5章 - 02

魔法を放つ方法は2つある。


声に出す、または、心で念じる『詠唱』。


何かの上に描く、または、空中をなぞる『魔方陣』。




戦闘で用意られる魔法は大きく分けて3種類。


相手にダメージを負わす『攻撃魔法』。


相手の詠唱と魔方陣をかき消す『相殺魔法』。


相手の攻撃を防ぐ『防御魔法』。




魔術師同士の戦闘は、いかに早く相手の魔法を相殺するかがカギとなる。




相殺魔法は、相手の魔法に有利な属性の魔法を重ねることで無効化する。




相殺魔法がカギとなる理由は、後出しで相手の詠唱を追い抜けるくらい発動が早いこと。そして、相手の魔法を無効化した詠唱を延長して攻撃魔法に利用できるからだ。


だが相殺魔法は、相手の魔法を迅速かつ正確に読み取らなけれ成立しない。そうため、膨大な知識と卓越したセンスが問われる。




そしてもう一つの理由は、防御魔法は高い強度を誇るが、効果が切れるまで次の魔法に移れないため。


一対一の戦闘の場合、先に防御魔法を使った方が防戦一方になりやすいからである。




私はかつてない集中力で魔法を発動し続け、ハイネも私を倒そうと対抗する。




私が火炎魔法を唱えてハイネを焼き払おうとすると、ハイネは水流魔法でかき消す。


ハイネが雷撃魔法で私を撃とうとすると、私は岩石魔法でそれを阻む。


私が猛毒魔法を描きハイネの毒殺を図ると、ハイネは治癒魔法で無効化する。


ハイネはさきほどの水流魔法を海流魔法に変換するが、私が灼熱魔法で溶かす。


私が岩石魔法を鉱山魔法に置き換えるが、ハイネが樹海魔法で浸食する。




かき消された火炎魔法は居場所を失ってその場で燃え上がった。


阻まれた雷撃魔法は通り道を求めて空中を走った。


無効化された猛毒魔法は中和された液体が地面に垂れた。


溶かされた海流魔法は形を維持できずに弾けた。


浸食された鉱山魔法は音を立てて崩れた。




詠唱しては打ち消され、魔方陣を描いては塗り潰される。


その度に、相殺された魔法の残りが現れては、あたりを荒らして消えていく。




私とハイネはそれを、口と右手と左手でまったく異なる魔法を同時進行で行っていた。




途切れることのない詠唱。


幾度となく書き換えられていく魔方陣。


そして、至る所で発現する魔法現象。




息つく暇も無い超高速の魔法の応酬が繰り広げされていく。




もういくつ魔法を出したかわからなくなるほどこの戦いは続いたが、未だに勝負は拮抗している。


お互い魔力も集中力も切れるのはまだ先であろう。


まるで、暗黒の海底に沈んでいくようだ。一瞬も気が抜けない状況で、相手は一切隙を見せず、魔力とあたりの壁だけがすり減っていく。


相殺された火炎魔法の残骸は私の肌を焼き、相殺した雷撃魔法があげた塵が目や口を痛めつける。




どんなに苦痛でも構っている暇は無い。この程度ならまだ私の日常だ。


日が昇ってもつき合わせてやる。耐えられるものなら耐えてみろ老人が。




長く長く、終わりの見えない決闘が続いていく。




そんな中、次第にハイネに疲れが見えてきた。


そろそろおしまいか?人間にしてはよくやった。




そして、ハイネが一瞬息切れしたのを見逃さなかった。


私は最短でハイネの魔法をすべて相殺すると、三重に構築して相殺不能にした核熱魔法を放った。




魔法は、視界を消し去る程の光と鼓膜が千切れる程の轟音でハイネに襲いかかる。




勝った。仮に防がれたとしても、もう袋のネズミだ。


そう思ったが、すぐに異変に気が付いた。


核熱が届いていない?




「ぐがぁ…」




私は突如左腕に走った激痛に声を上げた。


左腕には無数の氷の矢が突き刺さっている。

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