3章 - 01

私は魔界の城に戻り、シロエの拉致に成功したことを証明すると、シロエをセカンドムの研究所へ連れて行くように命ぜられた。


拉致してきた人間を運ぶなどそれこそ下っ端の仕事だが、シロエは散々苦労させられたので最後まで見届けたい気持ちがあり、こちらからかってでるつもりですらあった。




セカンドムの研究所は、魔界と人間界の境界線付近にある。


最悪の場合に備えて、などと言っていたが、本心は秘密裏に人間界へ行きやすくするためだろう。


ファーストリアもおそらく知った上で黙っていると思われる。




研究所に入り、檻に入れられたままのシロエを研究員に引き渡すと、セカンドムの研究室に案内された。




「見事に成功させたな。さすがフォームといったところか」




不気味に動く巨大な装置を見上げながら、セカンドムは言った。




「そうでもなかったさ」




こいつはどこから情報を得ているかわからないところがある。下手に強がるのは後で弱みにかわる恐れがあるので、私は素直に苦労したことを表現した。




「そうか。まっ、勇者がいたんじゃしょうがないな」




この通りだ。勇者と対峙したことはまだファーストリアにしか報告していない。




「あいつはこの後どうなるのだ?」


「シロエ・ホワイトスノーのことか?」




セカンドムはようやく私と目を合わせると、近くの席に座った。




「もちろんすべて説明する。そのためにお前にシロエを運んでもらったのだからな」


「どういうことだ?」


「一つ、頼まれてほしいことがあるんだ。洞察力に優れたお前に」




セカンドムは机に肘をついて祈るような姿勢になる。だが表情は神をも欺こうと言わんばかりだ。




「いったい何をやらせる気だ。言っておくが、今の私は拒否することも可能だぞ」


「はは、お前の予想通り嫌な頼み事だが、最終的にはファーストリアにいい結果を報告するのを早めることができる。その際は、お前の功績もしっかり伝えるぞ」




私がこいつに不気味さを感じるのは、こうやって誰が相手でも交渉してくるところだ。


たいていの奴は立場や強さを振りかざして命令してくる。ただそれだけだ。


話だけ聞けばセカンドムができた男に聞こえるだろう。だが、私には他人を操るための布石かなにかに思えてならなかった。


それは、私が四天王になるまでに使ってきた手段の一つでもあったからであった。


もしかしたら、ただの同族嫌悪かもしれないが…。




「とりあえず、話を聞こう」




セカンドムの狙いはどうあれ、シロエに関することに違いない。




「わかった。単刀直入に言うと、シロエと話をして精神を少しでも安定させてほしい」


「はっ?そんなこと、魔法でも薬でも使えばよいではないか?」


「今回ばかりはそうはいかない。魔力はその持ち主の精神に深く関係している。魔法や薬では一時的にしか安定させられない。それではダメなんだ」


「常時安定している必要があるのか。しかし、こんな所に拉致されている人間にそんなことできるのか?」




セカンドムはにやりと笑う。




「絶対ではないが、シロエ・ホワイトスノーには効果が見込める強いモノがある」

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