6章 - 02

「お前、まさかとは思うが、それで私がやめるとは思っていないよな」




私は静かにシロエを威圧した。




それにシロエは少しだけ怯んだが、後退はしなかった。


深呼吸をすると、手に持っていた杖を壁にかけた。


そして、手を袖に引っ込めると、魔導師の衣装を脱ぎ捨てた。


さらに、装飾品をはずし、靴も脱いだ。


着ている物が肌着とズボンだけになり、再び杖を持つ。




「わかっています。全部わかっています。もうあなたを止められるのが私しかいないこと。でも私じゃ絶対かなわないこと」




シロエはそう言いながら、杖術のような構えをとった。




「それでも、逃げるわけにはいかないの。じゃないと、私のせいで死んでしまったお兄様や、今も頑張っているアカバネ達に合わせる顔がない」




そうか、あの呪いに身内を殺されたか。あの殺気に合点がいった。


だが、殺気は今はない。今あるのは、自分のすべき事だけを成そうとする者の気迫だけだった。




その覚悟は悪くないが、戦士でもない女がここまでしなければならないのか。


特別過ぎる魔力を持って生まれた者の宿命ということなのか。


どうであれ、こいつは目障りだ。万が一ということもある。ここで終わらせるべきだ。




扉が開いているので、少しずつ私の特性の霧がこちらに入ってきている。


だが、まだ距離があるので魔法は可能である。


私は右手をシロエに向けた。




その動作を待っていたかのように、シロエは私の視線をくぐるように低姿勢で突っ込んできた。


あっと言う間に距離を詰められ、シロエは私の腹に向かって杖を突く。


私は右手でそれを下に弾いた。


しかし、シロエはそれもお構いなしに、頭から私の下顎に突っ込んできた。




「っが…」




私は顎を跳ね上げられながら、シロエを蹴り飛ばす。


蹴りはシロエの腹に入り、シロエは苦しそうな顔をするが、すぐにまた立ち向かってきた。


私はそれをいなし、今度は脇腹に足を入れる。


シロエはバランスを崩して地面を倒れるが、即座に立ち上がった。そして、私の右手から逃れるように横に走り始める。


が、すぐに足がもつれて地面を転がった。




再び立ち上がろうとするが、私は一瞬で距離を詰めて、その鬱陶しい足を踏みつけた。




今のでシロエの右足は完全に折れた。


シロエから張り裂けそうな悲鳴が上がった。今まで経験したことがない激痛に叫び声を止められないでいる。


それでも杖で踏みつける私の足を叩くが、まるで効果はなかった。


その足を少し動かすだけで、シロエに激痛が走り動けなくなった。




まさか、一撃入れられるとはな。


杖を投げつけられていなければ、多少動揺していたかもしれない。


実際、拉致の時の身のこなしには驚かされた。




一国の姫君が魔王軍の四天王に一矢報いた。


ここまで来ると、自分の不甲斐なさよりも、相手を湛える気持ちが湧いてくる。


さっきは無情に殺すつもりでいたはずなのに。こいつは本当に私の感情を振り回す。




「効いたよ。魔界でうじうじと勇者の話をしていた小娘とは思えないよ」




私は警戒を怠らずに、思ったことを口にした。




シロエは痛みに耐えながら、上半身を回して私に視線を向ける。




「牢に入れた日に、私の所にやってきた女の人は、あなただったのですね…」




少しでも痛みを和らげようと細かく息をしながら、シロエはなんとかそう言い切った。




私は口を滑らしたことにはっとした。


が、すぐに隠しておく必要もないと考えた。




「はん、それがどうした。恥ずかしいから黙っていてほしいのか?」




シロエは歯を食いしばりながら痛みに耐えている。


無反応だったことを少しつまらなく思ったが、もう何も無いならと、右手をシロエの頭にかざす。




シロエは横目でそれを見ているが、もう動けないでいる。


その代わり、小さく話始めた。




「根拠なんか…なかったですけど、そんな気がしていました…」

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