた魔法をすべて相殺して、一気に畳み掛けた。
そうだ。私だって上位四天王の一人。
小娘に勝ててあたりまえだ。なのに手こずった挙句、相手の自滅での勝利では威厳にかかわる。
だから…。
ここでケリを着けてやる。私はそう結論を出した。
そうしたら、セブンの様子でも見に行ってやるか。
私は詠唱のピッチを早まる。
シロエもそれについてきているが、いつ崩れてもおかしくない感じだ。
このままいけば押し切れる。
シロエの詠唱が遅れたことに気が付いた私は、シロエの詠唱中の魔法をすべて相殺すると、超上級魔法の魔方陣を描いた。
「これで最後だ!シロエ」
シロエの表情に絶望が見え始めた。
勝った。
私はそう思った。
しかし、魔方陣完成目前で突然ものすごい脱力感に襲われる。
「…なっ?」
詠唱が止まってしまった魔方陣は、形を維持できなくなり崩れるように消えていった。
その様子を混乱したまま見届けてしまった私は、ようやく魔力切れを起こしていることに気が付いた。
「なぜだ!?まだ魔力は残っていたはず、何が起こった?」
私はシロエを睨み付けた。
「はぁ…はぁ…、なんとか間に合ったみたいですね。時間稼ぎをされていたら、危なかった…」
シロエはそう言うと、地面に向かって手をかざした。
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