3章 - 02

「なんだそれは?」


「勇者の存在だ」




どういう意味だ?私とシロエと勇者は、一戦交えただけだ。


勇者はこの場にいない。さらに、私はシロエをだいぶいたぶっている。そんな私と話をして大丈夫なのか?




「私はあいつを痛めつけているぞ。話なんてそもそもできるのか?」


「シロエ・ホワイトスノーには結界の中に入ってもらう。こちらの顔を認識できなくするな」




私とシエロが会話する上で一番重要な部分はすでにクリアされていた。


準備はできているということか。私は壁際の机に座り、セカンドムの話に耳を傾ける。




「話というのは、シロエ・ホワイトスノーが置かれている状況を説明すること。なるべく詳細に、質問があれば正確に答えて構わない」




セカンドムは組んでいた手を離すと、背もたれによりかかる。




「それで、そのシロエ・ホワイトスノーの今後の扱いだが、あれにはこれから魔力を吸われ続けてもらう」


「吸われ続ける?」


「そう。一定量に達したらそこで一旦終わり、回復するまでは牢で一休み、その繰り返しだ」


「手厚い扱いだな」


「かなりの量が必要だからな。精神を乱されて思うように搾取できなくなるのが一番困る」




なるほど、それで生きたままの拉致が命ぜられたのか。




「気を付けなければいけないのが、ただこの事を言えばいいというものではない。シロエ・ホワイトスノーが積極的にこちらの話を聞く状態でないと効果が薄いと考えている」




セカンドムは腕を組んで首をかしげる。ここが一番難しいとでも言いたげだ。




「相手の心理を誘導する。ましてや人間だ、科学者の私や部下はどうもその分野は苦手でね」




その態度に、私は少しだが腹が立った。




「それで?なぜ私なのだ?人間の感情など、読みたいものではないぞ」


「わかっている。別にお前が得意にしているとも思っていない。ただ、お前は目的のためなら手段を選ばない。私がもっとも評価しているのはそこなんだが、言っていなかったか?」




やると決まれば何でもやる便利屋とでも思っているということか?


今まではどうあれ、四天王になったからには面子も保たなければならない。


この件でなければ、この時点で話は決裂だ。




「先ほども言ったがお前の洞察力は大したものだと思っている。怯えきった人間をなだめることも可能にするだろう。そしてなにより、お前はシロエ・ホワイトスノーと同じ性別、女だ」




涼しげにセカンドムはそう言った。




「あぁ、そうだな」




同じ敵でも相手が男の場合と女の場合、どちらがマシか。あっさりと結論が出た。


私の声に少し怒気が混じる。




魔王軍に入り、女であることで苦汁をなめさせられることは多かった。


当時の私にとって、女であることはただの足枷でしかなかった。




今でこそ、それを武器にしてここまで来たが、未だに女であることの誇りを取り戻せてはいない。


なんとか平静を保ったが、こうストレートに女であることを突きつけられると、一瞬戸惑ってしまう自分に悔しさを覚えた。




「私の役割はわかった。それで?勇者はなんの関係がある?」




私は密かに渦巻いた葛藤を仕舞い込み、次の話題に移させる。




「希望だよ」




セカンドムはさきほどと同じトーンで語る。




「シロエ・ホワイトスノーが先の説明を冷静に聞き理解できれば、こう考えるだろう。『いつか、勇者が助けに来てくれる』とね。殺されない、ひどい目にも合わない。そのうち勇者が助けてくれる。ならば、自分に何ができる?そう、事を荒立てず、勇者を待つことさ」




セカンドムは椅子の手すりに腕を置き、上を見上げる。




「平穏無事にその時を待つ。シロエ・ホワイトスノーができる最大限のことであり、その行動は希望への期待感を高め、心の支えと変わっていく。そして、それはそっくりそのままこちらが望む平常心になる」




ヒヒヒ…。そう笑ってセカンドムの説明は終わった。




「時間が経てば説明などしなくても、慣れてきて問題無くなるだろうがな」




そこまで考えられるなら、セカンドム自身でもできそうなことだが、まぁ、こいつに何を言われても信じる気にはならないかもしれない。魔族の中でもトップクラスで風貌が怪しいからな。




気に食わないところがあるが、概ね納得してしまった以上、私はその役割を受けることにした。




「言っておくが、これは貸しだからな」




私は恩着せがましくそう言うと、シロエの所へ向かった。

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