2章 - 05

勇者は右手に持った剣を逆手に持ち返ると、右手首と首をひねる。剣先は地面を擦って真後ろを向いた。


そこからもう一段階ひねりが加わる。勇者は前かがみになり、双剣は空を指す。


そして、双剣は同時に下から上へ振り上げられた。




すると、双剣から鋭い剣撃が放たれ、地面を削りながら私に向かってくる。


それはまるで海面から出た鮫の背びれのようで、近付くにつれて大きくなっていく。




しかし、その剣撃は見た目ほど威力がないのを感じた。


この程度なら蹴り飛ばせる。


私はタイミングを合わせ右足を引いた。




その時、二本の剣撃は私の目の前でぶつかると、まばゆい閃光を放つ。


あの見た目はカモフラージュで、狙いは目くらましだったのだ。




「しまっ…」




腕で目を覆うが遅く、私の視界は真っ白になる。


まずい!私はシロエの髪を掴んでいない方の手を前に掲げると、私とシロエが隠れる程の大きな魔法の障壁を立てた。


目の前で何かが激しく衝突した音がする。


勇者が閃光と同時にあの捨て身技で私に襲いかかってきたのだ。


勇者の右腕から伸びた剣と、私の障壁が火花を散らして削り合う。




このままでは障壁が破られる。


私は衝撃があった個所に魔力を集中させ、密度を高めた。




それを勇者はすぐに察知すると、口に咥えたもう片方の剣でシロエの髪を切り、シロエと私を切り離した。


切った勢いのまま剣を口から離して勇者は叫ぶ。




「走れ!」




シロエは轟音の中、勇者の声を聞き取ると、真横に走り去った。




私は掴んでいた髪を捨て、シロエに手を伸ばすが、紙一重で届かなかった。


その一瞬の隙をつかれ、私は勇者に押し負け始める。




どうする?どうする?


だめだ。この攻撃を受けきるので精一杯だ。このままではシロエが。


私は自分の命よりも任務をとることを決めると、残った手を勇者ではなくシロエへ向ける。


せめて、部下が捕まえられるように足止めを…。




ギリギリの状態でシロエに視点を合わせていると、いきなりシロエが走っている方向の真横へ飛んだ。




「フォース様!」




それはなんと、警備兵の相手をしていた部下が脱出と同時にシロエをかすめ取った瞬間であった。




「おぉ…」




私は思わず、その部下の働きに小さな歓声を上げた。




「くそっ、シロエ―!」




勇者もそれに気が付き、苦い顔をする。


逆に、勝利を確信した私は大きく笑みを浮かべた。




「残念だったなー!ゆーうーしゃー!!」




私は両手で最高密度の障壁を作り、勇者の攻撃を完璧に防ぐと、今度はその衝撃を衝撃波に変えて、勇者を上空へはじき飛ばした。




勇者は唸り声を上げながらきりもみ状態で空へ昇っていく。


手足をばたつかせ、再びあの捨て身技の態勢を取るがもう遅い。


ここから飛び去る魔力以外をすべて火球に変えて、勇者に全弾たたき込んだ。




途切れることない爆発音が、私の高笑いを隠す。


勝った。勝った。勝った。


こんなに屈辱を味わった任務はいつぶりだろうか?


高揚させる解放感もほどほどに、私はすぐに飛び去った。




勇者の生死を確認したかったが、今日はもうよい。




「戻ったら、あいつらをねぎらってやらないとな」




四天王としての初任務は、成功に終わった。

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