6章 - 03
私の顔が少しだけ引きつる。
あの時は感情的にもなったが、それで私だと思えるものだろうか。顔も見えていなかったのだ。
別人を演じたわけではないが、シロエに見透かされていたのかと思うと、悔しさがあった。
「…ほぉ、それで?」
つい、対抗意識から何を思ったのか探ってしまう。
「何もないです…」
シロエはそう言って唇を噛んだ。足の痛みで顔も真っ青になっている。
「ただ、最後に『贅沢な悩み』と言われたことが引っかかって、そのうち、どういう意味で言われたのだろうと考えるようになって」
シロエはしゃべることがつらくなってきたのか、一拍置いた。
「…そしたら、あなたのような、勇者を相手に戦うような女の人が言いそうだなって」
しばらく次の言葉を待ったが、それ以上シロエはしゃべらなかった。
こいつは捕虜になっている間、そんなことを考えていたのか。
人間と魔族は殺し合いをしていて、その魔族に捕まっているにも関わらず。
人間の王族は皆こうなのか?それともこいつが大馬鹿なのか?
私は怪訝な態度でシロエを見下す。
シロエの顔色はどんどん悪くなっているが、目にはまだ光があった。
魔族を根絶やしにしてやると言わんばかりの禍々しいものではなく、小さな希望を見たような澄んだもの。
このくだらない会話すら、何か意味があるのじゃないかと思わせる。
やはり、こいつはここで消すべきだな。
私は確実にとどめをさせるように、加減なく魔方陣を描く。
結局何もできなかったけど。
お兄様が最後に言った言葉、ちゃんと思い出せたよ。
魔方陣の向こうに見えるシロエの口から、そんな言葉が出てきたような気がした。
そして、魔方陣からは炎が噴き出てきて、私とシロエの因縁に終わりを告げようとしていた。
しかしその瞬間、炎とシロエの間に閃光が走る。
それを認識したと同時に、閃光を追うように突風が吹き荒れる。
炎は瞬く間に消え去り、私はその強さに一歩後ろによろめく。
シロエから私の足が離れると、さらに突風が起こり、シロエを舞い上げた。
そして、シロエは扉の方に落ちていった。
そのシロエを、軽やかに受け止める男がいる。
「何者だ!?」
私は思わず叫んだ。
これだけのことをやってのける者を、今のいままで気が付かないとは。
佇まいからして、その男が実力者であることがわかる。
マスクで隠された男の顔がシロエに向く。
危険な状態ではあるが、まだ命に別状が無いことを確認すると、今度は私に目を向けた。
「ここに来るのは、やはりお前であったかフォース」
私のことを知っている?
しかし、あんな芸当ができる男を私は知っているのか?
男の腰には鞘に収まった細長い剣がある。
あの突風からは魔力を感じなかった。
おそらく剣風によるものだろうが、達人どころの腕前ではない。
そんな技見たこともないと思ったところで、同じくらいの大技を見たことを思い出した。
しかし、その者はたしか…。
「察したようだな」
男はシロエを抱きかかえたままマスクを取った。
「お前、生きていたのか…」
私に立ちはだかったのは、元魔王軍四天王クアドラであった。
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