5章 - 03
まずい。
左腕は使えなくなり、視界はまだ真っ白だ。
まったく事態が把握できない中、私は右腕で障壁魔法を準備しながら、今まで立っていた位置から素早く離れた。
そのすぐ後に、高出力の電撃がハイネから放たれ、間一髪のところで避けることができた。
電撃は私が入ってきた扉を消し去って部屋から去っていく。
少しずつ視界が戻ってくる。
私は身を屈め、障壁魔法を盾にする。
そして、ハイネの姿を確認した。
ハイネは、白く輝く見たこともない防御魔法に囲まれていた。
パッと見では、私の核熱に耐えられるような代物には見えない。
だが、とても嫌な感じがする。
「さすがに避けるか。まぁ、左腕をやれたから良しとするか」
致命傷を負った私の姿を見て、ハイネは手応えを感じていた。
あからさまに煽る態度をとっているが、今の私にはそれを構っている余裕が無い。
なんだ?あの魔法は?
「これかい?気になるだろ」
ハイネはそう言って、横に少しずれた。
ハイネの後ろには、両手で魔法の杖を持ち、目を閉じて詠唱に集中しているシロエがいた。
シロエがそれを?
半年前までシロウトだった人間に、私の魔法が防がれたのか?
「驚くのも無理はない。この魔法は現状シロエにしかできないし、発動まで時間がかかるから本当に博打だったよ」
ハイネは右手の指をすべてピンと伸ばして前に突き出す。
「5日だよ。シロエの実力で詠唱を完成させるのにかかった日数さ、詠唱できるようになったのがギリギリだったから、お前さんを相手している間も詠唱中だったんだよ。まったく寿命が縮んだよ」
ハイネは早口でまくし立てた。賭けに勝って緊張から解放されたかのように肩の力を抜いている。
「でも、それでお前さんに勝てるなら、安いもんだね」
ハイネは私を指さして余裕のある態度をとる。
私は障壁の効果が切れたと同時に、ハイネの顔をめがけて火球を飛ばした。
火球は、あの白い障壁に当たると、障壁に沿って薄く伸びて消えていった。
「すごいだろこの障壁は。外から来る魔法はもちろん、魔素の流れすら遮断する。なのに、内側からは魔法を出し放題なんだよ。まったく能力だけ聞けば反則だな」
ハイネはそう言って、再び戦闘態勢をとる。
「伝説の三大魔法の一つ『バーム』、これがあれば防御魔法も相殺魔法もいらない。こんな勝ち方は好きじゃないけど、世界の命運がかかっているからね」
ハイネは異なる3つの攻撃魔法を唱え、魔方陣を描く。
私はその内2つを相殺するが、残りの一つが風の刃となって私に飛んでくる。
私はそれを紙一重で躱し、相殺魔法を攻撃魔法に変換するが、すぐにハイネに消されてしまった。
「もうそれは2回見ているからね、もう通じないよ」
ハイネの連続魔法が私を襲う。
私は防御魔法を出すこともできず、横に飛んで逃げた。
体を地面に転がし、すばやく立ち上がってさらに駆ける。
正面から氷の弾丸が無数に飛んできている。さらに、後ろからは追尾属性が付加された電球が追って来ている。
私はギリギリまで引き付けて上へ飛んだ。2つの魔法がぶつかり合い爆発して消える。
空中の私に狙いをさだめて、ハイネは空気弾を放つ。
私は飛行してそれを躱すが、気流に巻き込まれてバランスを崩した。
「しまっ…」
私は詠唱を続けていた障壁魔法をハイネの方を向いて発動する。
私を狙うハイネと目が合った。
「幕引きだよ」
凄まじい炸裂音が私を包み、電撃魔法が私を捕まえようと障壁に張り付く。
私はその衝撃に耐えられずに地面に落ちた。
すぐに立ち上がり、次の障壁を張る。
津波の蛇が大きな口を開け、雷の槍が私の喉笛を向き、茨の狼が爪を立てている。
目の前は、私に襲いかかる魔法で埋め尽くされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます