3章 - 04

敵陣のど真ん中で、宿敵の安否を聞くのは覚悟が必要であったことであろう。


相手によっては名前を聞いただけで激昂していたかもしれない。




部下に捕まった時点で気を失っていたので、それ以降どうなったのかを知りたいのだろうと思った。


どうなった?という聞き方がしっくりこないが、無事ですか?と魔族に聞くわけにもいかなかっただけだろう。




「お前をここへ連れてくるのが最優先だったからな。殺せてはいない。無事ではないだろうがな」




私の全力を受けているので死んでいてもおかしくないが、ここはそういうことにしておこう。




「そうですか」




シロエは再び俯いてしまったが、勇者が生きていることに安堵したのが見てとれた。


これは単に勇者の身を案じているのか、または、自分が助かる可能性を見出したのか。


どちらにしても、私が誘導するまでもなく、勇者がすでにシロエの心の支えになっているのはたしかなようだ。




こんなに仲がいいのなら、あの勇者だと無謀にもすぐに飛んで来そうだな。


私は頭の中でそう皮肉る。




ん?待てよ。本当にすぐに来るんじゃないか?そして、セカンドムもそれをわかっている?


セカンドムは、シロエの精神状態は時間が経てば持ち直すと言っていた。


仮に勇者がシロエを奪還しに魔界に攻めて来るとしても、それはお互いに最終決戦になるであろうから、まだ先のことだと考えていた。


それならば、別に私がこうしてシロエをなだめる必要はないのではないか?


逆に、近いうちに勇者がシロエを奪い返しに来るから、急いでいるのではないか?


というか、奪い返しに来させようとしている…というのは考え過ぎか?




私はセカンドムに一つ疑念を抱く。


しかし、あいつのことだ。問い詰めたところで適当なことを言うかもしれない。


ならばと、私はファーストリアにこのことを聞いてみることにして、保留する。




本来の目的に戻り、私はシロエに勇者の話題を振ってみることにした。




「どうやらアカバネと面識はあるが、勇者としての奴のことはあまり知らないようだな」


「………」




「しかし、王女様とこんなに仲がいいとはな。勇者の仲間には女が多いと聞いていたが、人間にはあれが色男に見えるのか?」


「……………」




「噂によると、かなり暴れてくれているようだが、我らが本気を出せば返り討ちだろうさ」


「………」




「お前を助けるためとはいえ、あんな無茶をするとは、何を考えているのかわからない奴だな」


「………」




「でも、強い男は嫌いじゃないな。魔王様が許してくださるなら、私のモノにするのも悪くない」


「……………」




ふむ、微妙にだが反応があるな。


こんな鬼気迫る状況でもわずかに反応があるということは、こちらの話をしっかり聞いているということ。


そして、シロエの中では重要なことであるということ。




会話の糸口を掴んだが、私は少しあきれた。


自分で振っておいてなんだが、こんな状況で気にできるものか?人間の女はそういうものなのか?


こいつはそんなに勇者に好意を持っているのか。




女が男に執着するのは魔族も同じだ。だからその方向性も確認したのだ。


だが魔族とは反応の仕方が違った。


魔族は嫉妬を向上心の一種と捉えている。だから、男の事でも競争事でもはっきりと主張する。


だが、どうやら人間は逆のようだ。表に出ようとする感情を抑え込んでいる。




私はそれに気づくと、そのはっきりしない態度が癇に障った。

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