5章 - 01
「貴様だな、勇者に入れ知恵をしている預言者というのは。私が山を抜けてくるのをわかっていて、あえて無人にして挑発に使うとは、いい趣味をしているじゃないか」
「お前さんが相手じゃ、死人を増やすだけだと預言者様に言われただけさ」
「見え透いた嘘を…、お前みたいな人間が二人もいるものか」
「おや、そんな希望的観測でこんな所に来るとは、四天王っていうのは私が思っていたより大したことがないのかな?」
預言者はだいぶ歳を召した顔をしているが、目からギラギラとした生気を見て取れる。
腰を真っ直ぐ伸ばし、手振り身振りのオーバーアクションからは若さすら感じる。
そして、この計り知れない魔力。楽な相手じゃないのはたしかだ。
預言といっても魔法の一種である。
人・モノ・自然などから様々な情報を集め、そこから起りそうな出来事を予測する魔法である。
魔力が高ければ高いほど、より遠い未来をより正確に視ることができる。
どんなに優れた預言者でも国内の2日後を視るのが精一杯のはずだが、勇者の行動から考えるに、預言を与えていた者は世界規模でかなり詳細な未来が視えるのは明らかであった。
目の前の老婆からは、その実力に見合う魔力がある。
「後ろにいるのはシロエだな。まさかお前、私と戦うつもりか?」
預言者の挑発を無視して、シロエに目をやった。
私の声にビクつくも、鋭い視線だけが返ってきた。その目は殺気を宿し、私から逸れることがない。
すると、疾風の刃が私の顔を横切り、髪を数本切り裂いた。
「おいおい、このハイネ・マッドグレーを無視するとは、やっぱり魔族は無礼極まりないね」
ハイネと名乗った預言者は、疾風魔法を放った手を下げずにまだ挑発を続ける。
「聞いてもいないのに自ら名乗るとは、私の強敵だった人間の一人として覚えていてほしいのか?」
「強敵ってのは悪くないけど、過去形が気に入らないね。タイマンの時はまず名前を名乗るのが人間のしきたりなんだよ」
「そうかい、じゃあ…と言いたいところだが、ずいぶん自分に注意を向けさせるじゃないか?シロエを狙われると困る?それともそう思わせる罠かい?」
私はそう言ってシロエを照準に定める。
それに応じるようにシロエも魔法詠唱の態勢をとるが、ハイネが割って入った。
「わかっちゃいたけど、お前さんからは戦わないと何も得られそうにないね」
ハイネから凄まじい闘気が上がる。さっきまでのひょうひょうとした雰囲気が一瞬で消え失せた。
「それはこちらも同じ。もう語ることはあるまい」
どうやら無駄なおしゃべりは終わったようだ。
シロエが戦闘に参加するのは確定だろう。できれば戦力外判定を出してほしかったようだが、期待はしていなかったようだ。当のシロエが闘志を漲らせていては無理もない。
そうなってくると、シロエの出方にも多少気を付けなくてはならない。
拉致した時は無力であったが、魔力の才能に溢れ、半年の期間があった。
最初から2対1のつもりでタイマンとほざく奴に付いているのだ、何かあるのはたしかであろう。
あとは、ハイネがどこまでシロエに肩入れしているのかだな。
使い捨てで連れてきたのが一番厄介だが、それはさすがに無いだろう。
シロエを生かす気でいるならつけ入る隙はあるが…はたして…。
ちっ、少量の疑心を埋め込まれている。悔しいが初手は相手に軍配が上がっていた。
お互い一撃で勝負を決められる魔力を有している。この差は見過ごせない。
「人間が、私の詠唱速度についてこれるか!?」
私は一瞬も気を抜けない死闘を制すため、大きく吠えて自分を鼓舞する。
「小娘め、私の年季をそう易々と超えられると思うなよ」
私とハイネはほぼ同時に両手を前に広げると、一気に魔法詠唱し、魔方陣を描く。
巨大な魔力の衝突が、空間の魔素に影響を与え渦を巻く。
世界最高度の魔法決闘が火ぶたを切った。
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