4章 - 02

地図上の大陸の半分以上が青色になっているが、残り半分が魔界を中心に赤色に染まっている。


半年前、世界の九割は青、人間界であった。


それが今では、もう少しで逆転する勢いである。




これこそがセカンドムの装置『法壊機』の威力であった。




魔界と人間界の違いは、空間に存在する魔素の性質である。


魔素とは、魔力の源である。


魔界であれば、生きているだけでその魔素を取り込んで自分達の魔力に変換できるのだが、


人間界ではその逆が起こる。魔族の魔力は人間界の魔素に引かれ、空間に溶けていってしまうのだ。




圧倒的な力の差があるにもかかわらず、何百年も狭い魔界に留まるしかなかった大きな原因がそれだ。




その魔素を、魔界の性質に変えるのが法壊機である。




ウィンタラルの地には魔素に関する伝説が多く存在し、王族の魔力が人間界の魔素に酷似していることが、長きに渡る研究であきらかになった。


そして、ひときわ魔力に恵まれて生まれてきたのがシロエであった。




魔素は未だに人工的な搾取に成功していない。


だから、シロエからその魔力を奪い、性質を逆転させ、人間界の魔素を中和する法壊機が開発された。




セカンドムの一族を筆頭に、多くの種族が魔素の探究を続けてきた。


その成果が、この世界地図には広がっている。




「法壊機、予想以上の威力だ。あと数日もすれば、仮に法壊機がなくなっても、世界は魔界の魔素で染まっていくことだろう」




自分達の大きな成果を目の前に、セカンドムは揚々としている。




「あぁ、だからと言って、人間たちに悪あがきの機会を与えるわけにはいかない」




ファーストリアは、人間界の中心を指さした。




そこには、世界地図だというのに大樹が立っている。


これは拡大でない。本当に、世界のどこからでも見える程の巨大な大樹なのだ。




「明日から、魔王軍はここを目指して進軍する」




それを聞いて、サードナーは楽しみだとばかりに不敵な笑みを浮かべる。




「人間たちは総力をあげて、ここの守りに入るだろう。サードナー、フォース、覚悟はできているか?」


「当然だ。かならず勇者はそこにいる。師弟共々あの世に送ってやる」


「もちろんです。この時を待っておりました」




「ただ守っているだけでは法壊機が世界を魔界に変える。人間たちは魔界に別部隊をいくらか送り込んでくるだろう。セカンドムはそいつらの相手を頼む」


「任せてください。学者の私でも魔界ならやりようはいくらでもあります」




「そして私だが、サードナー、フォースと共に最前線へ向かう」




ファーストリアの予想外の言葉に、三人は面食らった。




「ファーストリア様自ら最前線へ…」


「はは、これはすげぇや。だが、俺の邪魔はするなよ」




これは本当に人間たちの最後になるかもしれない。


今では最前線の目の前まで魔界になっている。


人間界でも無類の強さを誇っているファーストリアが、ほぼ全力で戦場に立つことができのだ。


これは、私の出番はないかもしれないな。


私はそう思いながら、人間たちを屠るファーストリアの姿を想像した。




「私の出陣がそんなに楽しみかフォース?」


「あ、その…その通りです。ファーストリア様のお力が、かならず魔王軍に勝利をもたらすでしょう」




また表情に出してしまっていたか?


四天王になり、ほぼ対等な立場になったからか、この方の前だと少し気を許してしまうところがある。


決戦前夜でこれでは不甲斐なく思われてしまうかもしれない。


私は気を引き締め直した。




「この力はすべて魔王様のためにある。全力で戦わせてもらう」




そして、ファーストリアはワインボトルほどの箱を取り出すと、私に差し出した。




「最前線は私とサードナーが担う。だからフォース、お前には真っ直ぐ『法律の樹』に向かってほしい」

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